第13話 初任務①

 アディル達三人がチームを結成し三日が経った。この三日間はとりあえず今後の方針を話し合うと同時にチームを結成したことをギルドに申請し許可が下りるのを待っていたのだ。

 チームの方針はまずは簡単な依頼を受けてランクを上げていくというもので方針としては至極当然のものである。それから報奨金はチーム共有として四割、残りの六割を三等分という事になった。チームの四割は少々多いと思われそうであるがそこから必要な物資を購入するのでむしろ安い部類に入るといえる。

 なお、チームとして受けた以外の仕事の報酬は3割をチームに入れて、残りは個人のものという事になった。

 少々、金の事について細かく定めるのは金銭トラブルを避けるためには当然の事であった。この点三人の価値観は非常に似通っておりあっさりと方針が決まったのであった。

 チームは単純に組んだと主張すれば良いというわけでは無い。きちんとギルドに登録する必要があるのだ。その理由は自分の身の丈に合わない任務ミッションを新人が勝手に受注することを防ぐためである。これは名前だけ高位のハンターに貸してもらい高ランクの任務ミッションを受け、新人が死亡、復帰不能の重傷を負ってしまう事が多発したために防ぐのが目的であった。

 チームに死亡者などが出た場合にはギルドが調査を行い場合によってはリーダーが責任を取らされるという事もあるのだ。


 アディルとヴェルはハンター試験に合格したての新人でありランクは最下級の“スチール”に過ぎない。だが、エリスとチームを組んでいると言う事で“ゴールド”クラスまでの依頼の受注が可能だった。


 三人はチームを申請する際にチーム名を「アマテラス」と定めた。チーム名を決める際にどうするかとなったときに話の流れで“女神様の名前をつければいいんじゃない”というエリスの意見にヴェルも賛同し、アディルが自分の知っている女神の名前を挙げそれが採用されたというわけである。


 いずれにせよチーム名は「アマテラス」に決定され、この度見事に受理されハンターチーム「アマテラス」は誕生したのだ。


 方針、チームが正式に発足し、三人はチームを結成して初めてハンターギルドにやって来た。目的はもちろん初任務ファーストミッションを受注するためである。

 ハンターギルドにやって来た三人はそのまま掲示板の前に向かう。すでに何人ものハンター達が割の良い任務ミッションにありつくために掲示板に貼られている依頼文書を見ている。

 エリスのおかげで“ゴールド”クラスの依頼まで見られるが三人はいきなり最初から“ゴールド”クラスの依頼を受けるつもりはない。


「え~と……みんなこれはどうかな?」


 アディルが指差した依頼には“薬草採取”とあった。ちなみにランクは“スチール”クラスのものである。


「う~ん……これも受注する事にしましょう……」


 エリスの言葉にヴェルは疑問に思ったのか質問する。


「ねぇ、“これも”という事は一度に複数受けるという事も可能なの?」

「もちろんよ。いくつかの依頼は被っていることは多いしね。例えば魔物の駆除のために山に入ったりするでしょ。その時に薬草を一緒に採取するというのは理にかなってるわけよ」

「確かにそうね」

「でも、あんまり欲張りすぎると依頼を失敗する事もあるから、まずは自分達の実力を考えるべきね。……ところでヴェル?」

「な、なに?」


 説明を終えたエリスはヴェルに向かって少しばかり声のトーンを落として話しかける。そのトーンの低さにヴェルは明らかに狼狽えて返答した。


「この事は私は説明したはずよね?」

「ふぇ、え~と……その」

「まさか、試験が終わってすっかり忘れちゃったのかしら?」


 エリスからの思わぬ詰め寄りにヴェルは少々涙を浮かべている。どうやら、エリスの指導のトラウマが刺激されたらしい。


「まぁ、まぁ、ヴェルは意外と抜けてるんだからそこは許してやれよ」


 アディルがフォローになってそうでなっていない言葉をかけるとヴェルはぷうと頬を膨らませてアディルに抗議を行った。


「ちょっと待ちなさいよ。アディルだって忘れてたでしょう!!」

「そんなわけないだろ。俺はお前と違ってきちんと覚えてるぞ」

「ぐぬぬ……」


 アディルの明確な否定にヴェルは悔しそうに口元を噛んでいた。


(ぐぬぬって言うやつ本当にいるんだな)


 アディルが妙な所で感心しているとエリスもこれ以上はヴェルがかわいそうだと思ったのだろう苦笑を浮かべていた。


「まぁまぁ、それじゃあアディルの言った薬草採集とあと一つ何か選びましょう」

「むぅ~何か上手くあしらわれている気がする」

「気のせい気のせい♪」


 ヴェルの抗議をエリスはさらりと流す。アディルとあった時のヴェルはかなり激しい感じがしたのだが、最近のヴェルは侯爵家での事件に対する怒りが解けたのか年相応の反応を二人に見せるようになっていた。ただし怒りはある程度収まったと言っても侯爵家の連中を許したわけでは無い。


「ねぇ、これはどう?」

「ん?」


 ヴェルが指差した先の依頼文書には“ゴブリンロード討伐”とあった。アディルの選んだ薬草採集の位置と場所が近いために二つを兼ねるのは効率的に何の問題もない。ちなみに“ゴブリンロード討伐”の任務ミッションの適性ランクは“シルバー”クラス以上となっている。

 エリスがその任務を見て考え込む。この辺のエリスの判断基準をアディルとヴェルは信頼しているので答えが出るまでは黙って見ることにしていた。

 考えがまとまったのかエリスは二人の方を見てニッコリと微笑む。


「よし、やりましょう」


 エリスはそう言うとそのまま受付の方に向かって歩き出した。アディルとヴェルはその後ろを付いていく。

 受付にエリスが依頼を受ける旨を伝えるとエリスのランクが“ゴールド”という事もあり問題無く受注することが出来た。


 ちなみに“ゴブリンロード討伐”の任務ミッションの報酬は金貨五枚、ポイントは五十であった。ゴブリンロードはゴブリン達を率いているのが普通なのでそのグループごと斃す必要があるため、報酬は中々多いのだ。

 一方で“薬草採集”の報酬は五㎏ごとに銀貨一枚で、ポイントはわずか二でしかない。ブロンズクラスへの昇進試験を受けるのに必要なポイントが一〇〇であることを考えるといかにも新人の依頼であると言える。だが、新人の依頼と言っても薬草採集は非常に大切な仕事なのでバカにするのは明らかに間違っている。


「よし、それじゃあ。多分泊まりになるだろうからきちんと準備して出発するとしましょう」

「わかった」

「うん♪」


 エリスの言葉に二人は頷くとそのままハンターギルドを三人は出て行った。



「あの三人……か?」

「ああ、ガキのほうはかなりの手練れという話だ。オーガロードを斬り伏せたという話だ」

「その話は確かか?」

「ああ、試験でダンジョンに放たれたオーガロードを斃したという話だぞ」

「ダンジョンと言っても訓練用のものだ。必要以上に恐れる事はない」

「まぁ、多少腕が立つぐらいだろうよ」

「くくく……そういう事だ」


 アディル達がギルドを後にしてから三人の男達が声を潜めて話している。その声は非常に小さく周囲のハンター達にはほとんど聞こえない。


 “アマテラス”の初任務ファーストミッションに忍び寄る影があったのだった。

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