第8話 ハンター試験③
アディルは“斥候”の試験を受けるために試験会場の赴くとそこには四人の受験生がすでに待機している。男性三人、女性一人という構成だ。男性は全員が十代後半から二十代前半、女性も大体同じぐらいだ。仲良く話しているところから顔見知り、もしくは仲間なのかも知れない。
アディルに気付いた四人はにこやかに笑いかけてくる。
「君も試験を受けるのかい?」
短めの髪の男性が話しかけてきた。その表情にも声にも一切の負の感情は含まれていない。
「はい、斥候は大切だと父に言われておりまして修練を積んで参りました」
アディルの返答に四人の受験生達も顔を綻ばせる。礼儀正しい対応をされて悪感情をもたれることはほとんど無い以上、当たり前の反応である。
アディルは基本的に礼儀正しい少年であり、敵対者であっても敬意を持つに相応しい者には礼儀を守る。ただし、非道、外道な輩には全く容赦する気はない。レムリス侯爵家の面々に礼儀を一切守らなかったのはそのためである。アディルは礼儀を守るべき者とそうでない者をきちんと区別しているのだ。
「そうか。俺達は同郷でな。ハンター登録しておくと何かと便利なんで取ることにしたんだ」
「そうそう、俺達は全員が猟師でね。ハンター登録すると色々な情報も手に入れられるし、消耗品とかも値引きできるからね」
気の好さそうな青年達でニコニコとしながら自分達が猟師である事を伝えてくれる。
「猟師という事はみなさんはハンター登録が終わったら地元に帰られるのですか?」
「ああ、そのつもりだよ。俺達はあくまで猟師、ハンターは登録しておいた方が何かと便利なために取得しようと思ったんだけだよ」
「でも、それなら審査で取消とかになったりしないですか?」
アディルは青年達の言葉に首を傾げながら尋ねる。エリスとの勉強の中でハンターとしてポイントを一定数稼がなかったハンターは廃業したとみなされハンター登録を抹消されてしまうのだ。
「それは大丈夫、私達も猟師として活動するのがメインなんだけど、ギルドに来る依頼の中には私達が獲物としてとった獣や魔物がふくまれているのが結構多いのよ。だから審査に落ちる事は絶対に無いのよ」
「なるほど」
アディルは紅一点の女性に納得したような返答を行う。確かに普段の生活にギルドの依頼が含まれておれば普段通りの狩猟を行えばそれだけでポイントを獲得することも可能だろう。
「それでは試験を始めますので受験者のみなさんはこちらにどうぞ」
そこに試験官ぽい二十代後半の体格の良い青年が呼びかけるとアディルとその四人の受験生は試験官の元に行くことなった。アディル達が試験官の前にいくと試験官の青年はさっそく説明を始める。
「今回の試験の内容は非常に単純です。斥候というのは本隊の進行方向に前もって危険がないか確認するのがメインの仕事の一つになります。そこでギルドの訓練施設のダンジョンがありますのでそこに入って中の状況を試験官である私に伝えてくれれば終了です。ただし今回の受験者は戦闘行為は一切禁止とします。もし、戦闘行為を行った場合は大幅減点という事にさせてもらいます」
戦闘行為禁止という言葉に全員が疑問の表情を浮かべる。戦闘行為を禁止される理由がわからないのだ。
「その表情を見ると納得されていないみたいですね」
試験官の男性はにっこりと笑ってアディル達に言う。その表情に不快感は一切ないために別段気を悪くした様子もない。
「いえ、納得というよりも疑問なんです。なぜ戦闘行為を禁止されるんですか?」
「簡単な話です。この試験が“斥候”であり“戦闘”ではないからです。もちろん斥候にもある程度の戦闘能力は必要ですがそちらは戦闘の実技試験で発揮していただければいいのです」
試験官の男性はきっぱりと言い放った。試験官の男性の言葉にアディル達が納得の表情を浮かべるとそれを見た試験官はニッコリと顔を綻ばせる。
「それでは納得したと言うことで私についてきてください」
試験官はそう言うとそのままギルドの一室に通されるとそこには床に一つの魔法陣が描かれていた。
「これは試験会場までみなさんを運ぶ転移陣です。全員、魔法陣の中に入ってください」
転移陣とは字の如く転移術の魔法陣の事であり、転移陣同士で結ばれているところであれば一瞬で移動できるという便利な術である。確かに便利なものである管理は基本、国が行っている。使い方次第にとっては犯罪行為し放題の転移術を国が管理するのは至極当然の事である。だが、実際には貴族や裕福な者達が転移術士を雇い作成することも多々あったのだ。
この転移陣はハンターの中で転移術を修めた者がギルドの依頼を受けて製作したものであろう。
「ほぉ~転移って初めて経験するな」
「私も」
「俺もだ」
四人はそれぞれそう言うとそのまま転移陣に入り、アディルもそれに続く。
「それでは行きましょう」
全員が魔法陣の中に入ると試験官も中に入る。すると視界がぐにゃりとゆがむが視界が戻った時にはアディル達の見た景色は別の部屋のものに変わっている。
「それではついてきてください。すぐに試験を始めます」
試験官はそういうと扉を開けるとアディル達の目の前には地下に続く階段状の入り口があった。試験官はそこで振り返るとアディル達に言う。
「それでは皆さんには今からこのダンジョンに入って情報を仕入れてもらう事になります。試験は同時に行います。なお時間は三十分です。この三十分というのは試験終了という意味でありそれまでに試験官に仕入れてきた情報を渡してください。三十分過ぎてからダンジョン捜索が終わりと言うことではありませんよ」
試験官の言葉にアディル達は頷く。アディル達が頷いたのを見て試験官はさらに言葉を続けた。
「それからこのダンジョンに出てくる魔物は本物では無く魔力によって具現化させた偽物です。ただし偽物と言っても本物と習性、戦闘力などの能力はほぼ変わりません。なぜこのような事を伝えるかというと、偽物の数は我々がコントロールしていますので数が減ると戦闘禁止を破ったとみなします」
試験官の言葉に全員が納得の表情を浮かべる。
「質問よろしいでしょうか?」
「はい」
「五人まとめて試験を行うという話ですが、我々は一つのチームに属する者扱いなのか別チームなのかを教えてください」
女性の質問に試験官は“ああ、忘れていた”という表情を浮かべると質問に答える。
「今回は同じチームに属するという事になっています。すみません失念していました」
試験官は頭をかきながら恥ずかしそうに返答する。これだけで、この試験官の人柄が伝わってくるというものであった。
「それでは五分後にダンジョンに入ってもらいます。一人でもダンジョン内に入った段階で試験スタートとなります」
「「「「「わかりました」」」」」
アディル達の返答に試験官は頷くと一歩下がる。
「即席のチームだが。よろしく頼むな」
最初にアディルに話しかけた男性がアディルに向かって言うとアディルは返答する。仏に考えればこの四人は同郷の猟師仲間という話なのでむしろ即席でも何でもないと思って良い。むしろアディルがこの四人の中に入ることでチームワークを乱す可能性があったのだ。
(ひょっとして今回の試験はそれを踏まえて同じチームに属するという設定にしたのかも知れないな……もしくは……いや、可能性はあるから気を付けておくか)
アディルは今回の試験について少し考えるのであった。それはそうと同じチームである事からアディルはまずは名を名乗る必要性を感じ、すぐさま自己紹介をしておく事にした。
「俺はアディルと言います。今回だけのチームですが一生懸命頑張らせていただきます」
アディルはそう言うと四人に一礼する。四人はアディルの自己紹介を受けて次々と自己紹介を始める。
「俺はディランだ。よろしくなアディル」
初めにアディルに話しかけた男性がまず名乗る。何かとリーダーシップを取るところを見るとこのチームのリーダーと見て良いだろう。
「俺はキーム、よろしく」
次にニコニコしながら髪を短く刈り込んだ男性が名乗る。肌は健康的に日焼けをしており精悍そうな感じだ。
「僕はエズリオだよ。アディル君よろしくね」
メガネをかけた青年が優しい声で名乗る。いかにもインテリ風の男性であり、他の男性にくらべて少々線が細い印象がある。
「私はエルザよ。よろしくねアディル♪」
最後に紅一点の女性はエルザと名乗った。紅い髪を肩口で切りそろえ、ニコニコと笑うエルザはさぞ男達から人気がありそうな感じである。おまけにプロポーションもなかなかであり出るところがでて引っ込むべき所は引っ込んでいるというプロポーションである。
「はい、それではみなさん。よろしくお願いします」
自己紹介が終わり即席であるがダンジョン探索チームがここに誕生したのであった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます