竜神探闘⑳
「さ、始めましょうか」
アリスはウルグの延髄を貫いた竜剣ヴェルレムを抜き放ち一振りして血を払うと鋒をイルジードに向けて言い放った。
「生意気な小娘め。あの世の両親の元へ送ってやろう」
「あらあら、私に勝てると思っている所が叔父様の愚かな所よ」
イルジードの挑発をアリスはさらなる挑発で即座に返答する。アリスの挑発にイルジードの不快感は急激に跳ね上がった。
「あなた達は周りのやつらをやりなさい」
アリスはちらりと生き残った
「言っておくけど私はイルジードに集中するからあんた達がやられそうになっても助けたりしないわよ」
「わ、わかってます」
声を震わせロジャールが返答するのをアリスはもはや興味がないとばかりに返答する。
(それじゃあ行きますか)
アリスは心の中でそう呟くと凄まじいばかりの殺気をイルジードに叩きつけ始めた。その余波は歴戦のイルジードの護衛達をすらすくませるものであった。
「小娘が」
イルジードもまた凄まじい殺気でアリスに相対する。アリスとイルジードの間の空間には空気の代わりに両者から放たれる凄まじい殺気が満ちている。もし、気の弱い者が両者の間に立てば間違いなく心が壊れてしまうであろう。
「貴様の父、エランは卑怯者であった。お前もその卑怯者の血を色濃く受け継いでいるようだ」
「なんですって!!」
イルジードの言葉にアリスは激高したかのような反応を示した。アリスの表情は怒りのために激しく歪んでいる。それを見てイルジードは嫌らしく嗤う。
「ふん、お前はあの時何があったかは知らぬだろうから教えてやる。そして、なぜレグノール一族が私を指示しているのかもな」
「……」
イルジードの言葉にアリスは沈黙する。その表情を見てイルジードは自分の言葉をアリスが聞くことを選択したととらえる。
「あの時、私はお前の父に諫言しに行ったのだ」
「諫言?」
「そうだ、領内で違法薬物が出回っておりそれにエランが関わっている証拠を私は掴んだのだ。そこで私はエランにそれを止めるように求めに行ったのだ。ところが逆上したお前の父は私を殺そうとして返り討ちにあったのだ」
「嘘よ!!」
「嘘ではない!! お前の父はあの時私を油断させ後ろから斬りつけてきたのだ!!」
「……そ、そんなお父様が……」
アリスの言葉はイルジードの言葉を信じ始めている事の現れであると察したイルジードは心の中でニヤリと嗤った。
(ふ、所詮は小娘よ。この程度のゆさ……え?)
イルジードが心の中でアリスを嘲弄していた時にアリスの姿が忽然と消えたのだ。そして首元にゾワリとした感覚を感じたイルジードは迷わず前に跳んだ。イルジードの延髄が一瞬前まであった箇所をアリスの斬撃が放たれた。
「あら、惜しい」
アリスの口から斬撃を外した事に対して残念がるような声が発せられた。振り返ったイルジードはアリスの表情が何の動揺を浮かべていない事に気づいた。そしてそれは先程の動揺していた姿がアリスの演技である事を物語っていた。
「う~ん、もう少し演技力を上げないとダメね」
「貴様……」
「あんたはアホだから騙せると思ったんだけどね」
「巫山戯るな!!」
アリスの言葉にイルジードが激高する。アリスの掌で転がされた事に対する羞恥からの激高である。アリスはそれを見て艶やかに嗤うとイルジードに言い放った。
「大体、この殺し会いの場で呑気に話をするなんて私を動揺させようとする意図しか感じないわよ」
アリスの呆れたような声に今度はイルジードが沈黙する。
「そもそもあんたが事実を話しているという保証がどこにあるというの?」
「……」
「それにね。あんたはそもそも勘違いしているから教えておいてやるわ」
「勘違い……だと?」
イルジードの訝しむ表情を見てアリスは続きを言い放った。
「私はお父様の仇を討ちに来たのよ。お父様とあんたの間にどんなやり取りがあったかなんんて何の価値も無いわ」
「なんだと!?」
「例え私のお父様がどのような悪党だろうと関係ないわ。あなたは私からお父様、お母様を奪った憎むべき男よ。その程度の事も理解できてないなんて哀れさすら感じるわね」
アリスの言葉に一切の妥協を許さない確固とした意思が存在していた。イルジードはゴクリと喉を無意識のうちにならしていた。もはやアリスはかつてのアリスでは無い事を思い知らされたのだ。
それもそのはずでアリスはアディル達と行動をともにして約半年の間に数々の戦いをくぐり抜けてきたのだ。その経験はアリスをあらゆる面で成長させていたのだ。
かつてのアリスであればイルジードの言葉に冷静さを失ったかも知れない。だが今のアリスにはそのような揺らぎはまったく見られない。
アリスはイルジードの返答を待つことなく動いた。予備動作をまったくとらずに跳躍すると一気にイルジードとの間合いを詰めた。
キィィィィン!!
アリスの斬撃をイルジードが受け止める。アリスとイルジードはそのまま鍔迫り合いに入る。単純な膂力であればアリスはイルジードに及ばないだろう。だがアリスは絶妙な位置を確保することで互角の鍔迫り合いを展開していたのだ。
「あなたがお父様とお母様を殺した事にジェスとルーテは悲しんでいたわよ。何と言っても二人とも私への謝罪のためにあんたを殺して自分も死ぬつもりだったみたいよ。子どもに愛想を尽かされてあんたは何をやってるの?」
アリスの揺さぶりに今度はイルジードが動揺する。その動揺を察したアリスはさらにイルジードに言った。
「あなたの軽率な行動が二人には耐えられなかったみたいね。まぁあんたは昔からあの二人を単なる道具としか見てなかったから当たり前の結果よね」
「なんだと?」
「あなたは子ども二人に見限られてるのよ。それがあなたの器なのよ。大物ぶるのは止めなさい」
「黙れ!!」
イルジードはアリスの言葉に激高という形で応えた。そしてその激高はイルジードから冷静さを失わせたのだ。
(あらら、こんなにあっさりとかかるなんてね)
アリスは皮肉気に嗤うとイルジードに向かって斬り込んでいく。アリスは一瞬後にはイルジードの懐に跳び込むと横薙ぎの斬撃を放った。
「が……」
アリスの斬撃はイルジードの腹部を斬り裂き、イルジードの口から苦痛の声が発せられる。
(とどめ!!)
アリスは戸惑うことなくイルジード首にヴェルレムを振り下ろした。
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