竜神探闘㉑

 キィィィィン!!


 アリスの振り下ろした剣をイルジードは自らの長剣で何とか受け止める事に成功するがそれは敗北を先延ばしにしたにすぎない。

 アリスは受け止めたイルジードの長剣ごと断つためにヴェルレムに魔力と力を込める。


(ん?)


 アリスは違和感を感じる。先程まで有利な体勢をとっていたためにイルジードの体に少しずつ刃が迫っていたのがピタリと止まったのだ。


(おかしい……体勢から考えれば絶対に止める事は出来ないはずなのに)


 アリスがそう訝しんだ瞬間にアリスを弾き飛ばした。アリスは数メートルの距離を飛び着地する。

 アリスを弾き飛ばしたイルジードはゆっくりと立ち上がった。


「イルジード……」


 アリスの声には隠しきれない驚きが含まれていた。イルジードの顔、腕に赤黒い文様が浮かんでいた。そしてアリスはそれがなんであるか知っていたのだ。


 魔竜化粧ドラグメノス……これが赤黒い文様が浮かんだ術の名である。それは自らに呪いを課し驚異的なを力を得るという竜族の秘術である。当然ながら禁術に指定されている以上はデメリットが存在する。

 そのデメリットとは極度の興奮状態となった場合に自我を失い破壊衝動に身を任せてしまう事であり、最終段階まで行けば廃人となってしまうのだ。


「なるほど、それがあんたの切り札という訳ね。でもそれは禁術であるということを知らないわけではないでしょう?」


 アリスの言葉にイルジードは嗤う。その嗤顔は限りなく凶悪なものであった。


「もちろん、知っているさ。魔竜化粧ドラグメノスは一度自分の制御を離れてしまえば自我を失う。だがそのような事に私が対処しないわけないだろう?」

「でしょうね。あんたがそんな対処してないとは思わないわよ」

「そんなに褒められると照れるな」

「ええ、褒めてるわよ。それぐらいの事をやってくれないと面白くないわ」


 アリスはそう言うと何かに思い至ったような表情を浮かべた。


「なるほどね。さっきの違法薬物の件云々はあんたと言う事ね。あんた、何かしらの違法薬物を作り出して服用しているという訳ね」


 アリスの指摘にイルジードはニヤリと嗤う。


「今から思えば領内で廃人化した竜族が何人も見つかってたわね。あれはあんたに実験台にされた方達というわけね」

「おや、何の事かな?」

「別に認めなくても構わないわよ。意味ないしね」


 アリスはそう言うともはや問答は無用とばかりに構えをとった。


「あっさりと死んでくれるなよ」


 イルジードはそう言うとアリスに向かって斬り込んで来た。その速度は先程までのイルジードのものとはまったく違うものだ。

 イルジードはすれ違い様にアリスの胴に向かって横薙ぎの一閃を放った。アリスはその一閃を受け止める事に成功するがその後にアリスを襲った衝撃を堪えることは出来ずにそのまま吹き飛ばされた。

 アリスは空中で一回転すると見事に着地したためほとんどダメージを受けなかった。


(速力、膂力の上昇は想定以上……魔竜化粧ドラグメノスのデメリットも今の所は見られない)


 アリスはイルジードの戦力分析を始めている。戦いにおいて戦力分析は初歩である。


 そこにイルジードが再びアリスに向かって斬り込むと横薙ぎの斬撃を放った。アリスとすれば先程同様に受け止めるような事はせずに回避を選択し即座に実行した。

 躱されたイルジードの斬撃の衝撃波はそのままアリスの背後に飛んでいき、斬り結んでいたウルディーと護衛の騎士をまとめて両断する。

 血と臓物を撒き散らしながら両者の体が地面に落ちる。二人の顔には状況が理解できないという表情を浮かべそのまま苦痛の表情を浮かべると絶望の表情を浮かべながら目から光が消えた。ウルディーはまったく無意味にその生を終えたのである。


「てぇい!!」


 アリスは竜剣ヴェルレムに魔力を込め鋒から魔力弾を放った。


「小賢しい!!」


 イルジードは左手でアリスの放った魔力弾を受け止めると魔力弾が爆発した。爆発の煙が収まるとそこには無傷のイルジードが余裕の表情を浮かべて立っていた。


「なぁアリスティア、お前は本当に悪い子だ。無駄な抵抗を止めて大人しく首を差し出せば楽に殺してやるというのにな」


 ニタニタとイルジードは嗤いながらアリスに言う。


「お前の持つ竜剣ヴェルレムと魔力を吸収するヴィグレムは魔術師相手には愛称が良いが俺相手にはその効力が活かせんなぁ?」


 イルジードの言葉にアリスは笑う。その笑いに悲壮感は一切無い。それがイルジードには気に入らない。自分の凄まじい実力にまったく動揺してないのだ。


「あんたは知らないのよね。このヴェルレムとヴィグレムがこの形しかない・・・・と思い込んでいるのが何よりの証拠よ」

「なんだと?」

「私は剣術が結構得意なんだけどそれよりも得意なものがあるのよ」


 アリスはそう言うとアリスの手にあるヴェルレムとヴィグレムが光を放つと光の粒子となってアリスの周囲に舞う。

 周囲に待った光の粒子はアリスの両腕に集まっていく。


「な……」


 イルジードが驚きの声を上げ、アリスの両腕に集まった光の粒子は黒と白の籠手へと姿を変えた。


「ちなみにこれがヴェルレムとヴィグレムのもう一つの姿よ」


 アリスはニコリと笑うと同時に地を蹴った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る