擬態①
村を見つけたアディル達はそのまま村の方に向かうような事はせずに馬車を停める。
「さて、降りるとするか」
「了解~♪」
「わかったわ」
アディルが声をかけるとアマテラスのメンバー達はそのまま馬車を降りて徒歩となる。物資を形成する能力をあまり周囲に知らしめるのは避けた方が無難であるという考えから村に入る前に馬車を消したのであった。
「お前達も降りろ」
次いでアディルは荷台に載っていた
地面に降り立った所でエスティルは馬車同様に荷台の方も消した。これで全員が徒歩の形を取ることになったのである。
「よし行くとしよう。みんな周囲に気を付けろよ」
アディルの言葉にヴェル達は素直に頷く。アディルが気を付けろよと言ったのはもちろん仲間の四人に対してであり
アマテラスを先頭に、
村の周囲には深さ一メートル、幅一メートル程の簡易的な堀が掘られており、村の側には二メートル弱の粗末な柵に覆われている。柵は所々に穴が空いており防御施設としてはそれほど頼りになる感じはしない。
(色々な所に手が回ってないという感じだな)
アディルがそう考えていると門の所にいる二人の男がアディル達を指差すと槍を手に取る。槍の穂先をアディル達に向けたわけではないので気分を害したわけではない。
「こんにちは」
ヴェルが男達に挨拶をする。男である以上、やはり美少女に挨拶をされた方が悪い印象を持たれにくいと考えたアディルがヴェルの背中を二回ほど叩き挨拶を促したのだ。
「なんだい……あんた達は?」
男の家の一人が妙に生気のない声で尋ねる。いや、声だけでなく目は虚ろで肌の血色も悪い男だ。
(ん? 何のにおいだ?)
アディルは男達から立ち上る強烈な香の匂いの中に僅かながら何かが腐ったような臭いを感じ取った。
(この香はひょっとしたら臭いを誤魔化すためか?)
アディルがそう考えるとヴェル達も同様の結論に至ったのか警戒する雰囲気が発せられる。もちろんあからさまに警戒感を相手に悟らせるような事はしない。同じチームのメンバーだからこそ察する事の出来るレベルのものだ。
「どうした?」
返答をしないアディル達に男は訝しげな視線を向けてくる。
「いえ、香を焚いているのですか? 相当な量の香だと思いまして」
アディルの言葉に男達は力なく笑うと返答してきた。
「ああ、この時期は仕方ないんだよ。この村の特産品は“染料”でな。とてもよい染料なんだが作るときに生ゴミが腐ったような臭いが出てこの時期は村中が臭くなるんだ。それを誤魔化すために同時に大量の香を各家庭で焚くんだよ」
「なるほど……大変ですね」
「まぁ、この村の貴重な財源だからね。仕方ないよ」
男の返答にアディル達は納得の表情を浮かべる。その表情を見て門番は再びアディル達に尋ねる。
「それであんたらは何なんだ?」
「ああ、すみません。俺達はハンターチームです。レシュパール山にある洞窟が自然物なのか人工物なのかを調査して欲しいという依頼でやって来たんですよ」
アディルの言葉に男は納得の表情を浮かべる。
「そうか、ハンターか……依頼を出したのは村長だからそっちに行くといいさ」
「ありがとうございます」
男達は槍を下ろすとアディル達を村の中に招き入れた。アディル達は通るときに男達に頭を下げながら村に入る。
村を歩くアディル達十二~三人の集団を村の人達は遠巻きに見ている。悪意を感じる事はないのだがそれでも居心地の悪さを感じるほどの視線をアディル達は浴びることになった。
「とりあえず、村長の所に行くとしよう」
アディルの意見に反対意見など出るわけもなくアディル達一行は村人に村長の家の場所を確認すると村長宅に向かった。
村長宅に到着したアディル達一行はドアをノックすると中から返事が聞こえてくる。しばらくしてドアが開くと四十半ばの女性が顔を見せる。ドアを開けた女性は思いがけない人数に少しばかり驚いたみたいであったが、アディル達の服装、装備などからハンターであると思い至ったのだろう。すぐに無表情に戻った。
「こんにちは俺達はレシュパール山の調査のためにやって来たハンターチームなんです。村長さんにお話がありまして」
「どうぞ……」
アディルの言葉を受けて女性は妙に抑揚のない声でアディル達を招き入れる。
部屋に入ったアディル達はそれなりに大きな部屋に通される。そこには四十後半というような容貌の男性が座って何やら書類を書いている。アディル達が入ってきた事を察すると顔を上げた。
「あんたらは?」
状況から考えて村長と思われる男性はアディル達に尋ねる。その問いにアディルが一行を代表して返答した。
「俺達はレシュパール山の調査依頼を受けたハンターです。お話を伺いたいと思いましてお邪魔させていただきました」
「おお、依頼を受けてくれた方々でしたか。それはどうも村長のエイクと言います」
アディル達がハンターである事がわかるとエイクは立ち上がり頭を下げた。そして手で目の前の椅子を指し示すと着席を促した。その椅子に座ったのはアマテラスのメンバー五人であり他の者達はそのまま立っていた。その光景に少しばかりエイクは訝しげな視線をアディル達に向けるが言葉を発するような事はしなかった。
「早速ですが、レシュパール山にあるという洞窟はどの辺りにあるのですか?」
アディルが早速尋ねる。エイクが依頼主である事は確認済みなので早速尋ねたのだ。
「ああ、問題の洞窟はレシュパール山の中腹にある。君達が入ってきた村の入り口とは反対方向からレシュパール山に入っていきそのまま道なりに進むと右に曲がっておくれ。そのまま進めば見つかるはずだ」
エイクは淀みなく洞窟の場所をアディル達に説明する。
「わかりました。それではもう一つなんですが、依頼では洞窟が人工物か自然物かを確認する事とありましたが?」
「うむ……実は最近になってその洞窟から魔物が現れるようになったのじゃよ」
「魔物?」
「うむゴブリンが主なんじゃがそのゴブリン達が妙なんじゃ」
「妙?」
「手が四本であったり、双頭であったり、尻尾が生えておったりしてるんじゃ。一匹や二匹なら自然に生まれたと考える事も出来るんじゃが、そこから出てくるゴブリン達の大部分がそのようなんじゃ」
エイクの言葉にアディル達も納得の表情を浮かべる。自然でなければ何者かが意図的にそのようなゴブリンを作っていることを意味する。
「なるほど……人工的か自然か確認するというのはそういう事でしたか」
「うむ。もし人工的かがわかれば国に対策を求める事ができるというわけじゃ」
「そうですか。それではもう一つ伺ってよろしいでしょうか?」
アディルの言葉にエイクは頷く。
「そのゴブリン達はこの村を襲ったりしないのですか?」
「うむ、それがないんじゃよ。儂も不思議なんじゃがな。ひょっとしたらこの時期に充満する香の臭いを嫌っとるのかもしれん」
「なるほど……人工的に作られたのならその可能性もありますね」
「その辺りの事も調べてくれると有り難い」
「善処してみましょう」
エイクの言葉にアディルが返答するとヴェル達も頷く。
「それでは今日明日で準備を済ませてから早速調査に入ります」
「頼むよ」
「任せてください」
アディルはそう言うと立ち上がる。アディルが立ち上がるのを見てからヴェル達も立ち上がった。
「それでは失礼します」
アディルがエイクに一礼するとアディル達はエイクの前から退出する。アディル達が退出した後にエイクがニヤリと嗤う。その嗤い顔は酷く歪んだものであった。
そして、エイク宅を出たアディル達アマテラスのメンバーも何かを訝しむ表情を浮かべていた。
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