毒竜④
実際に
「へぇ……こいつらが
そこにアディルが緊張感を完全に欠いた言葉を発した。その事に
「ふ、貴様らのようなガキが俺達を知らないのも仕方ないな」
エインは気を取り直しアディルに蔑みの言葉を向けるがアディルは逆にエインに向かってくだらない者を見る目をエインとジャルムに向ける。
「お前はアホか?俺が
「なんだと……」
アディルの嘲弄にエインの声が一段低いものになる。それを無視してアディルはさらに言葉を続けた。
「まぁそれは置いといて。お前達はこの宿にいる者達を皆殺しにするつもりか? 大体の事情は推測する事が出来るからな余計な駆け引きは止めろよ」
アディルの言葉にジャルムがアディルに向かって感心したような表情を浮かべ返答する。
「ふん、大したガキだな。俺達相手にそこまで剛胆に接することが出来るなんてな。それとも俺達の恐ろしさを知らない故の結果かな?」
ジャルムの言葉にアディルはため息をつく。その仕草に今度はジャルムも不快気な表情を浮かべた。
「だから、話の通じない奴等だな。俺はただこの宿にいる人達を皆殺しにするつもりかと聞いているんだ。もし、狙いの者達がいるのならそいつらだけ殺して他の者は見逃すつもりなのか?」
アディルの言葉にエインとジャルムの表情が嗜虐的なものに変わった。
「もちろん、この宿屋にいる者は
「そういう事だ。すでに領軍がここを取り囲んでいる。お前達は野盗としての嫌疑がかけられており領軍が捕縛に赴いた結果、抵抗しやむなく斬り殺したという筋書きというわけだ」
エインとジャルムの言葉にアディルはニヤリと嗤う。アディルのその表情に二人の表情は訝しげなものに変わった。アディルの余裕ある態度、いやむしろ待ち望んでいたと言わんばかりの態度に違和感を感じたのだ。
「いやいや……お前達は本当に気持ちよく踊ってくれるな。ここまで上手くいくと逆に罠に嵌めようとしているのではないかと不安になるぞ」
アディルはそう言うと二人から目を一切離すことなくその場にいる者達に向かって言う。
「みんな、聞いたな。確かにこの二人は
アディルの言葉にアマテラスのメンバー、アンジェリナ、エルザム達は同時に頷く。
「そう言えばお前達は前にも俺達のために踊ってくれたな。良い機会だ前回の御礼を言っておくよ」
「何だと?」
アディルの言葉にエインが訝しげな声を上げる。それを聞いてアディルはものすごく人の悪い笑顔を浮かべる。思い切り意地悪が出来て楽しくて仕方がないという感じである。
「以前、
「……それがどうした?」
「
「なんだと?」
アディルの言葉にエインが感情を押し殺した声で返答する。続いてジャルムがアディルに嘲弄を含んだ声で言い放った。
「ふん、あのクズ共か……あんなクズ共に俺達が殺せるとでも思っている所がやはりガキだな」
この言葉にアディルは小さく嗤う。それが気に入らなかったのだろうジャルムがアディルを挑発する。だがその声にはアディルに対して気味悪げな印象を持っているかのような感情が込められているようである。
「なんでそのクズ共がお前達に喧嘩を売ったと思う?」
「何?」
「可笑しいと思わなかったのか? そのクズ共が最凶の闇ギルドである
「……」
「おいおい、そこでダンマリかよ。まさかお前ら俺達が依頼しただけで
「……」
「普通に考えてなぜ断らなかったという事になるよな。それともただ自分達を知らない田舎者が調子に乗ったとでも思っていたのか? もしそうならお目出度いにも程があるだろう」
アディルの言葉にエインとジャルムは沈黙する。少しずつだがアディルに対する警戒心が高まっているのを二人は確かに感じていた。
「俺が何らかの手段でやつらに強制したという事は自然に導き出されるだろうが」
アディルの言葉に二人はもはや返答しない。加速度的にアディルに対する危機感が高まっていく。自分達はとんでもない思い違いをしていたのではないか、自分達は狩りと位置付けていたがこいつは死力を尽くすべき相手ではないかという思いが高まっていったのだ。
もはやエインとジャルムはアディルから視線を外すことは出来ない。アディルの動きの一挙手一投足を見逃すまいと意識をアディルに集中する。そしてそれは他の者から意識を逸らす事を意味している。それを察したヴェル達は動いた。
アリスの姿が煙の様にフッと消えると次の瞬間にはエインの背後に現れており無防備な背中に容赦なく斬撃を繰り出す。
ザシュ!!
アリスのヴェルレムはエインの背中を斬り裂き、斬り裂かれた背中の傷口から鮮血がまった。
「エイン!!」
ジャルムが叫んだ瞬間にアリスの横蹴りがまともにジャルムの腹部に吸い込まれジャルムは吹き飛ぶと壁を突き破り外に飛び出していった。
「くそ……がぁ!!」
深手を負ったエインがアリスに向かって斬撃を放とうとしたがそれよりも早くエスティルが踏み込むとエインの腕を斬り飛ばした。エスティルはそのままエインの髪の毛を掴むとそのまま頭を下げさせそこに膝蹴りを叩き込んだ。
エスティルは現在魔力で形成した鎧を纏っており当然膝も鎧で覆われている。その膝蹴りを受けたエインのダメージは相当なものである。
ビクンビクンと二、三度痙攣したエインは気絶したのだろう動かなくなった。エスティルは動かなくなった会陰をそのまま片手で放り投げた。宙を舞ったエインはそのまま床に激突する。
「壁壊しちゃった……あの、ごめんなさい」
動かないエインに目もくれず、アリスはエルザムにバツが悪そうに頭を下げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます