黒幕⑩
洞窟の上から降りてきたゴブリン達は着地すると即座に洞窟の中にいるアディル達へと斬りかかった。その動きはかなり洗練されており鍛錬に裏付けされたものである事をアディルは感じる。
(こいつらは確実に訓練されてるな……ゴブリンが独自に軍事訓練をするとは考えづらい……何者かがゴブリン達に軍事訓練を施した?)
アディルはゴブリン達の動きから自然のものではなく軍事訓練を受けていると推測した。
「ま……その辺の事はあとで考えるか」
アディルは
『ギャアアアアアアアアア!!』
腕を斬り飛ばされたゴブリンの絶叫は洞窟内に反射して騒音以外の何ものでもないのだが狙い通りと言うべきものであった。アディルは絶叫を放つゴブリンの顔面を鷲づかみにするとそのまま洞窟の外へ力任せに投げつけた。
投げ捨てられたゴブリンはそのまま地面を転がり歩を進めていたゴブリン達の前で止まるとそのまま苦痛の声をゴブリン達に伝える。
アディルはもはや腕を斬り落としたゴブリンの用は終わったとばかりに次のゴブリンに対応する。
その時、ゴブリンの体に一発の
『ギャアアアアアア!!』
絶叫を放つゴブリンをアディルは容赦なく蹴り出した。足を斬り飛ばしたゴブリン越しに蹴飛ばしたためアディルの足に炎が燃え移ることは無かったのだ。
洞窟の外に蹴り出されたゴブリン達は炎に灼かれながら叫び声を上げる。夜の世界に炎に包まれたゴブリンが苦痛から逃れるために転がり続ける姿はインパクトが大きすぎるものだ。
シュレイも襲いかかるゴブリンの喉を斬り裂きあっさりと絶命させるとそのまま洞窟の外に放り出した。
頭上から不意を衝こうと降り立ったゴブリン達の数は四体、その全てが無残な最後を遂げてしまうという結果に終わった。しかも狙い通りに絶叫を放ってくれゴブリン達に恐怖を与えてくれたのだがらアディル達にしてみれば最高レベルの効果をあげたと言って良いだろう。
「う~ん……私の案は実行できなかったわね」
エリスがやや拗ねた表情と声で言うとアディルは苦笑しながら答える。
「心配するな。また来るから」
「それもそうね」
「次はエリスの案を使うとするか」
アディルがそう言った時に外に展開してきたゴブリン達が咆哮を上げて洞窟に突っ込んできた。
「よし……いくぞ」
アディルはシュレイに声をかけるとシュレイは頷いて入ってきたゴブリン達と斬り結ぶ。アディルとシュレイの剣が振るわれる度にゴブリン達の鮮血が舞い。次々とゴブリン達が地面に転がった。
アディルは順調にゴブリン達を斬り伏せているのだがやはりいつもに比べて体の動きが鈍いのは事実である。全快時のアディルならばゴブリン達を五体斬り伏せる間に六体目がアディルに攻撃を仕掛けるという感じなのだが、現在は二体か三体を斬り伏せる間に一回の攻撃が放たれていた。
その攻撃をアディルは回避するにせよ、
パラパラ……
再び小石が落ちてくるのを察したアディルはゴブリン達を斬り伏せながら襲ってくるのを待つ。一度失敗したためにそこから来ないと思わせておいて再びやるというのはそれほど奇異をてらったやり方では無い。
再び降りてきたゴブリンをアディルは斬り捨てるのでは無く。顔面を鷲づかみにするとそのまま洞窟の壁に叩きつける。後頭部をぶつけられたゴブリンはダラリとした所を見ると気絶したらしい。
アディルは顔面を鷲づかみにした手を離すと後頭部を持ち再び洞窟の壁に顔面を叩きつけ始める。
ゴギャ!! ギョギィ!!
骨の砕ける音が周囲に響き渡りゴブリン達はその様子を呆然と見ている。恐らく顔面を叩きつけられているゴブリンは既に絶命しているだろうがアディルは一切の容赦をする事無くそのまま叩きつけた。
「こんなもんかな……」
アディルは完全に顔面が潰れてしまったゴブリンの死体を襲いかかろうとしているゴブリンに見せつけるとゴブリン達は一斉に顔を
「アディル、交代!!」
そこにヴェルが叫ぶとアディルとシュレイは後ろに下がった。その瞬間にヴェルが
体を生きながら灼かれる苦しみから逃れようと周囲のゴブリンに抱きつき、そこから延焼が繋がり被害が拡大していく。
「行って!!」
そこにエリスが鎧武者に命令を下す。命令を下された鎧武者はそのまま前進し炎に灼かれるゴブリン達をまるで塵を払うかのように追い立て洞窟の外に押し出し、洞窟の入り口を鎧武者ががっちりと固めた。
「ふぅ……」
アディルはその様子を見て一息を付くことが出来る事になった。
(さて……こっちはしばらく大丈夫だな。あっちはどうかな?)
アディルが振り返りエスティルとアリスが備える咆哮を見ると暗闇の向こうから、三つの人影が姿を現したのが見えた。
真ん中にいる人影は黒いフードを被っており顔はよく見えない。右手に一本の錫杖を持っており、左手には直径十五~六㎝の水晶玉を持っている。両隣に立つ人影は
「おいでなすったわね」
「待ちくたびれたわよ」
エスティルとアリスが現れた者達に非好意的な感情がふんだんに盛り込まれた声をかける。
「ふ……美しい容姿に見合わぬ勝ち気な少女達だな。こちらにつけば悪いようにはしないぞ」
フードを被った男の声は不快という表現するしかないというような嫌悪感を沸き立たせるものである。まるで一声発する毎に何かが穢されるという印象を持ってしまうといっても過言ではないものである。
「そう……あなたにつくもなにも私達はあなたの事何も知らないわよ。まずは自己紹介からじゃ無いかしら?」
エスティルの言葉にフードを被った男はくくくと含み笑いをこぼすと口を開く。
「それもそうだな。我は偉大なる錬金術師“キグム=レオナス”だ」
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