竜神探闘⑲

竜帝宝華りゅうていほうか様々だな。今の俺はお前と膂力、速力は同レベルだ。なら……」


 アディルはそこで言葉を句切るとジーツィルへ斬りかかった。


(ここから先は……技の勝負!!)


 アディルはジーツィルに向かって首薙ぎ、袈裟斬り、胴薙ぎの三連撃を放った。その速度はまさに神速と称すべきほどの速度だ。

 ジーツィルは神速の斬撃をバックステップで躱すと即座に反撃に出る。アディルの技を打ち終わりの硬直の瞬間を狙ったのだ。


 ドゴォォォォォォォ!!


 だがその反撃は放たれる前にアディルの前蹴りにより封じられる。アディルは攻撃は斬撃だけでなくこの前蹴りまでが一連の技だったのだ。ジーツィルの反撃を封じたアディルの前蹴りはジーツィルの腹部に吸い込まれた。


「ち……」


 ジーツィルの口から忌々しげな声が発せられる。だが不思議な事にジーツィルの声には苦痛は一切含まれていない。 

 ジーツィルの反撃を封じたのは苦痛によるものではなく単にアディルの前蹴りにより間合いに入る事が出来なかっただけなのだ。


(ま……そうだよな)


 アディルはその事に対してまったく動揺していない。ジーツィルは先程首を刎ね飛ばされ、その隙を衝くという戦法を選択し実戦したのだ。例え死なないとはいえ痛覚があればやはり躊躇するはずなのにジーツィルは一切躊躇しなかった事から、ジーツィルは痛覚がないと想定するのは当然の事なのだ。


 そのため、アディルは前蹴りに間合いに入られないようにするため以上の事は求めていなかったのだ。


「せい!!」


 アディルは腹部にさし込んだ蹴りを戻すことなくそこを支点に体を駆け上らせそのままジーツィルの顎に膝を入れる。


 ドゴォォ!!


 アディルの膝はまともにジーツィルの顎に入った。通常であればこれで決まるほどの一撃であるがアディルは膝を入れてからのジーツィルの目を見るとそこにはまったく途切れることの無い戦意の籠もった目の光があった。


(ち……急所じゃないから当然だよな)


 アディルは左肩に乗るとそのまま跳躍しジーツィルの背後に着地する。そしてその着地の瞬間にジーツィルはアディルとの間合いを詰めると二段突きを放ってきた。狙った箇所は喉と腹だ。

 体勢の崩れたアディルにとってこの鋭すぎる突きを躱すことは至難の業である。アディルは喉に放たれた突きを首を横に振り躱し、間髪入れずに放たれた腹部の突きを天尽で受け流した。

 天尽と長剣が触れた箇所から火花が散った。


 ゴガァ!!


 そこにジーツィルの肘がアディルに放たれ頬に直撃した。


「ぐ……」


 アディルの口から苦痛の声が発せられる。いかに竜帝宝華によって強化されているとはいえ、ジーツィル程の強者の一撃を受けて無傷というわけにはいかないのだ。いや、むしろ竜帝宝華を使っているアディルだからこそ、今の一撃で命を失わずに済んだのだ。

 並の力量のものであれば首がへし折れるどころか、引きちぎられていてもおかしくはない。

 ジーツィルはそのままアディルに袈裟斬りを放つ。一撃を受けて硬直した瞬間に放たれたものであり躱す事は困難を極める。

 だが、アディルは放たれた袈裟斬りを驚異的な速度で体勢を立て直したが躱しきる事は出来ずに鮮血が舞った。

 しかし、瞬間的に身をよじった事で何とか致命傷を避ける事が出来たのである。


(ここだ!!)


 アディルは一瞬であるがジーツィルがアディルの傷に意識が向かったのを察すると最小の動きでジーツィルの長剣を握る手を斬り落とした。

 

 ゴトリ……


 アディルによって斬り落とされた手は派手に飛ぶことなくその場に静かに落ちた。それが逆にアディルの力量の高さを示しているように周囲の者達には思われた。

 アディルはゴトリと落ちた長剣に懐から取り出した符を放った。放られた符は長剣に張り付いた瞬間に炎を発しあっという間に消滅した。


(そこか!!)


 アディルは長剣の鍔元にある魔石に向かって天尽を突き刺した。天尽が魔石を砕いた瞬間にジーツィルは動きを止めると糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。ジーツィルの目からは既に光が失われており絶命を知らしめていた。


 ボロ……


 そこからジーツィルの体が崩れだすとそのままジーツィルは塵となって消滅した。


「思った通りだったな」


 アディルが小さく呟く。


 アディルは一度目に右腕と首を斬り飛ばした際に右手・・から再生したのに違和感を感じたのだ。生物にとって重要な器官である頭部より先に右手が先に体にひっついた事は不自然であったのだ。

 生物の本能として死を逃れるというものがあるのだからまずひっつくとすれば頭部からだ。それはジーツィルが首を刎ねられたぐらいでは死なないという思いがあっても変わらないだろう。ところがジーツィルは優先順位として頭部よりも右腕を体にひっつけることを優先したと言う事はジーツィルにとって頭部よりも右腕の方が優先順位が高かったという事である。

 この事に思い至ったアディルは右腕に握られている長剣がジーツィルの命を握っていると辺りをつけたのだ。

 

 後はタイミングを見て剣をジーツィルの体から切り離し、剣を破壊する事でジーツィルを斃したというわけである。

 アディルの放った符は生命探知の術であり、長剣にある移し替えたジーツィルの本体の位置をアディルに知らせたのである。


 アディルはが本体でありジーツィルの体は剣が操っていたという考えに基づいての行動であった。

 実際の所、アディルの考えは九割方正しいというものであった。ジーツィルの持っている長剣の名は魂を移す者ゲオムボルド、所有者の魂を剣にある魔石に移し替えることで所有者の肉体を無制限に修復するという魔剣である。

 アディルは魔剣がジーツィルという人形を操っていたと考え、実際は魔剣魂を移す者ゲオムボルドに魂を移し込んで擬似的に不死身になっていたのだ。まぁ勝敗が決した今アディルにとっても大した問題ではないだろう。


「さて、あとはお前らか」


 アディルが視線を向けた先には闇の竜人イベルドラグール達がいた。アディルの視線を受けた闇の竜人イベルドラグール達はビクリと身を震わせる。

 どう考えても自分達ではアディルに抗しきれるわけはないし、戦闘ではなくただ蹂躙される未来しか見えなかったのだから仕方の無い反応であろう。


「待ってくれ。私達の負けだ」


 そこに救いの声が発せられた。アディルが声のした方を見るとそこにはエスティル、シュレイというアマテラスのメンバーに加えてレナンジェス、ルーティア、エルナがいた。


「あんたは確かアリスの従兄だったな。負けを認めると言う事は俺達に投降すると言う事か?」


 アディルはレナンジェスに向けて言う。するとレナンジェスは即座に頷くと口を開いた。


「ああ、君の力量ならばこの場にいる者達をまとめて相手して勝つ事も可能だ。私達も君の仲間に敗れた以上、君達の指示に従うつもりだ」


 レナンジェスはそう言うと闇の竜人イベルドラグール達に向かって言う。


「これ以上は無理だ。武器を棄てて投降しろ。あとの責任はこのレナンジェスが負う」


 レナンジェスの言葉に闇の竜人イベルドラグール達は手から武器をその場に落とした。


「わかった。あんた達の投降は受け入れよう。ここでの戦いは終わりだ」


 アディルの宣言にレナンジェスからほっとした雰囲気が発せられる。そして闇の竜人イベルドラグール達からも同様の雰囲気が発せられた。

 実際の所、アディルは闇の竜人イベルドラグール達に投降を求める腹づもりだったのだ。竜帝宝華の効果はすでに切れており、その反動で立っているののもやっとという状況なのだが、アディルは表面上では問題無いというふうに装っているだけなのだ。


「ちょっっとまっったあああああああ!!」


 そこにアンジェリナが叫んだ。アンジェリナが叫んだ理由が分かっているアディルは、いやアマテラスのメンバーは仲間のシュレイに視線を向けた。


 シュレイの隣にはルーティアが立っており腕をシュレイに絡ませていたのだ。


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