第6話 ハンター試験①
都市エイサンに到着したアディルとヴェルは早速、ハンターギルドに向かうことにした。理由は試験内容がどのようなものか情報を知らなければ何も出来ないためだ。そもそも試験がいつ行われるかという基本的なことすら二人は知らないのだ。
「えっと……ガルノド通りをそのまま行けば見えてくると言ってたわね」
「ああ、衛兵さんの話ではそういう事だったな」
「とりあえず、ガルノド通りを探して行くとしましょう」
「そうだな」
アディルとヴェルはエイサンに入る際に衛兵にハンターギルドの場所を尋ねていたのだ。その結果、ガルノド通りと呼ばれる大通りにハンターギルドはあるという事がわかったのだ。
二人は道行く人達にガルノド通りを尋ねながらハンターギルドを目指すと。意外と早くハンターギルドを見つける事が出来た。ハンターの活動地域は都市の外である事も多々あるために都市の門の近くに設置されているのかも知れない。
「意外と簡単に見つかったな」
「うん、幸先がいいわね」
「ああ、それじゃあ行くとしよう」
二人はそう言うとハンターギルドの扉を開ける。すると正面にカウンターがあり、そこには三人の年若い受付嬢が仕事をしており、その後ろで従業員達がそれぞれの仕事をしている。
入って右手の方には掲示板が立てられており、そこにハンターと思われる者達が唸りながら張られた紙を見ている。どうやら掲示板にある好きな仕事を受けるというシステムのようである。
そして左手の方には酒場が併設されており、何人かのハンターらしき者達が酒を飲んでいる。
二人が入ってきた事にハンター達は気付いた様子もない。二人とも殺気、敵意などの負の雰囲気を一切発していないために警戒される事は無かったのだ。
「アディル、あそこ空いたみたいよ」
ヴェルが真ん中の受付嬢の箇所が空いた事をアディルに伝えるとアディルは頷くと真ん中の受付嬢の元に向け歩き出した。
「いらっしゃいませ。ご用件をどうぞ」
ニッコリと微笑んだ受付嬢はアディルとヴェルに応対する。年齢は二人よりも一つか二つ上と言った所だろう。黒髪のショートカットの可愛らしい少女である。受付嬢の制服がとても似合っている。
「はい、俺達ハンター試験を受けたいんですけどどうすれば良いか教えていただけますか?」
アディルの言葉に黒髪の受付嬢は納得したように微笑む。
「はい、それではこちらにどうぞ」
受付嬢はそう言うとふたりを誘導する。その際に職員の一人に受付業務を任せていた。案内された場所はギルド内に設けられた仕切りのあるカウンターである。受付嬢は座り、その向かい側にアディルとヴェルが座る。
「それではまず、お名前を教えていただけますか? あ、私の名前はエリス=リートと言います。こう見えても“ゴールド”クラスのハンターなんですよ」
エリスと名乗った受付嬢はエッヘンと胸を張る。少しばかり自己主張し始めた胸が二人の目に入る。アディルの視線がエリスの自己主張に映った瞬間に、ヴェルがアディルの右足を踏みつけた。ヴェルは表面上はすました表情を浮かべており机の下でアディルの足を踏みつけた事はアディル以外には気付かれていないようだ。
当然、アディルとすれば納得がいかないためにヴェルに向かって抗議の声を上げる。
「お前、何すんだよ」
「知らないわよ。ゴメンネ♪」
「可愛く言ったら許されると思うなよ」
エリスに届かないぐらいの小さい声でのやりとりである。エリスは二人のその様子に首を傾げると二人に尋ねる。
「あの、どうされました?」
「い、いえ、まさか受付嬢さんがハンターでしかも“ゴールド”であることに驚いただけです」
「あ、そうなんですか。よく驚かれるんですよね♪」
エリスは狙い通りという表情でニコニコと微笑む。実際にエリスの年齢で“ゴールド”クラスのハンターというのは将来有望という十分な理由である。
ハンターにはクラスというものがある。下から“スチール”、“ブロンズ”、“シルバー”、“ゴールド”、“プラチナ”、“ミスリル”、“オリハルコン”、“ガヴォルム”である。各クラスによって受けられる依頼は変わっていく。これはハンターが自分の身の丈に合った依頼を受けるようにするためのシステムである。クラスの昇格には試験があり、受験資格は依頼を完遂することで記録されるポイントが規定数に達した時に受験資格が与えられることになっているのだ。
エリスはアディル達とほぼ変わらない年齢ですでに“ゴールド”クラスでありそれだけでハンター稼業が相当長い事を意味している。
「でもハンターであるあなたがどうして受付嬢を?」
ヴェルの問いにエリスはニコニコしながら答える。
「この受付嬢の仕事はギルドの方からの依頼なんです。前の受付嬢さんが御目出度おめでたで急遽退職されてしまったんです。そこで代わりの方が見つかるまでの間、やることになったんです。もちろん、日当は支払われますし、ポイントも稼げるんです♪」
「なるほどそういう事だったんですね」
「はい、それじゃあ。お二人の名前を教えていただけますか?」
「はい、俺はアディルと言います」
「私はヴェルティオーネと言います」
「アディルさんとヴェルティオーネさんですね。家名はありますか?」
エリスは書類に書き込みながら質問を行う。どうやら受験申請書類もエリスが同時に作成してくれているようだ。ひょっとしたら代書料をとられる可能性もあったが、アディルもヴェルもそれはそれで構わないと思い何も言わなかった。
「俺は家のしきたりでまだ家を継いでいないから名乗るわけにはいかないんです」
「私は実家と縁切りしたので家名はないです」
「あ、そうなんですか。それじゃあ、無記名という事で……」
エリスは気にした様子もない。どうやらハンターというのはその辺の個人的な事情には大らからしい。ハンターにとって大切なのは実力であり過去の事ではないという意識からかも知れない。
「それでは年齢は?」
「俺は十五です」
「私も十五です」
「はい、十五っと……おお、私の方がお姉さんですね♪」
エリスの言葉にアディルとヴェルは微笑む。どうもエリスという少女は人を和ませる雰囲気を持っているのだ。
「それでは、あなた達は“戦闘型”、“支援型”、“魔術師型”、“治癒術士型”、“運搬型”、“斥候型”のどれにあてはまるか教えてください。あ、複数回答はありとなっていますから、出来る事を選ぶというイメージでいいと思いますよ」
「え~と、俺はまず“戦闘”、“支援”、“運搬”、“斥候”かな……」
「はい、アディルさんは、“戦闘”、“支援”、“運搬”、“斥候”……っと、ヴェルティオーネさんはどうですか?」
「そうですね。私は“戦闘”、“支援”、“魔術”ですかね」
「はい、ヴェルティオーネさんは“戦闘”、“支援”、“魔術”っと……はい、わかりました。それじゃあ、申請書類は出来上がりましたのでこちらで受理いたします。それで受験料として銀貨三枚ずついただくことになっているのですが……」
エリスが言い出しづらそうに言う。お金に関する事はトラブルになりやすいために緊張したのだろう。
「「はい、わかりました」」
アディルとヴェルティオーネは懐から銀貨三枚づつとりだすとエリスに渡した。エリスはニッコリと微笑んで銀貨を受け取るとその場で受験票を取り出すと手早く記入し二人に手渡した。
「試験期日は八日後になります。場所はハンターギルド、時間は午前九時集合で試験開始は九時半となります」
「「わかりました」」
「それから試験内容は“筆記試験”と“実技試験”となっています」
「「筆記……」」
エリスの言葉の筆記という言葉にアディルとヴェルは顔を引きつらせる。二人とも筆記試験というものを受けた事が無かったのだ。二人の様子を見たエリスが安心させるように言う。
「大丈夫ですよ。そんなに難しい問題ではありませんし、実技との合計ですので、極端な話三十点以上取ればなんとかなりますよ」
「そ、そうですよね」
不安そうなアディルの返答にエリスは苦笑しながら言う。
「そんなに心配なら二人とも教えてあげましょうか? もちろん有料ですけど♪」
エリスの言葉にアディルもヴェルも即座に頷く。有料という言葉はあったが、それは当然の事でありそこに不快感を持つ事は一切無かった。
「それじゃあエリスさんよろしくお願いします!!」
「お願いします!!」
二人が素直に言ったため、エリスもニッコリと微笑んで頷く。
「わかったわ♪ 絶対に二人を合格圏内に八日間で仕込んでみせるわ!!」
「「はい!!」」
「あ、それから、私の事はエリスでいいですよ。年はお二人の一つ上ですし、敬語も結構ですよ」
「それじゃあ、お言葉に甘えます。エリスこれからよろしく頼む。それから俺にも敬語は結構だ」
「私も言葉に甘えます。エリスよろしく。私にも敬語は不要よ、それから私の事はヴェルと呼んでね」
「わかったわ。アディル、ヴェルこれからビシバシいくわよ」
エリスはニッコリと笑って2人に言う。アディルとヴェルはこの時、最良の教師を得ることが出来たと喜んだのだが、そうではないことにすぐさま気付くことになる。エリスの教え方は非常に的確だったのだが、厳しさも凄まじかったのだった。
試験までの八日間の筆記試験に対してアディルとヴェルはトラウマになったぐらいであった。
そして二人が地獄から解放される心待ちにしていた試験当日を迎える事になった。
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