動乱予兆篇

動乱予兆篇:プロローグ

 アディル達がヴァトラス王国の王都であるヴァドスで生活するようになり、すでに三ヶ月が経っていた。

 その間、アディル達は数多くの任務をこなし順調にハンターランクを上げていた。アディル、ヴェル、エスティル、アリスは“シルバー”ランクに昇格していた。といってもアディルとヴェルは間もなく“ゴールド”ランクの昇格試験の受験資格を受けれられるぐらいのポイントが貯まっており受験すればゴールドに昇格するのは間違いないだろう。エリスに至ってはすでに“プラチナ”クラスに昇格していた。


「それじゃあ行ってきますね。ジルドさん、マーゴさん」


 任務の準備を整えた朝にアディルがジルドと妻のマーゴに挨拶を行う。ジルドの妻のマーゴは穏やかな容姿でいかにも貴婦人という感じの女性であった。アディル達に対しても悪い印象を持っておらず、食料品を購入するときに何かとオマケをしてくれていた。また、裁縫や料理等をヴェル達に教えてくれるため“アマテラス”の料理、服飾事情は格段に上がっていた。

 ただし、料理についてはエリスはまったく上達せず、ヴェルは裁縫の腕前がまったく上達しなかった。これほど得手不得手がはっきりと別れる事も珍しいとマーゴは苦笑したところであった。


「気を付けて行ってくるんだよ」

「はい、マーゴさんお弁当ありがとうございます」


 マーゴが心配そうにアディル達に言うとアディルが元気よく返答し、弁当に対して御礼を言う。マーゴは任務に出発する際には必ず人数分弁当を用意してくれているのだ。


「ねぇ、マーゴさん、今日のお弁当は何?」


 アリスが目を輝かせながらマーゴに尋ねるとマーゴは顔を綻ばせながら返答する。


「今日はチキンステーキとチーズのサンドイッチよ」

「「「「「おぉ!!」」」」」


 マーゴの返答を聞きアディル達は喜びを隠せない。マーゴのチキンステーキはアディル達の大好物となっていたのだ。マーゴのチキンステーキは、マーゴが特性のソースにつけ込んでから焼き上げ冷めてもおいしいという一品である。


「マーゴさんのチキンステーキだってやったぁ♪」


 ヴェルの嬉しそうな声に全員が笑う。まぁヴェルの言葉はアディル達の気持ちを代弁したものであるのは間違いない。


「今回の任務はどれぐらいかかるんじゃ?」


 そこにジルドがアディル達に尋ねる。


「はい、今回は“レシュパール山”の中腹にある洞窟の調査です。どうやらそこが自然に出来たものか、人工的なものかを確認するという話です」

「レシュパール山か……あそこはかなりの強さの魔物が現れるという話じゃから十分に気を付けるんじゃぞ」

「はい。それから今回は他のハンターチームと組むと言う話です」

「そうか。一緒に行くというハンターチームの名前は知っておるのかの?」

「ええと……確か【灰色の猟犬グレイハウンド】という“ミスリル”クラスのハンターチームです」

灰色の猟犬グレイハウンドか……あまり良い噂を聞かんな。みんな、十分に気を付けるんじゃぞ」


 ジルドの言葉にアディル達は頷く。ジルド程の強者の忠告を聞き流すような事はアディル達は決してしない。ジルドはアディル達の力量に対してまったく不安に思っていないのだが、それでも仲間と思っていた所に不意を衝かれる可能性も十分あったためそこを注意喚起したのであった。


「それじゃあ行ってきます。ジルドさん、マーゴさん」

「気を付けていって来るのじゃよ」

「みんな、気を付けてね」

「「「「「はい!!」」」」」


 ジルドとマーゴの言葉に元気よく返答したアマテラスの面々は灰色の猟犬グレイハウンドとの待ち合わせ場所であるハンターギルドに向かうのであった。



  *  *  *


 ハンターギルドの近くにある酒場に四人の男達がいる。この四人は今回アディル達と共同でレシュパール山の調査に向かう事になっている灰色の猟犬グレイハウンドであった。


「しかし、今回の仕事は楽そうだな」


 一人の男がニヤリと嗤いながら仲間達に告げる。


「ああ、しかもお楽しみが待ってるときたもんだ」

「四人か……おい、ムルグはそいつら見たんだろどんな感じだ?」


 ムルグと呼ばれた男はニヤリと嗤う。ムルグと呼ばれた男の頬にはザックリとした刀痕が入っており凶悪な印象を周囲に強く与えている。


「全員、良い女揃いだぜ。しかもありゃ全員男を知らねぇな」


 ムルグの言葉に仲間達は“ひゅ~”と下品な口笛を鳴らす。


「はは、こいつはいいや。全員が男を知らねぇなんてな」

「男も知らねえで死ぬのは可哀想だから俺達が面倒見てやろうぜ」


 灰色の猟犬グレイハウンドのメンバー達は嫌らしく嗤うと男の一人がムルグに尋ねる。


「それにしてもそのガキ共には男も一人いるんだろ? そいつが手をつけてねぇって事あんのかよ」

「ああ、俺の勘を信じろよ。間違いなくあの女達は男を知らねぇ」

「へっ、ヘタレ野郎ってわけかよ」

「そのガキの前で女共を犯したらどうなるんだろうな」

「悪趣味だな」

「そういうお前だってニヤニヤしてんじゃねぇかよ」


 男達の嫌な嗤いは止まらない。男達にとって今回の仕事は枯れ枝を折るよりもたやすく成し遂げる事が出来ると考えていたのだ。


「それにしてもヴェルティオーネだっけ?」

「ああ、ターゲットはそいつだ。レムリス侯爵家の妾腹の娘って話だがそれなりに戦う術を持っていると言う話だぜ」

「まぁ所詮はシルバーランクだろ。俺達の敵じゃない」

「それに真っ正面から戦うわけじゃ無いからな。油断させておいてズブリだ」

「どっちをだよ」

「「「ひゃははははは」」」


 男の下品な言葉に仲間達全員が嗤う。


「侯爵家からも騎士が来るんだろ?」

「ああ、監視役ってとこだろ」

「へっ……舐められたもんだぜ。シルバー如きに俺達がしくじると思ってんのかよ」


 男の一人がプライドを傷付けられたとばかりに不愉快な表情を浮かべる。それを見た他のメンバーがそれを宥める。


「そういうなよ。作戦なんだからよ。おかげでさらに楽が出来るってもんだろ?」

「……まぁな」

「俺達はその後のお楽しみと報酬で楽しむ事にしようぜ」


 仲間の言葉に不愉快な表情を浮かべていた男は一応納得した様な表情を浮かべる。


「よし、そろそろ時間だ」


 ムルグがそう言うとメンバー達は一斉に立ち上がるとアディル達との待ち合わせ場所であるハンターギルドへと向かった。

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