毒竜③
アルト、ベアトリスとアンジェリナの顔合わせは無事に終わり、お互いに悪い印象を受けることはなかったことに対してアディル達はほっと胸をなで下ろした。
何だかんだ言って人間の相性というのは中々難しくどんな人格者であっても誰とでも良い人間関係を築くことは不可能なのだ。その意味ではアンジェリナとアルト達の相性は良かったと言えるだろう。
そうこうしているうちに夕食の時間となったために宿屋の一階にあるレストランと称して良いだけのクオリティを有する食堂で全員が食事をとった。さすがに護衛の騎士達が一緒に食事を摂ると言うことは出来ないために騎士達は先に食事をとっており、その間は護衛任務についていた。
こうして無事に食事を終えた一行は部屋に戻ることになり休むことになった。アンジェリナはアディル達と同じ部屋に休むことになった。ベアトリスが自分の部屋でと言ったのだが、流石にこれは騎士達から異論が出た。アンジェリナが危害を加える可能性は限りなく低いことは理解しているがそれでも警護の面でそれは認められないと言う内容である。
その事に対してアンジェリナも当然の事と思っていたので別に不快になるような事も無かった。逆にあっさりと認められればアンジェリナの方が騎士達の危機管理能力に対して失望した所であろう。
かくしてアルト、ベアトリス、騎士達三部屋、アマテラスの部屋割りでその日は休むことになったのであった。
そして……深夜になり気配を察した一行は目を覚ました。
「みんな、気付いたな」
「ええ」
「かなりの数ね」
アディル達は即座に起き上がるとそれぞれ武器の用意を行う。アディル達が部屋の外に出てからしばらくすると武装した騎士達が廊下に出てくる。その表情は鋭く引き締まっており完全に戦闘モードに入っているという状況である。
(流石は王族を護衛する任務に就いている方々だな。全員完全に戦闘態勢に入っている)
アディルは騎士達の切り替えに称賛の念を心の中でおくった。ヴェル達も同様の感想に至ったのだろう。騎士達を見る目には頼もしさが含まれている。
「皆さんはアルト、ベアトリスをよろしくお願いします」
「わかった。君達は?」
「俺達は一階に降りて外の様子を伺わせてもらいます」
「そうか。それでは我らは両殿下をお守りする。ただ、当然ながら両殿下が大人しくこの宿に留まるとは思わないでくれ。その時は君達にも両殿下の護衛に入ってもらう事になる」「わかりました。とりあえず我々は一階に降りておくことにします」
「頼む」
アディルと騎士達の会話が終わるとそれぞれ動いた。アディル達とアンジェリナは一階へ騎士達はアルトとベアトリスの部屋へと急ぐ。
一階に降りたアディル達の目にこの宿屋の職員達がいるのが目に入る。アディル達を受付した男性、料理人として働いていた二十代後半の男性、給仕の二十代前半の女性二人が受付前のスペースに集まり何やら話し合っている。
「領軍が取り囲んでいるか……」
「ここに両殿下がいる事を知らないとはいえ……迂闊すぎる行動ね」
「レムリス侯爵は何を考えてるのかしら?」
「まぁ良い。俺達の任務は情報収集もだが、両殿下の安全確保だ」
「分かってますって」
「久しぶりの荒事ね。腕がなるわ」
「ジョアンナ、マリン、油断するな。敵は領軍だけとは限らないからな」
「分かってますよ。エルザム様」
受付した男性が二人の女性を窘めると女性達は姿勢を正した。状況から見れば受付の男性の名はエルザム、給仕の女性二人はジョアンナ、マリンというらしい。
「ジームは私と一緒にここで領軍に応対するようにしよう。ジョアンナ、マリンはベアトリス殿下の護衛に加われ」
「了解だ」
「「了解しました」」
エルザムは完結に指示を出し、部下達はそれに即座に返答する。たった四人であるが領軍に取り囲まれているという現状に気を引き締めているが恐怖を感じている様子はない。
エルザム達はそこで一階に降りてきたアディル達に気付くと優しげに声をかける。
「ああ、君達か。その様子だとこの宿屋が置かれている状況は大まかに理解しているようだね?」
エルザムの言葉にアディル達は頷いた。それからアディルが状況の確認のためにエルザムに尋ねる。
「ここを包囲しているのは領軍ですか?」
「どうやらそのようだ。バカな奴等だな。ここに両殿下がいることを知ってか知らないでかは定かではないがこれは王族に対する反逆に等しいな」
「でもまだ燃料が積まれている段階であって火はまだついてないみたいですね」
アディルの言葉に男性はニヤリと嗤う。アディルの意図を察したのだ。
「確かにそうだな。こちらとすれば火をおこそうとしている君達には頭が下がる思いだ。でも大丈夫かい?」
「はい、当初からの目的でありますから大丈夫です。ただ、皆さんも思っているように領軍が相手かどうかは現段階では不明ですね」
「そういう事だ。領軍はサポート役であり我々を逃さないのが任務かも知れないな」
エルザムの返答にアディル達は考え込む。道中でアディル達一行を襲ってきた野盗達は何者かに操られていた。その何者かが領軍を操っている可能性もあるのだが、アディル達にとっては何の問題もない。
「それでも……問題無いでしょう」
「そういう事だ」
アディルとエルザムは言葉を交わすと互いにニヤリと嗤う。
ドンドンドン!!
そこに宿屋の扉を乱暴に叩く音が響き渡った。それから間髪入れずに怒鳴り声が発せられた。
「開けろ!! 我々は領軍のものだ!!」
怒鳴りつける声には威圧感がふんだんに盛り込まれており、気の弱い者出あれば簡単に屈してしまうのは間違いないだろう。もちろん、この場にいる者は気の弱い者は一人もいないために余裕の表情である。
「開けて良いですか?」
アディルの言葉にエルザムは苦笑して首を横に振る。
「もちろんと言いたいところだが、これは私達の仕事だよ」
「それもそうですね。失礼しました」
「ははは、わざわざあいつらが機会を与えてくれたんだから、それに応えるのは礼儀というものだろう?」
エルザムはそう言うと扉に向かって歩き出し迷わず扉を開けた。その瞬間にエルザムに向かって剣が突き出された。エルザムは咄嗟に突き出された剣を躱すとそのまま後ろに跳んだ。
「ほう……まさか、躱すとは思わなかったぞ」
エルザムに剣を突き出した男は驚きと興味が半々をいう表情で宿屋内に入ってきた。
「ただのネズミではないと言う事か……」
続いてもう一人入ってくる。
「まぁ、この程度なら結論は変わらないさ」
「そうだな」
二人は露骨に蔑んだ視線をエルザムに向けてきた。エルザムは表情を殺し斬りつけてきた男を睨みつける事で対応するが、エルザムの頬には一筋の冷たい汗が流れている。
「まさか……お前らが……」
エルザムの緊張を含んだ声を絞り出した。
「ほう……俺達を知っているというわけか」
男の一人が感心したように言う。その声にはたっぷりと愉悦が含まれていた。
「
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