第12話 チーム結成!!

 見事合格したアディルとヴェルはハンターライセンスを受け取り簡単な説明を受けるとギルドを後にした。見事合格した二人はこのままささやかながらお祝いをすることにしたのだ。具体的に言えば食事に出かけるという事にしたのだ。当然ながらアディルとヴェルはエリスも誘って三人で食事をする事になったのだ。。


「お疲れ様~♪」


 エリスが席に座るとまず二人の合格を労ってくれた。エリスの労いを受けてアディルとヴェルは素直に礼を言い、この数日間、筆記試験の指導をしてくれた事に対しても礼を言った。


「あのさ、エリスに聞きたいことがあるんだけど」

「うん」

「エリスって今誰かとチームを組んでるとかあるの?」

「ううん、今はフリーよ」


 ヴェルがエリスに尋ねるとエリスは否定の言葉を口にする。それを聞いた瞬間にヴェルがエリスの手をとるといきなり頭を下げた。


「え、え? いきなりどうしたの?」


 突然のヴェルの行動にエリスは戸惑ったような困惑した様子を見せる。アディルもヴェルの行動に虚を衝かれたらしく困惑の表情を浮かべた。


「お願い!! 私達とチームを組んで!!」


 バッ!!と頭を上げたヴェルは真っ直ぐにエリスの目を見て懇願する。誤解しようもない直球の懇願にエリスも面食らったようである。


「エリスお願い!!」


 ヴェルの懇願にエリスは困った様にアディルに視線を移す。


(エリスは治癒の試験官になるぐらいの腕前……しかも“ゴールド”クラスの実力者……普通に考えれば組んでくれるはずもないが……頼んでみて受けてくれればそれだけで幸運だな)


 アディルはそう判断するとヴェルと同様にエリスに頭を下げる。


「俺からも頼む!! エリス俺達と組んでくれ!!」


 アディルも頭を下げるとエリスも呆れたような表情を浮かべるがすぐに表情を綻ばせる。


「わかったわよ。但し私が今まで貯めたお金はチーム共通のお金になんかしないわよ」

「もちろんだ!!」

「もちろんよ!!」


 エリスの言葉にアディルとヴェルは即座に反応する。二人にとってエリスの価値はお金などでは無いのだ。治癒術、そして若くしてゴールドクラスに昇進した実力と経験は金などより遥かに貴重である。また、アディルとヴェルはエリスの人柄にもものすごく好感を持っていたのだ。真面目で頼りがいがあって、性格もさっぱりしてる。ここまで条件が揃っていながら一緒にチームを組んでくれと頼むのは至極当然の事だったのだ。


「私もあなた達に興味があるからね。一緒にチームを組みましょう」

「よっしゃあああああ!!」

「やったぁぁぁぁ!!」


 エリスの言葉は二人にとって天啓にも等しいものである。エリスの言葉を聞いた二人は今度は手を取り合って喜ぶ。あまりの喜びようにエリスは若干引いた様子であった。


「まぁ、一緒にチームを組む事になった以上、あなた達の事も聞かせてもらうわよ」

「ああ、何でも聞いてくれ」

「もちろんよ。どうぞどうぞ」


 エリスの言葉に二人は畏まりエリスの質問を待つ。


「まず、あなた達って恋人同士?」

「は?」

「え、え?」


 エリスの斜め上の質問にアディルとヴェルはつい呆けた声を出してしまう。しばらくしてヴェルの頬が赤くなり始めたのはエリスの質問の意味に理解が追いついてきたからであろう。


「う、えっと……」


 ヴェルが真っ赤になって返答に困っているとアディルが納得したように頷く。確かに傍目から見ればアディルとヴェルは恋人同士にしか見えない。二人でエイサンに現れ、そのまま行動を共にしている以上、恋人同士であると思われても仕方がない。


「いや、俺とヴェルは恋人同士じゃないぞ。確かにヴェルは美人だし、性格もいい。でも俺達はそういう類の関係じゃない」

「そ、そうね。私達はそう言う関係じゃないわよ……まだ・・」


 アディルのあっさりとした否定にヴェルも同意を示す。最後の言葉は蚊の鳴くような声でありアディルとエリスには聞こえなかった。


「そうなの。良かったわ。もしあなた達が恋人同士だったら独り者の私は本当に辛いもの」


 エリスの声には心からの心情が表れているように二人には思われた。


「なぁエリスって何かあったのか? その……妙に心情が生々……いや何でもない」


 アディルが恐る恐るエリスに尋ねる。アディルが途中で質問を打ち切ったのはエリスがギロリと睨んだからだ。


「良く聞いてくれたわ!! 私が前に組んでいたチームは女三人、男二人のチームだったのよ」


 エリスの口からチーム構成を聞いたとき、アディルとヴェルは瞬間的に悟ってしまう。ああ、これ聞いちゃ駄目なやつだったと……。そのような二人の心情にエリスは気付いてか気付かずかそのまま話を続ける。


「よりにもよって二組のカップルが出来ちゃったのよ!! それから私の前でイチャイチャと……あの二組には今思い出しても殺意を覚えるわ……」


 エリスから放たれる負のオーラにアディルとヴェルは何故か寒気を感じた。当初の頼れるお姉さん的なポジションであったエリスであったが最近はすっかり地の部分を見せるようになっており当初の印象とは大分異なっていた。

 これは三人の距離がある程度遠慮がなくなってきたとも言えるので喜ばしい事であるが、エリスという少女は色々と残念な面も見え始めていたのだ。


「そ、そうか……はは」

「ははは、でもエリスって恋人はいないのは意外ね。すごくモテそうなんだけど」


 アディルは乾いた笑いを受け張ることは出来なかったが、ヴェルはフォローのつもりでエリスに言うがエリスはクワッとヴェルに視線を移す。


「全然モテないわよ!! どうせ私は彼氏いない歴16年よ!!むき~~!!」


 どうやらヴェルのフォローはエリスの古傷を抉ったようである。


(こういう残念な所がエリスがモテない理由かもな……)


 アディルは心の中でかなり失礼な判断を下していた。実際にエリスの容姿は決して悪いものではない。いや、むしろ可愛らしい容姿と性格をしているのだが、所々に出てくる残念な所が異性から敬遠されているのかもしれない。


「何よアディル。なんか文句あるの?」


 ギロリという効果音付きの視線を受けてアディルはブンブンと首を横に振る。わざわざ龍の逆鱗をなで回すほどアディルは危機意識が低いわけではないのだ。


「まぁいいわ。あなた達が恋人同士になったら教えてね。何とか邪魔して別れさせるから♪」


 まったく祝うつもりのない意見にアディルとヴェルは顔を引きつらせる。その反応を見てエリスはニコッと笑うが2人の心は当然ながら安まることはなかった。


「さて、冗談はこの辺にして、どうやらヴェルの方は中々重い荷物を背負ってるみたいね。チームを組む事になった以上、その辺の事情も聞かせてもらうわよ」


 エリスの言葉にヴェルは顔を引き締めると自分の置かれている状況をエリスに話した。恐る恐る反応を見る。


「なるほどね……」


 ヴェルからレムリス侯爵家の事を聞き、しかも喧嘩を売ったという事を聞いたエリスは目を瞑ってなにやら考え込んでいる。


「……少々……険ね……でも……上手く……やれば」


 所々から漏れ出る言葉は何やら頭の中で様々な事を計算しているらしい。その事に対してアディルもヴェルも悪いとは思わない。エリスが二人にそこまで義理立てする理由は無いからだ。

 エリスは目を開いてアディルとヴェルを見る。どうやら計算が終わったらしい。


「二人とも一応言っておくけど、私は戦闘は大して得意じゃないわよ。純粋な戦闘力で言えば“ブロンズ”クラスと言っても良いわ。ということはあなた達は私を戦闘中に守るという事になるわ」

「当然だな。俺はエリスに前線で戦う事を期待していない。俺達を治癒し、治療を期待している」

「私もよ。治癒してくれる人がいるという安心感はなにものにも替えがたいわ」

「その辺の事を理解してるなら大丈夫そうね。わかったわ。あなた達とチームを組むわ」


 エリスの了承にアディル達はほっと胸をなで下ろした。先程了承をもらっていたが、二人がレムリス侯爵家と揉めている事を知ってからの了承は真の意味でのチーム結成を意味していたのだ。


「ところでさ、エリスはどんな計算してどんな結論がでたから俺達と組む事にしたんだ?」


 アディルが尋ねるとエリスはニッコリと嗤って答える。


「もちろん、レムリス侯爵家どれだけ慰謝料をふんだくれるか考えた結果よ。ハンター試験に手を入れてくるなんて妨害をしたんだもん。証拠を集めて侯爵家に突きつけてやるわ!!ふふふ、見てなさい悪は滅び正義がはびこるように世の中は出来てるのよ!!」


 エリスの言葉に二人は聞かなきゃ良かったと即座に思う。おそらくエリスの言う正義にはお金という概念がふんだんに盛り込まれている事だろう。そしてそれを二人は敏感に感じてしまったのだ。

 新たに仲間となったエリスに対してアディルとヴェルは頼もしさと同時に一抹の不安を感じるのであった。

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