第14話 初任務②

 アディル達“アマテラス”は翌日、早くにエイサンを出発した。前日のうち旅に必要なものは揃えており、それらの荷物はアディルの封印術により収納されており、アマテラスの面々はほとんど荷物のない状況である。


「それにしても、アディルの封印術って便利よね」

「ああ、俺もここまで使える術とは思っていなかったからすごい助かってる」

「それにしてもあなたの術って不思議ね。私達の使う魔術とは全く違う系統ね」

「ああ、先祖から伝わる術なんだ。だからこの国の術とはかなり異なったものと言えるな」

「まぁ私にしてみれば重い荷物を持たなくて済むというのは大きいわ」

「私も♪」


 アマテラスの一行はとりとめない会話をしながら目的地の場所を目指す。今回の目的地はエイサンから一日ほど行った所にある森林地帯だ。とりあえず薬草を採集してそのままゴブリンロード討伐に入るという流れであった。


「ねぇ、アディル……今回の件って厄介な事になりそうね」

「ああ、ヴェルも気付いていたか」

「うん」


 アディルのいう“気付いた”はエイサンの街をでてしばらくして自分達をつけている者達がいることについて述べたものである。数は三人だがそれほど気配の消し方が上手いわけではなくアディルとヴェルは早々に気付いたのだ。


「ひょっとしてレムリス侯爵家に依頼された奴らかしらね」

「多分そうじゃないかな。今の所レムリス侯爵家以外で俺達に害意を持っている者なんて思いつかないからな」

「アディルの練習相手になるような腕前なら良いわね」

「まぁな、ただいきなり大物って来ないものだよな。大抵は下っ端が襲ってきて徐々に大物になっていくというのが定番だ」

「確かにそうよね。まぁ報酬をケチったりする輩が多いから仕方ないのかもね」


 アディルとエリスの会話に危機感は一切感じられない。むしろいつでも来て構わないという様子であった。これはアディルが相手を舐めているわけではなくむしろ逆である。すでに心構えをしている以上、いつでも来て構わないと思っているだけなのだ。


「おそらくこの段階で襲ってこないと言う事は俺達の寝込みを襲うか、ゴブリンロードとの戦闘中、それとも斃して消耗した所で襲ってくるかというところだろう」


 アディルの意見にヴェルとエリスは頷く。すでに周囲に人目がないというのに襲ってこないのはアディルがあげた理由が最も可能性的には頷けるものだ。


「……ん、ということは相手は私達の任務ミッションの内容を知っていると言う事?」

「そう考えた方が無難ね」

「そうなると、ギルドの中に情報を流すような人がいると言う事?」

「かもしれないし、単に私達がギルドで話していた内容に聞き耳を立てていたのかもね」

「あ~結構、その辺配慮しないで喋ってたからね」


 ヴェルはエリスの言葉に反省したような表情を浮かべる。アディルも迂闊だったという表情を浮かべた。相手は試験に細工をするぐらいの事が出来る可能性がある以上、当然想定しておくべき事であったのだ。


「まぁ、捕まえてどうやって俺達の動向を掴んだかを確かめれば大丈夫さ」

「そうね」

「アディルの言う通りね。私達の今回の任務ミッションは、“薬草採集”“ゴブリンロード討伐”そして“追跡者達の撃破”ね」


 エリスの言葉に二人はニヤリと嗤う。いないと思っていれば不意を衝かれることもあるだろうが、来ると分かってれば備えられるのだ。この段階で追跡者達の有利さはほぼ無くなっていると言って良かったのだ。

 そのまま三人は何事も無いように歩を進め、目的の森林地帯の入り口に到着する。ただし、もう日がかなり傾き始めているために三人はここで野営する事にする。夜間に森林地帯をうろつくような危険で愚かな行為を三人が取るわけもなく野営に適した場所を見つけるとそこを野営地と定めた。


「それじゃあ。準備するか」


 アディルはそう言うと懐から巻物を取り出す。取り出した巻物には封印術の術式が描かれており野営道具一式を持ち運んでいるのだ。


 ボフン


 アディルは巻物を開き円の中心に左手を置き、術式を展開すると右手の方からボフンと煙が上がる。煙が晴れた時には三人の目の前には、調理用の鍋、食器、水の入った樽、食材、薪、簡易的な竈かまど、五人用のテントが現れる。


「本当に便利な術ね」


 エリスが感心したように言う。旅にとって荷物が多ければ多いほど快適性は高まるが、荷物の多さに比例して負担が大きくなる。だが、アディルの封印術で運べばその負担は皆無である。

 また前もって薪などを封印して持ち運べば野営の準備も最低限度で済むとわけだ。野営にとって厄介なのは薪を集めたり、竈を作ったりする手間が意外とかかる事だ。石などがない時には穴を掘り竈にするのだがこれが以外と面倒なのだ。

 今回、三人がかなり日が傾くまで進んだのはアディルの封印術で前もって野営の準備を整えていたからである。もしアディルの封印術がなければ薪を集める必要がありもっと早い段階で野営に入らなければならなかったのだ。


「まぁな、さて料理なんだが」


 アディルが言うとヴェルはサッと目を逸らし、エリスの方もそっぽを向いて口笛を吹いて誤魔化し始めた。ちなみにエリスの口笛はまったく鳴っておらず誤魔化そうとしているのがバレバレである。


「はぁ~なんだお前ら料理も作れないのか?」

「な、何言ってるのよ。女だからって料理を作れないといけないわけじゃないわ!!」

「そうよヴェルの言う通りよ。女だけが料理を作らなければならないなんておかしいわ!!」


 アディルの呆れたような言葉にヴェルとエリスは反発する。その様子は出来ない事を理由をつけて誤魔化そうという状況にしか見えなかった。当然ながらアディルはその事に気付いていたがあえて何も言わない。

 生暖かい目で二人を見ていると旗色が悪くなったのを感じたのか“くっ……”という表情を浮かべ始めた。


「わかったわよ!! アディル頼むからその目をやめて~」


 ヴェルはとうとう観念したのか根をあげたのだが、エリスの方はそう簡単に恐れ入ったりはしない。


「わ、私が料理をすれば確実に食材を無駄にするわよ。それにかろうじて出来上がったものでも凄まじく不味いわよ!! そんな料理で一日の疲れが癒やせる? そう無理でしょ!! 私はみんなのためを思って料理をしないのよ!!」


 むしろどうだと言わんばかりに女子力の低さを披露するエリスにアディルとヴェルは何とも言えない表情を浮かべている。


「あ、なんかゴメンな……」

「エ、エリス……元気を出してよ。そんな悲しいことを堂々と宣言しないで……」

「ちょっと何よこの空気!! なんで私が痛い子みたいな感じになってるのよ!!」


 アディルとヴェルの言葉にエリスが大いに抗議を行う。


「いや、いい、良いんだ!! エリス!!お前が料理が下手なのは神の定めた運命なんだ。取り合えず神を呪え」

「なにとんでもない事言ってるのよ!! あんた神を呪えって罰当たりにも程があるでしょう!!」

「さぁ、料理始めるか」

「話をきけぇ!!」


 そそくさと料理に取りかかるアディルにエリスが抗議を行うがアディルは優しく微笑むだけで答えることはなかった。そしてヴェルがエリスの肩をポンポンと叩きウンウンと頷いている。


「ちょ、ヴェルまで何よそれ!!むき~~」


 エリスのやり場のない怒りが放たれたが、その後、アディルの作った料理が美味しかったのですぐに怒りが収まった。


((エリスって単純だな))


 アディルとヴェルは年上の仲間にそのような感想を持つのであった。

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