第7話 ハンター試験②
本日はいよいよハンター試験当日である。ハンターギルドに時間通り到着したアディルとヴェルはゲンナリとした表情を浮かべていた。昨日までエリスの地獄の猛特訓にすっかりやられていたのである。
ちらほらと受験生らしき者の姿が見える。受験生のほとんどは十代半ばから二十代前半といった所である。受験生の数は大体三十人前後であった。
「はぁ……ハンター試験がここまで待ち遠しい事になるとは思わなかったな」
「うん、エリスの特訓に比べれば私が今まで受けていた苛めなんて大した事じゃ無かった事に気付かされたわ」
「俺もさ……」
アディルとヴェルは乾いた笑いを浮かべながら妙に達観した表情を浮かべていた。
「二人とも、今日は頑張ってね♪」
「「ひぃ!!」」
そこに対称的に元気いっぱいのエリスが声をかけた時、二人の口から小さな悲鳴が上がった。二人の精神力は鋼以上に固いはずなのに条件反射で悲鳴が出てしまうぐらいであった。
「ちょっと二人とも何悲鳴を上げているのよ」
「あはは、ゴメンゴメン」
「ははは」
口を尖らせてエリスは二人の行動に対して抗議を行う。アディルとヴェルはエリスとこの八日間でお互いにすっかり打ち解けていた。ただそれはそれ、これはこれで地獄の特訓はアディルとヴェルにとって軽いトラウマを与えていたのだ。
「ところでエリス、その格好は?」
ヴェルがエリスに尋ねる。エリスの今日の格好は受付嬢の制服ではなく、白いローブに手にはエリスの身長ほどの錫杖があった。
「ああ、言ってなかったけど今日は私も試験官なのよ。二人は治癒に対して記載してないから私は直接、二人の試験には関わらないけどね」
「そうだったのね。でも私達に試験勉強を仕込んでい大丈夫なの?」
「大丈夫よ、私は筆記試験には完全にノータッチだし、関わりの無いハンターが受験の指導をするというのは珍しい事じゃ無いのよ」
「へぇ~そうなんだ」
「ところで二人とも筆記試験ばっかりやってたけど実技試験は大丈夫なの?」
エリスの言葉にアディルとヴェルは大きく頷く。
「大丈夫だ。俺達にとって最大のキモンは筆記試験だ」
「キモン?」
「ねぇ、キモンって何の事?」
アディルのキモンという言葉にヴェルとエリスはそれぞれ首を傾げながら言う。その様子を見てアディルは“あぁ”という表情を浮かべると二人に説明する。
「ああ、キモンってのは厄介事とか関門の事だ。親父殿がよく言っていたな」
「へぇ~そんな言葉があるんだ」
「私も初耳~」
アディルの説明に二人は一応納得したようである。実際のキモンという言葉の意味はそうではないのだが、アディルの一族に伝わるキモンの位置づけはそうなっていたのである。
「それじゃあ、すぐに試験が行われるから二人ともがんばってね。もし、巫山戯た点数だったときはわかってるわね♪」
エリスがニッコリと笑って2人に言う。表情は笑顔であるが目が笑っていないためにアディルとヴェルは顔を硬くして何とか笑顔を見せる。
(これって、巫山戯た点数を取ったら……)
(何が何でも……半分、いえ七割はとらないと……)
ゴクリと唾を飲み込みながらアディルとヴェルは頷いた。二人が頷いた事でエリスは満足したのか今度は目にも笑みが含まれた。
「じゃあ、二人とも頑張ってね。私も試験の準備をするから」
「ああ、期待を裏切るような事はしないから安心してくれ」
「だ、大丈夫よ」
アディルとヴェルはそう言うと大急ぎで試験会場に入っていく。急いで言ったのはもちろん試験の最終チェックを行う為である。
結論から言えば筆記試験はエリスの指導のおかげか二人とも高得点を叩き出すことに成功した。アディルが百点満点中“九十二点”、ヴェルが“九十八点”であった。午前中に行われた試験の結果はすぐに受験者に伝えられ、エリスはその点数を見てから大きく頷いたのであった。
そして午後から実技試験が行われることになったのである。
* * *
試験の説明の時間になり、アディルとヴェルは説明会場へと向かう。といってもその試験内容は非常にシンプルなものである。それぞれの試験官が受験者の技量をチェックするというもので、試験の申し込みの際に記入した各分野の試験を受けることになるのだ。となると全ての項目を記入した方が合格の可能性が大きくなると思われがちだが、不得意な部門も試験に入れてしまうとあまりにもお粗末な結果になると大幅に減点されてしまうのだ。そのため、どの受験者も大抵一つか二つの受験だけ行うのが一般的であった。
アディルは、“戦闘”、“支援”、“運搬”、“斥候”の四つ、ヴェルは“戦闘”、“支援”、“魔術”の三つとなっている。
「アディルは四つ……私は三つか……」
「ああ、そうなると一つだけ書けば良かったという気もするな」
「そうね。エリスも教えてくれれば良かったのにね」
アディルとヴェルがため息をつきながらぼやき出す。エリスが前もってその事を伝えてくれていれば二人とも効率を重視して一つだけ受けるつもりだったのだ。
「そりゃ言われてないからね♪」
いきなり声をかけられ二人が振り返るとそこにはやはりというかエリスが悪戯成功という表情で立っていた。いかにも“にっしっし”という表情であり二人は毒気を抜かれてしまう。
「“聞かれてないことには答えない”というのはハンターの鉄則よ。簡単に自分の持って射る情報をペラペラ喋る方が問題とは思わない?」
エリスの正論にアディルとヴェルは“うっ”と返答に詰まる。エリスの言うとおりハンターにとって情報は生命線であり、ただで手に入るものではないのだ。その事に思い至らなかったアディルとヴェルが甘かったと言わざるを得ない。
「それに二人とも得意分野なんだから別に減点対象になんかならないでしょ?」
「まぁ、そりゃそうなんだが」
「だったら、ゴチャゴチャ言わないの、それに試験科目を何受けたかって結構重要よ、ハンターが応援を頼むときに受験科目を見る事も結構あるんだから」
エリスの言葉にアディルとヴェルは納得の表情を浮かべる。ハンターの仕事は多岐に渡っており当然ながらハンター同士で手を組むことは結構あるのだ。その時に出来る事が多いと当然そのような要請ももらうことになる。そのため受験科目が多いと後から思わぬ恩恵を受けることが出来るのだ。
「なるほどな。そういう話を聞くと四つでも意味があるように感じるな」
「そういうこと。それじゃあ、私は試験官の仕事があるから二人ともがんばってね」
「ああ、合格の報告をさせてもらうよ」
「エリスのおかげで筆記試験はかなりの高得点だったわ。ありがとう♪」
アディルとヴェルの言葉を受けてエリスは微笑むと試験会場の方に歩いて行った。
「よし、それじゃあ。俺は斥候の試験から受けてくるな」
「うん。私は魔術の方から受けることにするわ」
「それじゃあ、後でな」
「うん」
アディルとヴェルもそれぞれの試験を受けるため、ここで一端単独行動をとることにした。
ハンター試験の実技試験が始まるのであった。
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