竜神探闘⑰
アディルは構えた
（
ジーツィルはアディルの発した竜公月華という言葉が気にかかっていた。僅かではあるがそちらの方に意識が持っていかれたのは仕方の無い事なのかも知れない。
「く……」
ジーツィルが一瞬であるがそちらに気を取られたのを見計らったようにアディルが間合いを詰めるとジーツィルの顔面に突きを放ってきた。凄まじい速度で放たれた突きをジーツィルは辛うじて躱す事に成功する。
「せい！！」
アディルは突き込んだ天尽をそのまま横に薙ぐとジーツィルはその斬撃を横っ飛びして躱した。
（さて、流れは掴んだな）
アディルは心の中でそう呟くとそのまま追撃に入る。太股への斬撃、腹部、太股、胸部、右腕、首へと立て続けに斬撃を放っていく。アディルの追撃は最小の動きで一閃一閃が必殺の斬撃だ。
数十の斬撃の結果、ジーツィルの太股を斬り裂くとジーツィルの動きが止まった。
（よし！！）
アディルは動きの止まったジーツィルにさらに斬撃を浴びせていく。腹部、左腕、胸部、がほとんど一瞬のうちに斬り裂かれ、なおも反撃を行うとするジーツィルの右腕を斬り飛ばした。
長剣を握ったままの右腕が飛び地面に落ちるとジーツィルの目から光が消え、アディルは容赦なくジーツィルの頭部を斬り飛ばした。
頭部を斬り飛ばされたジーツィルはそのまま血を撒き散らしながら倒れ込んだ。
「あれ？」
アディルの口から呆けた声が発せられた。いかに竜公月華を使っているとはいえ、あまりにもあっけなさ過ぎたのだ。
（おかしいな。俺の見立てではこんなもんじゃないんだがな）
アディルが訝しんだところでアディルの見立てが正しかった事が証明された。斬り飛ばされた右腕が体の方に飛んでいきジーツィルのにくっついたのだ。それからすぐに頭部も右腕同様に元の位置にくっつくと目に光が戻り起き上がると同時にアディルに斬撃を放った。
キィィィィン！！
アディルはジーツィルが甦った事に驚きつつ斬撃を受け止める事に成功する。
（く、重い。先程の斬撃を遥かに上回っている）
アディルはジーツィルの斬撃が先程よりも遥かに強力になっていることに戸惑う。
「ふふふ、驚いてくれたようだな」
「お前、一体」
「今度はこちらの番だな」
ジーツィルはそう言うとそのまま力任せにアディルを弾き飛ばした。
「しゃあああああああああ！！」
ジーツィルは咆哮するとアディルに向かって斬り込んでくる。先程の動きとは一段上の動きである。
（下がれんな）
アディルはここで下がることは悪手と捉えるとジーツィルを迎え撃った。
キィィイィィィ！！
アディルの天尽とジーツィルの長剣がぶつかると凄まじい音が発した。
「はぁぁぁぁ！！」
「うぉぉぉぉぉ！！」
アディルとジーツィルは互いに咆哮し激しく技を繰り出していく。凄まじい剣林弾雨の中に身を置いた二人であるが、互いに最小の動きで相手の斬撃を躱しつつ即座に反撃している。
何度目かの必殺の斬撃の応酬を行った時にアディルは横薙ぎの斬撃を放った。その斬撃を読んでいたジーツィルは長剣を斬撃の軌道上において防ごうとする。
しかし、アディルの斬撃は軌道を変えると斜めに跳ね上がるとジーツィルの喉を斬り裂いた。ジーツィルの喉から鮮血が舞った。
（どうだ？）
アディルは油断など微塵もしていない。だがこの時ばかりは喉を斬り裂いた事で事の推移を見てしまおうという意識が働いた。
「ぐ！！」
アディルはジーツィルが左手から放った魔力の塊をまともに胸部に受けてしまいアディルは吹き飛ばされてしまった。アディルは地面に転がるが即座に立ち上がる。
「ふ、死んでないか。それも竜公月華とやらのおかげかな？」
ジーツィルは興味深げにアディルに声をかける。
（ち……喉を斬り裂いたぐらいでは死なないどころかノーダメージかよ）
アディルはジーツィルが喉を斬り裂いたというのに即座に反撃した事でまったく苦痛を与えていない事を察した。
（おかしい、先程までのあいつはダメージを受けていたはずだ。にも関わらず今度はまるで痛覚がないようだった。ひょっとしてダメージを受けていたというのは演技か？）
アディルはジーツィルの痛覚の有無をこの段階でないものとして考える事にした。
（いや、重要なのはそこじゃないな。落ち着け、今考えるべきはこいつの不死身のタネだ）
アディルは心の中で頭を振るとやるべきことを考える。それはこの戦いに勝利するために必要な絶対条件だからだ。
（こいつの首を斬り飛ばした時に何があった……）
アディルはジーツィルが甦った時の事を思い出す。
（……ん？）
そして、一つ気にかかる違和感に辿り着いた。
（なぜあっちが先なんだ？ もしかして……、試してみる価値はあるな）
アディルが感じた違和感はアディルの思考により急激に形になっていた。そこにジーツィルから称賛の声がかけられた。
「素晴らしいな。まさかここまで私と戦えるとはな」
「……」
「それでは遊びは終わりだ」
「これから本気という訳か？」
「ああ、もう一段階上げるとするか」
ジーツィルはそう言うと頭部から二本の角が伸びる。
「それはメイノスの……」
「そうかメイノスはこの姿を見せてなお敗れたというわけか。だが、あいつと同じに見ていれば痛い目を見るぞ」
ジーツィルは言い終わると同時にアディルに斬りかかった。
ゴガァァッァァァァァ！！
アディルはジーツィルの斬撃を天尽で迎え撃ったが、ジーツィルの一撃にアディルは耐える事は出来ずに吹き飛ばされてしまった。すぐさま立ち上がり追撃に備えるがジーツィルは追撃を行ってこなかった。
ジーツィルはアディルを見下ろしながら言う。
「ふ、勘の良い奴だ。今の一撃ただ受けに回っていればお前の首は落ちていたぞ」
ジーツィルの言葉にアディルの頬に冷たい汗が一筋落ちた。
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