竜神探闘⑯
「な?」
アディルは只一言ジーツィルに向かって言う。その声にはこれ以上ない満足気な感情が込められている。
「まさか……ラウゼル卿が」
アディルの満足気な声は正直不快であったがジーツィルはラウゼルが敗れた事に対しての衝撃が上回ったのだ。
「そう驚くことじゃないだろう。お前は、いやお前達は根本的に勘違いしてる」
「勘違いだと?」
アディルの言葉にジーツィルは片眉を上げて反応する。
「お前達は自分達を
「……」
アディルの言葉にジーツィルは沈黙する。ここで否定しようにもマルトス、ラウゼルが立て続けに敗れた以上恥の上塗りでしかない。
「俺とすればお前達がそこまで強者面してられるのかが不思議でならないな。負ければ死ぬという戦いでどうしてそこまで無頓着になれるのか不思議だな」
(無頓着? 何の事だ……?)
アディルの言う無頓着という言葉にジーツィルは何かしら引っかかるものを感じた。
「迂闊にも程があるだろ」
アディルはそう言うとジーツィルの後ろを指差すと鋭い声を上げた。
「今だ!!」
アディルが叫んだ瞬間にジーツィルは背後を見た。背後には戸惑う表情を浮かべただけの
ジーツィルを見ていた
「く!!」
ジーツィルは慌てて振り返りつつ背後に斬撃を放った。
ジーツィルの斬撃は並外れた身体能力から繰り出されたものであり、並の“ミスリル”クラスのハンターであれば胴を両断されていた事だろう。だが、アディルには通じなかった。
アディルは高速で放たれたジーツィルの斬撃を
あまりにも絶妙な受け流しにジーツィルは自分の斬撃が空を切ったと錯覚したほどである。
受け流された斬撃はすなわちジーツィルの隙である。アディルはその隙を見逃してやるような甘い戦闘思想とは対極にいる。がら空きとなったジーツィルの脇腹に向かって斬撃を放った。
シュン……
アディルの斬撃はあまりにも静かにジーツィルの鎧ごと腹部を斬り裂いた。
鮮血が舞いジーツィルは片膝をついた。
(よし、終わりだ)
アディルは勝利を確信し、
「勘の良い奴だ」
ジーツィルは立ち上がるとアディルに向かって言い放った。ジーツィルの声には称賛半分、忌ま忌ましさ半分という感情が含まれていた。
「あのまま間合いに踏み込んでいればお前の首は落ちていたぞ」
ジーツィルの言葉にアディルは忌々しげな表情で返した。
「なるほどな……先程膝を着いたのは演技だったと言う事か」
「いいや、演技じゃないさ」
アディルの言葉にジーツィルはニヤリと嗤いながら首を横に振った。言い終わったジーツィルは何事も無かったように立ち上がった。
(血が止まっている……こいつの能力か?)
アディルはジーツィルの血が止まっている事に気づくとジーツィルの能力であることを想定する。
「不思議だろう。なぜ俺の傷が塞がっているのか」
「まぁ不思議と言えば不思議だがあまり関係ない。というよりもどうでも良い事だな」
ジーツィルの言葉にアディルはニヤリと嗤って言い放った。
「ほう……」
アディルの返答にジーツィルは目を細めた。未知の能力を臭わせることでアディルの動揺を誘うというジーツィルの目論見が失敗した事を察したのだ。
「戦いにおいて相手の情報が分からないというのは確かに脅威ではあるが、意図的に与えられた情報を鵜呑みにするほど俺はお前を信じていないよ」
「何?」
「お前が不死であるはずない。腹の傷が治ったのには何らかのタネがあるというのが俺の見立てだ」
アディルの言葉にジーツィルは皮肉気な表情を浮かべた。その反応を見てアディルはさらに言葉を続ける。
「反論しないか。さてどんなタネかこれから確かめれば良い。だがお前が不死身でないということだけは確実だから気が楽だ」
アディルはそう言うと地面に
「さ、再開だ」
アディルがそう言うとジーツィルに向かって斬り込んだ。ドン!!という効果音が聞こえるかのような強烈な踏み込みであった。
(な、先程よりも遥かに速い!!)
ジーツィルは一瞬で自分の間合いに踏み込んできたアディルの速度に舌を巻いた。先程までのアディルの動きを遥かに超える速度であった。
アディルは間合いに入ると同時に横薙ぎの一閃を放った。空気を斬り裂いた斬撃をジーツィルは自らの長剣で受け止めた。
「な……」
しかし、堪えるジーツィルはアディルの斬撃の強烈さに堪えることは出来なかった。ジーツィルはそのまま弾き飛ばされると3メートルほどの距離を飛び着地する。
「らぁぁぁ!!」
アディルはジーツィルが着地すると同時に間合いを詰めると横蹴りを放った。アディルの横蹴りはジーツィルの胸部に直撃する。
「がはぁぁぁ!!」
ジーツィルはまたも吹き飛び今度は地面を転がった。
「ぐ……」
すぐさま立ち上がったがジーツィルの表情には理解できないという表情が浮かんでいる。アディルの戦闘力が明らかに上がっていた事が不可解だったからだ。
「お前は一体……」
「ああ、お前は強いし何かしらタネを持っているからな。こちらも使わせてもらっている」
「何をだ?」
ジーツィルの問いかけにアディルはニヤリと嗤って答える。
「
「何?」
「俺が編み出した技だ。まぁ実戦で使うのは初めてだがお前相手に圧倒できるのだから十分に使える術だな」
「く……」
「あいにくだがお前に教えるのは名前までだ」
アディルはそう言うと天尽を構えた。
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