擬態②
エイク宅を出たアディル達は村の中に一つだけある宿屋に宿をとった。かなりの大所帯であるが、何とか全員分の宿を取ることが出来たのであった。
部屋割りはアディル達アマテラスで一部屋、
宿屋の二階には六部屋あり、階段に近いところは
部屋割りが終わってからアディル達は下の食堂に行くと全員に言う。
「これから各チーム毎に調査のための準備に入る。ここから先は自己責任だ。お前達が準備不足であっても俺達は一切お前達を助けるつもりはないからきちんと準備をやっておけ」
アディルの言葉に
「それじゃあ、俺達も行こうか」
「了解~」
「それじゃあ行きましょう♪」
アディルがヴェル達にそう言うと全員が立ち上がり宿の外に出て行く。アディル達が外に出てから
外に出て歩き出したアディル達を
「お前は行かないのか?」
ただ一人、シュレイだけはアディル達の後ろを着いてきていた。他のメンバーが剣を帯びただけの軽装なのに対して、シュレイだけは完全武装のままである。シュレイの武装は盾と長剣を背負い、鎧は革鎧、腰の後ろにダガー、左腰にはスリングがある。
「俺の勝手だろ」
アディルの言葉にシュレイは憮然とした表情で返答する。その返答にアディルは苦笑を漏らすがヴェルは気に入らないようであった。
「ふん、私達の尊厳を最低の方法で踏みにじろうとしたクズの仲間が近くにいると落ち着かないのよ。さっさと仲間達と一緒に行きなさいよ」
「断る。俺は確かにクズ共の仲間だがいつまでも一緒にいるつもりはない」
シュレイの言葉にヴェルは疑いの目を向ける。
「ふん、どうだか。どうせ私達油断させて後ろからバッサリとやるつもりなんでしょうけど甘いわよ」
「やかましい!! お前達を殺す時は正々堂々と真っ正面からやる!!」
「良い度胸ね……あなた一人で何が出来るというのよ」
ヴェルの挑発にシュレイはそっぽを向く。これ以上お前と話すことはないという態度である。
「ヴェル、落ち着いてちょうだい。こいつが卑怯な手を使うことを想定しておけば不意を衝かれることはないわ」
エスティルの言葉にヴェルは少し考えた所で小さく頷く。
「それもそうね。私は絶対にあんたを信用なんかしないわ」
ヴェルの言葉にシュレイは唇を噛んで悔しさを堪えているようだ。先程はつい声を荒げて反論したがヴェルの反応も尤もであると察したのだ。
「さて、その辺の話よりも今は優先すべき事があるだろう?」
アディルの言葉にシュレイ以外の面々が頷く。アディルの言葉にヴェルも少しばかり冷静になったらしくアディルに答える。
「もちろんよ……とりあえずこの村を見て回りましょう」
「そうだな。とりあえずこの村を見て回ることにしようじゃないか」
「……は?」
ヴェルとアディルの言葉にシュレイが呆けた様な表情を浮かべる。
「あいつらが動いてくれるから私達が自由に動けるのは助かるわね」
エスティルの言葉にアディル達は頷くと村を歩き始める。シュレイはエスティルの言葉に意味が理解できないのかチラチラとアディル達を見る。正直な所教えて欲しいのだが、今までの流れから考えれば教えてくれる可能性は小さいために言い出せないと言うところであった。
「わからないか?」
アディルが言うとシュレイは小さく頷く。それを見てアディルは自分達の考えをシュレイに伝える。
「この村が怪しいから確認に動くという事だ」
「怪しい?」
「ああ、この村はどう考えても怪しいだろう。今まで一人も見てない」
アディルの言葉にシュレイは訝しむような表情を浮かべる。その様子を見てアディルが口を開く。
「お前はこの村に入ってから子どもを一人でも見たか?」
アディルの言葉にシュレイは沈黙する。村に入ってからの事を思い出しているのだろうが確かに子どもを見た記憶がないのだ。
「そ、それは単なる偶然じゃないのか?」
シュレイの言葉にアディルは頷く。
「だからそれを確認するために動くと言っているんだろ?」
シュレイは言語外に“お前はアホか”という声を聞いた気がした。それは単なるシュレイの思い込みであったかも知れない。だが、シュレイはアディル達が怪しんだ事を全く怪しいと思い込んでいなかった事に対して密かに恥じる。
アディル達とシュレイはそのまま村を散策する。端から見ればその様子は単にのんびりと歩いているようにしか見えない。
「ところでお前はどうしてレムリス侯爵家なんかに仕えてるんだ?」
「どうしてって……それはレムリス侯爵領で生まれ育ったからだ」
アディルの問いかけにシュレイは戸惑いながらも返答する。
「あんたって騎士なんでしょ?」
そこにアリスが割って入る。アリスの問いかけにシュレイは小さく頷く。
「私は騎士道というのはよく知らなかったけど、女を陵辱して殺すのが騎士道というやつなのね。騎士道というのを教えてくれてありがとう。騎士というのが卑しい職業というのがわかったわ」
アリスの痛烈な嫌味にシュレイは唇を噛む。“違う”と言った所で陵辱されそうになった女性陣は決して納得しないだろうし、自分自身もそれを口にするほどシュレイは恥知らずでは無かった。
(騎士の名誉……ではない。こいつらを納得させるためには行動で示すしかない)
シュレイは心の中でそう決意をするのであった。
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