毒竜引き渡し②
アルダートの後ろをアディル達は歩いて行く。アルダートは公文書を保存しているという倉庫の扉を開けると古書店にある独特の臭いに似た臭いがアディル達の鼻についた。
「こっちだよ」
アルダートは室内に入りそのまま進むと壁に手を当てる。すると小さな魔法陣が浮かび上がるとアディル達の視界がぐにゃりと歪んだ。視界の歪みが収まった時に牢獄の入り口にアディル達は立っている。
「ここは?」
「ここは特殊な牢獄でね。
シュレイの言葉にアルダートは答える。
(……中からは転移魔術で出ることは出来ないな。幾重にも張り巡らされた結界が転移させないようになっているな)
アディルは周囲に張り巡らされた結界の強固さと数に気づくとその警戒ぶりに驚いた。
「さ、こっちだよ」
アルダートの案内に従ってアディル達は
「おいおい、良い女ばかりじゃねぇか」
通路を歩いていると両隣の扉の向こうからアディル達と言うよりもヴェル達女性陣に声をかける者達が現れた。知性のかけらもないような下卑た声であり、アディル達とすれば相手にするつもりもなくそのまま通り過ぎようとした。
「無視すんじゃねぇよ。このアバズレ共が!!」
「俺達がヒイヒイ言わせてやろうか?」
「ひゃははははは」
下品なからかいの言葉が発せられ収容者達はアディル達に嘲弄の言葉を投げ掛けてきた。娯楽が皆無な彼らにとってアディル達をからかうことは娯楽であったのだ。
「お前達しず……え?」
アルダートが収容者を怒鳴りつけようとした時にアディルが収容者の扉を蹴りつけようとした姿が目に入った。
ドゴォォォォォォォ!!
アディルの蹴りが扉に入ると扉は蝶番ごと吹き飛ぶと室内の壁にぶち当たった。当然、扉の近くにいて下品な言葉をなげかけた収容者もそれに巻き込まれて壁にぶち当たった。
アディルはそのままズカズカと牢内に入ると気絶している男の顔面を鷲づかみにすると通路に引きずり出して、通路に投げる。
「ヴェル、
「うん」
ヴェルは何事も無かったかのように
何しろ旅において水の確保は死活問題だ。アディル達は
「うわぁ」
水をかけられた収容者は慌てて起き上がると苦痛に顔を歪めた。壁にぶち当てられた以上は無傷というわけにはいかないのは明らかだ。
「これって脱獄ですよね?」
アディルは事情が飲み込めていない男を指差すとアルダートに言う。アルダートだけでなく収容者達も一言も発する事無くこの異常な事態を見守っていたがアディルに問われた事でアルダートは我に返った。
「あ、あぁ……確かにこれは脱獄だな」
アディルの意図を察したアルダートは即座に言う。
「はい、それでは捕まえるとしましょう」
アディルは容赦なく男の顔面を蹴りつけると男は宙を飛び、反対側の扉にぶち当たった。扉にぶち当たった男は再び気絶したようでズルズルと崩れ落ちようとしたところをアディルは首を掴むとそのまま持ち上げるとそのまま男の牢内に投げ込んだ。
「脱獄したい奴はさっきの言葉をもう一度言ってみろ」
アディルの言葉に収容者達は一言も発する事が出来ない。アディルの言葉の意図は明らかであり、目の前で起きた蹂躙劇が自分に起きると思うと声を発することなど出来るはずはなかったのである。
「脱獄したくない奴は……俺達に言うことがあるんじゃないのか?」
『申し訳ありませんでした!!』
アディルの言葉に収容者達はゴクリと喉をならすと一斉に謝罪の言葉を口にした。
「立場を弁えろよ」
アディルは冷たく言い放つとアルダートに視線を移した。アルダートは苦笑を浮かべると慌てて駆け込んでくる部下に指示を出すと再び
背後の方で部下達が男を引きずり出しているのが見える。扉が壊れてしまったために別の牢獄へ移動させるのだろう。
(う~む……ついカッとなってやっちゃったけど……)
アディルは先程の行為を心の中で反省していた。いくらヴェル達を侮辱されたからといって扉を蹴破るのはやり過ぎであると考えたのだ。
「あのアルダートさん……施設を壊してしまいました。その修理代金は……」
アディルの申し出にアルダートは苦笑を浮かべる。
「いや、気にしなくても良いよ。扉ぐらいなら経費で落ちるからね。それよりも君達が時々ここに来てくれたら、あいつらの良い牽制になる」
「今回の件への謝罪を込めて協力させてもらいますね」
「そうかそうか。それでは時間のあるときに頼むよ」
「はい」
アディルがそう返答すると全員に少しばかり穏やかな空気が流れる。女性陣にしてみればアディルが暴挙に出たのは自分達を侮辱したのが理由である事を分かっていたので、ヴェル達にしてみれば正直嬉しかったのだ。
「まぁ、今回は助かったけど次回から気を付けてね♪」
エリスがアディルに苦言を呈するが表情と声が“嬉しさ”が滲んでいる。
「はい、今後気を付けます」
アディルはエリスが怒っていないことに対して安堵の息を漏らした。
「まったく……これから
シュレイが呆れながら言うとアンジェリナも同意とばかりに頷いた。アンジェリナとしてみればシュレイの言う事に反対するという選択肢は、アンジェリナ以外の者と恋人になる以外にはないのだ。
「そうだな。あの雑魚共も一応最凶の闇ギルドとかほざいてるんだから気を引き締めるとしようか」
「そうかしら所詮自称だもんね」
「そうよね。強くなかったし、持っている術も大したものじゃないわよね」
ヴェルとエスティルがうんうんと頷きながら言う。
「その辺にしてあげてくれ……流石に惨めすぎるからな」
アルダートは苦笑しながらアディル達に言うと扉を開け、中に入っている連中に声をかける。
「出ろ。お前達の新たな主だ」
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