説明②

「ふむ、立ち会いでいくつか理解できんところがあったから教えて欲しいだけじゃよ。もちろん答えられんという事なら話さないでも大丈夫じゃよ」


 ジルドの言葉にアディルは納得の表情を浮かべる。先の立ち会いでアディルが使った技はジルドにとって初見であろうし不可解な術理のものがあったのだろう。


「はい、俺もジルドさんに聞きたい事がありますので構いませんよ」


 アディルの返答にジルドは顔を綻ばせる。


「まずは君が使役したあの妙な騎士というか剣士というか使い魔というか……とにかくアレは何じゃな?」


 ジルドは首を傾げながらアディルに尋ねる。ジルドにとってアディルの使う式神は決して見た事も聞いたことも無いというものではない。だが、あの鎧武者は見た事も聞いた事も無い姿形であったのだ。


「あれは俺の家に代々伝えられてきた術で式神と言うんですが、あの鎧武者の事は俺もよく知らなくて、うちの初代から伝わったものなんです」


 アディルの返答にジルドは少しばかり考え込んでいたが納得したように頷く。


「そうか、似たような術は見た事があるしの……その鎧武者じゃったかな……アディル君の初代の趣味というわけという事にしておこうかの」

「はい。正直な話俺もよくわかってないんです」

「そうか、そうか、それでは次の質問なんじゃが、アディル君は胸骨が折れていたはずなのにどうしてあそこまで動けた? アレは単に痛みに耐えたというわけでは無さそうなんじゃがな」


 ジルドは次に前蹴りでアディルの胸骨を砕いた事に対してあそこまで動けた事に対して不思議に思っていたのだ。今にして思えばアディルの胸骨が砕けた事で早く決着をつけることをジルドが考えた事もアディルの狙いの様に思われたのだ。


「ああ、あれですか。あれは胸骨が砕けてなかったからです」


 アディルの返答にジルドは首を傾げる。


「そんなわけはない。儂は確かにアディル君の胸骨を砕いた感触があったぞ」


 ジルドの言葉にアディルは頷く。アディルが頷いた事に対してジルドはまたしても首を傾げた。


「俺はあの時、服の下に形を変えた式神を纏っていました」

「式神を纏う?」

「はい、こんな風に……」


 アディルがそう言うとアディルの左人差し指から黒い靄が発せられ球体となり、時間をおかずに円柱となり、再び球体に変わった。


「なるほど……その式神というのは形を自在に変えられるというわけか」

「はい、形を変えると言う事は人間の体そっくりに変化させることで俺はジルドさんに一杯食わせたというわけです」

「なるほどの、砕いたという感触はその式神を砕いたものであったというわけじゃな。それでは儂が顔面に放った一撃も……」

「はい、瞬間的にですが式神を変化させたものを顔面に咄嗟に纏った事で死なずに済みました」


 アディルの苦笑混じりの言葉にジルドも納得したようだった。


「ジルドさんにもお聞きしたいのですがジルドさんは俺の【烈震れっしん】をどうやって耐えたのですか?」

「烈震?」

「最後にジルドさんの脇腹に放った一撃です。あれは俺の切り札の一つでした。なぜあれを耐える事が出来たんですか?」

「震えを体内に伝えるという技じゃしの確かに不思議じゃろうて」


 ジルドはカラカラと笑いながらアディルに言い放つ。アディルは別段気を悪くした様子も無くジルドの言葉を待つ。


「あの一撃を食らった瞬間に体内に衝撃を伝える技というのを察しての瞬間的に儂も体のから同質の衝撃を発したんじゃよ。それである程度相殺したというわけじゃ」


 ジルドの返答にアディルは驚きの表情を浮かべる。ジルドは事も無げに言うが、間違いなくジルドの言った事は神業以外のなにものでもない。あの時、アディルは烈震をジルドの死角から放っていた。つまり目で見てでは無く触覚で感じた瞬間には実行していたと言う事になる。人間の限界を超えた反射速度と言える。


「まぁ、瞬間的なものじゃから完全に相殺することは出来なかったわけでな。その後倒れてしまったというわけじゃよ」


 ジルドはそういうとまたカラカラと笑った。


「なるほど、よくわかりました。それじゃあジルドさん、また手合わせをお願いできますか?」

「それは勿論じゃよ。久しぶりに楽しい戦いが出来たからの。こちらからもよろしく頼むよ」


 アディルにとって最高の答えが返ってきたことでアディルの表情はさらに明るいものになる。それを見てヴェル達も顔を綻ばせる。


「あ、そうだ!! ジルドさんにもう一つ聞きたい事があるんですが」


 喜んでいたときにエリスがジルドに声をかける。


「なんじゃな?」

「ジルドさんの話だとジルドさんの立場って“王族の密偵”という事で大丈夫なんですよね?」

「まぁ、そういう事になるかの」


 ジルドの返答を聞いてエリスがニンマリと笑う。その笑顔にアディル達は首を傾げるとエリスがアディル達に言い放った。


「みんな賭けは私の勝ちのようね。ジルドさんが何者かという賭けをやったの覚えてるわよね?」

「あ、確かに……」


 エリスはそういうとドヤ顔をアディル達に向ける。そこにアディルがエリスににこやかに問いかける。


「でもエリス、ジルドさんにいくら支払うことにしたんだ?」

「それは銀貨一……あ」


 アディルの質問にエリスは即座に返答し、自分が失敗をしたことを悟るとまずいという表情を浮かべた。その表情を見てアディルはニンマリと笑うとエリスに告げる。


「銀貨一枚払っても三枚の利益か。やるな~」

「あ、アディル……どうしてそれを? まさかジルドさん!?」


 エリスは油が切れた機械のようにギギギ……と異音が発するような動きでジルドに視線を移すとジルドは慌てて首を横に振る。百戦錬磨のジルドすらエリスの視線に危険を感じたのだろう泰然とした雰囲気が吹っ飛んでいた。


「なんだカマ賭けてみたら本当に引っかかったな。エリス、はかりごとをするときは上手くいったと思った時が一番危ないんだから気を付けろよ」


 アディルが苦笑しながら言う。エリスは上手くいったと思い油断していた所にアディルが自然に問いかけたのでつい答えてしまったのだ。アディルとすれば笑い話であったが、ヴェル達は笑ってすませる事の出来ない理由があったためにエリスに抗議を入れる。


「ちょっとエリス、どういうことよ!!」

「ジルドさんと組んでたと言う事は……」

「きったなぁぁぁぁい!!」


 三人の抗議が始まるがエリスは完全に開き直ったようで、腰に手をやると仁王立ちになった。


「バレちゃしょうが無いわね!! 勿論、ジルドさんと組んで出し抜いたわよ!!」

「なに開き直ってるのよ」

「ふふふ、目的のために私はあらゆる罵詈雑言に耐えるのよ!!」

「だから勢いで乗り切ろうとしないでよ」

「エリス汚い!! ずるい!!」

「ふふふ、何とでも言ってちょうだい!! 私の勝利は揺るがないわ」

「「「「いや駄目だろ!!(でしょ!!)」」」」


 エリスの言葉に全員がすかさずツッコミを入れる。全員からのツッコミからさすがにエリスも怯んだらしい。


「イカサマは確かにバレなけりゃイカサマになんないけどバレた以上は駄目だよな?」


 アディルの言葉にエリス以外の全員が頷く。勢いで乗り切ろうとしたエリスも勢いを完全に止められれば抗うのは不可能だったのだ。


「さて、今回は勝利者無しだけど……懸案事項が片付いたという事でみんなで食事に行こうか。全員銀貨一枚ずつだせば結構なものが食べられるだろ」


 アディルの言葉に全員が喜色を浮かべる。


「ただし、エリスはジルドさんへの銀貨一枚の支払は忘れるなよ。ジルドさんはその銀貨で食事にいくと言う事で……なんだ結局ジルドさんの一人勝ちか」

「え~それじゃあ私の一人負けじゃない!!」

「当然だろ。イカサマがバレたんだからその対価と思え」

「ぶ~アディル横暴!!」

「さ、行くとしよう」


 アディルが話をうち切ると全員が即座に動き出す。不満の表情を浮かべていたエリスであったが観念したようにみんなに着いていく。


(あ~あ……アディルとデートだったのに~)


 エリスが心の中でぼやいているとヴェル、エスティル、アリスが近付いてきてエリスにニッコリと笑って囁いた。


「「「残念だったわね♪」」」


 三人のしてやったりという言葉にエリスは頬をふくらませるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る