擬態③

 アディル達は村を一通り見回ると宿屋で戻ってきた。灰色の猟犬グレイハウンド、騎士達はまだ戻ってはおらずアディル達は部屋に入る。


「お前も入れ」


 アディルがドアの所で立ち止まったシュレイに声をかけるとシュレイは戸惑ったような表情を浮かべる。ちらりと女性陣達の表情を確認するが積極的に賛成はしていないが拒否をしている感じはなかった。


「さっさと入ったら?」


 ヴェルが素っ気ない口調でシュレイに言い放つとシュレイは意を決したように部屋の中に入る。


 アディル達はそれぞれ椅子やベッドに腰掛けると村について意見を交わし始める。ちなみにシュレイは立ったままだ。


「まずやっぱり子どもは一人も見なかったな」


 アディルの言葉に全員が頷く。村を見回ったが村に子どもは一人も見る事は無かったのだ。この村の人口は約三百人程であろう。これは家の数と広さから推測した人口の数であるが、世帯数と人口で一人も子どもがいないと言う事はあり得ない。


「やっぱりこの村には何かあるわね。しかも悪い方向にね」


 エリスがそう言うとまたもアディル達は頷く。仲間が頷いた所でエリスはさらに口を開く。


「となると……あの村長も怪しいと見るべきよね……」

「村長が怪しいとすれば当然、今日聞いた事も嘘であると考えた方が良いわよね。問題は何を目的とした嘘かという事よ」


 エスティルの言葉に全員が考え込む。


「私は私達を洞窟に送り込んでそこに住み着いている謎の魔物達を駆除させることじゃないかと思うわ。討伐でハンターを雇うよりも安く費用を抑えることが出来るわ」


 エリスがまず意見を言う。エリスの意見は論理的に何もおかしいところはなく充分な説得力があるように思われる。


「私は村の人達と洞窟に住んでいる魔物とやらが手を組んでいて私達をそこに生贄として送り込もうとしているという考えなんだけどどう思う?」

「充分にあり得る話よね。村の安全を条件に定期的に生贄を差し出しているとすれば組むと言うよりも支配されていると言った方が的確かも知れないけど」


 ヴェルの意見にエスティルが賛意を示す。こちらの方も充分な説得力があった。次にアリスが口を開く。


「逆かも知れないわよ。この村の連中が魔物達を操ってハンターを殺そうとしているという事も考えられるわ」

「俺達は魔物のエサにするつもりと言うことか……」

「うん」


 アリスの意見は可能性としては低いだろう。だが、低いからと言って備えないというのは危険であるとアディル達は考えている。


「アディルはどう思う?」

「そうだな。最悪の展開はすでにこの村の人々は殺されていて何者かが死体を操っているという事だな」

「……ありえるわね」


 アディルの意見にエスティルが賛意を示した。


「根拠は生ゴミが腐ったような臭いだ。もしあれが腐敗のために起こったものであった場合には大量の香で誤魔化すことを想定した可能性はあるんじゃないか?」

「そうね。すでに村人達は殺されているという状態も考えた方が良いのかもしれないわね」


 アディル達の会話をシュレイは黙っていきいているが、心の中では驚きの感情に満ちていた。


(こいつら……一体どんな生き方をすればこんな考え方を持つんだ?)


 シュレイはアディル達の危機に対する考え方に対して驚愕、いや驚嘆していた。ここまで用心深いのであるから灰色の猟犬グレイハウンド、騎士達の罠を食い破る事が出来たのだ。


(これは最初から勝負にならなかったというわけか……)


 シュレイは灰色の猟犬グレイハウンド、騎士達は敗れるべくして敗れた事を認めざるを得ない。用心を怠らないアディル達と相手を舐めていた灰色の猟犬グレイハウンド、騎士達ではそもそも勝負にならない。


「お前は何か意見はないのか?」


 アディルがシュレイに対して尋ねる。アディルの問いかけにシュレイは自分の思考の中から即座に戻るとアディル達に尋ねる事にした。


「意見では無いが、あんた達はいつの段階でこの村がおかしいと思ったかを教えてくれないか?」


 シュレイの言葉にアディルが返答する。


「最初の門番の男達と話した時だな。臭いの事を尋ねた時に特殊な塗料を作っているからという話だったが、なんでそんな臭いのする塗料を村の中で創る必要があるんだ? どこか別の場所に作業小屋でも作って臭いを遠ざければそれで済むじゃないか」

「……あ」

「そして村長との会話でこの村が襲われない理由に香の匂いと言ったが匂いを誤魔化すための匂いをすべて・・・の魔物が嫌うという事がありえるか?」

「……でも、あんた達は何も不審がるような返答をしなかったじゃないか」


 シュレイの言葉にアディルは、いやアディル達は呆れたかのような表情を浮かべる。


「何言ってるのよ。あの場で不審がるような事を言ったらどんなマイナスがあるかわかったものじゃないわよ。せっかく欺そうとしているんだから欺されたフリをするのは当然よ」


 アリスの言葉にシュレイはそこに思い至り恥じるようにうつむいた。


「ではとりあえずこの村での飲食は控えよう。何が入っているかわからないからな。そして当然襲撃の可能性があるから、個人行動は控える事だ」


 アディルの言葉に全員が頷く。しかし、エリスが残念そうな声を出した。


「あ~あ、久しぶりのお風呂……お預けか~」


 エリスの言葉にヴェル達も小さくため息をつく。この辺りはヴェル達女性陣もハンターであり危険を避けるためには当然の事と割り切っているのだ。


「ちょっと待ってくれ……」


 そこにシュレイが声を上げる。


「あんた達が今言ったことを灰色の猟犬グレイハウンド、他の騎士達は知らないぞ」

「だから?」


 落ち着いたアディルの返答にシュレイはやや語気を荒げて言う。


「危険じゃないのか!?」

「もちろん危険だ。だが、大した問題じゃない」

「……」


 アディルの返答にシュレイは二の句が告げないという様子である。その様子を見てアディルはシュレイに言い放った。


「俺はあいつらの命などに何ら責任を持つつもりはない。奴等は自分で俺達にそのように扱われても仕方のない選択を行って実行した。自分達は非道を行ったのだから、その報いを受けている。それだけのことだ」

「く……」

「理解したようだな。さて、お前が独自に警告するなら勝手にしろ。ただし村の者に絶対に聞かれないようにしろ」

「……わかった」


 アディルが注意喚起を認めてくれた事はシュレイにとって譲歩してくれた事に等しいと考えてとりあえず了解の意を示した。

 

 ここで会議は終了すると灰色の猟犬グレイハウンド、騎士達が宿屋に戻ってくるとシュレイは各部屋を周りアディル達の会話を伝えるたのだが、反応は芳しくなかったのであった。


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