移動③
オーガ達はそれぞれ武器を構えると突っ込んでくる
至近距離で舞い上がった炎にオーガ達は動揺したようである。
(上手い……意識を逸らしてあの三人が先手を打ちやすいようにした)
アディルはアグードの絶妙のタイミングでの
ネイスが盾を構えるとそのまま突っ込む。ネイスの盾は炎がネイスの体を灼く前に炎を通り抜けさせる。そのすぐ後をムルグ、オグラスが駆け抜ける。三人が通り過ぎてすぐに炎が再びネイスの開けた炎の部分が閉じられた。
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
ネイスは咆哮しオーガに襲いかかる。ネイスの咆哮はオーガの絶叫に匹敵するほどの巨大なものであり、威嚇効果は十分であった。ネイスの威嚇は浮き足立っていたオーガ達の動揺をさらに大きいものにする。
ネイスはそのまま正面のオーガに盾を構えたままぶち当たり、ムルグ、オグラスは左右に分かれるとそれぞれ進行方向上にいるオーガ達に襲いかかった。
間合いに入ったムルグにオーガは棍棒を振り回して迎え撃った。ムルグは振り回された棍棒を頭を下げて躱すとそのまま懐に飛び込み斬撃を放った。ムルグの斬撃はオーガの右脇腹を見事に斬り裂くと鮮血が舞う。
『ゴァァァァァァァ!!』
脇腹を斬り裂かれたオーガの口から苦痛のために絶叫が放たれた。
「す、すごい!!」
アディルの口から興奮したような声が発せられる。もちろん演技からである。アディルの実力ならばオーガなど即座に斬り伏せることが可能なのだが、この場でそれを披露するつもりは一切無いためにミスリルクラスの実力に驚いたふりをしたのだ。
アディルが感歎の声を上げたと同時にオグラスの双剣もオーガを斬り裂いていた。オグラスは素晴らしいと称する速度でオーガの懐に潜り込むと右腕と脇腹を同時に斬り裂いた。
ネイスも勢いそのままにオーガに突進するとオーガと衝突する。衝突を受けたオーガは大きくよろめいた。ネイスの膂力も素晴らしいものがあったのだろうが流石にオーガに衝突して力負けしないのは勢いがあったからであろう。ネイスはオーガがよろめいたのを確認すると同時に斬撃を放ちオーガの左膝を斬り裂いた。
『ガァァァァ!!』
『ゴガァァァァア!!』
負傷したオーガ達は咆哮しムルグ達を睨みつけるが、ムルグ達は構わず攻撃を行う。ここで躊躇するようではとても
ムルグ達は短いが激しい戦闘時間でそれぞれの相手のオーガを斃す事に成功し、最後のオーガロードを取り囲んだ。
『ゴォォォォォォ!!』
オーガロードは咆哮を上げる。その咆哮が仲間(手下と呼ぶべきかもしれない)を斃された事に対する怒りなのか、それとも自分を取り囲む者達への威嚇が目的なのかは正直判断がつかない。
判断がつかないがオーガロードの心が折れていない事は確かであった。
そこに右腕を灼かれ地面を転がっていたオーガにアグードの放った
『ギャアアアアアアアアアアア!!』
耳を劈くような絶叫が放たれる。生きながら炎に灼かれるほど苦しい事は中々無いだろう。仲間の絶叫を間近に聞いたオーガロードはやはりそちらに目が向いてしまうのは当然であった。そしてそれはムルグ達にとってまたとない好機であった。
背後に回り込んでいたムルグが膝の裏に斬撃を放つ。当然、オーガロードは躱す事など出来ずにまともに膝裏を斬り裂かれてしまった。
『ガァァァァ!!』
膝裏に発した激痛にオーガロードは絶叫を放つ。それを合図にオグラス、ネイスがオーガロードに斬りかかった。
オグラスの双剣が棍棒を持つ右腕を斬り裂き、ネイスが大盾で足の甲を打ち付ける。ネイスの大盾には何らかの魔術によって強化されたものなのだろうオーガロードの足の甲はグシャグシャに潰れ鮮血が舞う。
『ギャアアアアアアア!!』
オーガロードの口から再び絶叫が放たれると地面に蹲った。
「じゃあな……」
ムルグが冷たく言うとオーガロードの延髄に剣を突き刺した。ムルグの剣は延髄を貫き、口から血に濡れた姿を見せていた。オーガロードは二、三度痙攣をしたがすぐに動かなくなった。
「すごい!! あんなにあっさりとオーガロードを斃すなんて!! なぁみんな!!」
「ええ、本当にすごいわ!!」
「これがミスリルクラスなのね!!」
アディルは興奮したように話す。ヴェル達も同様に明るい表情と声で
「ははは、どうやら面目は保たれたようだな」
アグードがアディル達の称賛を受けて苦笑しながら返答する。
「はい、本当に凄かったです!!」
アディルはアグードに称賛の言葉をかける。そうこうしているうちにオーガ達を斃したムルグ達がアディル達の元に戻ってきた。手にはゴブリン達の左耳が四つ握られている。討伐証拠として持ち帰るつもりなのだろう。全身を炎に包まれたゴブリンの方は損傷が酷すぎたために不可能だったのだ。
「ムルグさん、オグラスさん、ネイスさん本当に凄かったです!!」
アディルの言葉にムルグ達も顔を綻ばせる。ムルグの人相はかなり凶相なのだが、顔を綻ばせると幾分和らぐ印象であった。
「思わぬ所で戦闘になったが、全員ケガもなく乗り越えられたのは幸運だったよ」
「はい、俺達だけであればこうはいかなかったと思います。
「そこは気にしないでくれ。今回の件では俺達がやった方が確実だったからな」
「そう言ってくれると気が楽になります」
アディルはそう言うと頭をぺこりと下げる。
「さてそれじゃあ道を急ぐとしよう」
ムルグの言葉にアディル達は頷くとレシュパール山への移動を再開したのであった。
* * *
「流石は
一人の男が小さく言うと同行者の五人も同意とばかりに頷く。男達の格好は傭兵のような武装をしている。格好は傭兵のようではあるが、埃にまみれておらず何となく身分ある者達のようにも見える。
「ああ、オーガロードが含まれているオーガの群れをああもあっさりと斃すのは流石はミスリルクラスのハンターというところだな」
「それにしてもあのガキ共に随分と回りくどい事をするものだな」
「そう言うな。俺達はあの妾腹の女を始末すれば良い」
男の言葉に他の男達も頷く。
「しかし……これが騎士のやるべきことと言えるのでしょうか……」
そこに十七~八の少年がぼそりと呟く。金髪碧眼の美少年という形容が似合う容貌をしている少年であるがその表情に浮かぶのは納得いかないというものである。
「シュレイ……貴様は命令に不満があるのか?」
ギロリと男がシュレイと呼んだ少年を睨みつける。
「……いえ、侯爵家に徒なす者を討ち果たすのには何の躊躇いもございません」
シュレイは丁寧な口調で男に返答する。丁寧な口調は少年の不満を隠すためのものである事は間違いないが、男達は敢えてそこに触れる事はしなかった。シュレイをおもんばかってではなく面倒毎を避けただけなのかも知れない。
「よし……それではいくぞ」
男達はそう言うとアディル達を追って歩き出した。
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