竜神探闘㉓
「まだ何か?」
アリスの言葉にイルジードは顔を歪める。イルジードの顔の歪みは苦痛の為かアリスへの憎しみのためか判断するのは難しいだろう。
「お前は……レグノール一族を潰す事になったのだぞ……」
「それが何か?」
「貴様……」
「さっきも言ったでしょう。お父様とお母様を殺したあんたを許せなかったとそこにレグノール家がどうなろうと考慮するに値しないわよ」
アリスの言葉にイルジードは苦々しい表情を浮かべる。
「先日セルゲオムが私に
「……叔父上が?」
「舐めた提案よね。“一族のため”などという
「な……」
アリスの言葉を聞き、イルジードは絶句する。アリスがとっくにレグノール一族を見限っていた事を察したのだ。
「お父様、お母様があんたに殺されたのは明らかなのにあんたに忠誠を誓うと言う事は私への敵対行為よ。すでにレグノール一族に貴族である資格はないわ」
「そ、それでは……お前は」
「ええ、私の目的はお父様、お母様の仇をとることと言ったでしょう? そこに裏切り者ぞろいのレグノール一族なんかに配慮するはずないじゃない」
アリスの声も表情にも一辺の曇りも無い。
「レグノール一族はね。あんたがお父様とお母様を殺した時に終わったのよ。あんたの簒奪を認めた時に他者の上に立つ資格を失った」
「アリス……お前は」
「この後私はレグノール選定公として最後の務めを果たすわよ」
アリスの言葉に並々ならぬ決意を感じたイグノールは長剣を杖代わりに立ち上がろうとする。アリスはそれを黙って見ている。
「まだ動けたのね」
「黙れ……レグノール家は滅びぬ……私が守るのだ」
「お父様を殺して得た地位がそれほどに誇らしいの? 歪んでいるわね」
「黙れと言っている!!」
イグノールは絶叫する。アリスの指摘は心のどこかでイグノールが消すことの出来なかった罪悪感であった。
「俺ならば兄上よりもレグノール家をさらに発展させることが出来るのだ!! ……ぐ、ごふ!!」
イグノールの声は絞り出すような声である。だがすでに致命傷を負っている以上、傷口から血が留めなく溢れている。
「まったく何度言っても理解できないのね。私はお父様、お母様の仇をとるだけだと言ったでしょう?」
アリスはそう言うと静かに動いた。アリスの斬撃がイグノールの喉を斬り裂くと鮮血が舞いグルンと目が動くとそのまま崩れ落ちた。
「さようなら。叔父様……」
アリスはイグノールの亡骸に小さく声をかけた。
ドォォォォン!! ドォォォォン!!
アリスがイグノールの亡骸に声をかけ終えた時に戦場に間延びした太鼓の音が鳴り響いた。
アリスは鳴り響く太鼓の音が
「さて、みんなの所に戻るとするか」
アリスは
護衛騎士は呆然とした表情を浮かべてアリス達、いやイグノールの亡骸を見ていた。自分達が敗れた事という受け入れがたい現実を理解して力が抜けてしまったのだろう。
「みんなの所に戻るわ」
「は、はい」
アリスの言葉にロジャールはかろうじて返答する。ロジャールはアリスの元まで片足を引き摺りながらやってくるとアリスは転移魔術を起動した。
* * *
転移魔術でアディル達との戦場に戻ったアリスとロジャールの視界には激戦の後が生々しく残っていた。
「アリス」
「無事だったかアリス!!」
アディル達が転移してきたアリスを見て嬉しそうに顔を綻ばせた。アリスもまたアマテラスのメンバー、ベアトリスの姿を見てほっとしたような表情を浮かべた。
「アリス……」
「お姉様……」
そしてレナンジェスとルーティアの姿を見るとアリスは一瞬顔を綻ばせるがに顔を曇らせる。憎い親の仇とは言えイグノールはレナンジェスとルーティアにとって父親であった事は間違いない。
「二人には謝らないわよ」
アリスはレナンジェスとルーティアに向け開口一番言い放った。アリスの言葉にレナンジェスとルーティアは静かに頷いた。
「わかっている。アリスが勝った以上俺達は勝者に従おう」
「そう。それでは私からはあなた方を害するつもりはもうないわ。両親の敵も討ったしね。
アリスの言葉に
アリスはこの場に
しかし、アリスにとって
「お姉様、申し訳ありません」
そこにルーティアがアリスに謝罪の言葉を口にする。
「どうして謝るの? 私はあなた達の父親を討った女よ」
アリスの言葉にルーティアは首を静かに振ると静かに言葉を発する。
「この謝罪はお姉様に私達の負うべき罪を……」
「それは違うわ」
「え?」
「この復讐は私のものよ。罪とか罰とかそういうのじゃなくて単に私はイルジードを許せなかっただけの事よ。そして私が新たな人生を歩むために必要な儀式だったのよ。復讐に高尚な理由付けなど必要ないわ。ただ“許せない”というシンプルな理由で十分よ」
「お姉様……」
「だからこれでおしまいよ。私はあなた達に憎悪の念はないわ」
「はい……」
アリスの言葉にルーティアは静かに頷く。アリスとルーティアの間にわだかまりがないといえば嘘になるだろう。だが、それでもアリスの言葉は新しい関係を築くという一歩を踏み出そうとしたと言えるだろう。
「アリス、これからどうするつもりだ?」
レナンジェスがアリスに言うとアリスはニッコリと笑って返答した。
「もちろん
「……そうか」
アリスの言葉の意図するところをレナンジェスは完全に察したようであった。
「さて、次に疑問があるんだけど良い?」
アリスはアディル達に視線を移して言う。
「ああ、聞きたい事は大体察しがつくんだが何だ?」
「あのさ……私が転移してきた時にシュレイがアンジェリナとルーテの二人と腕を組んでいたような気がしたんだけど……」
アリスは転移してきた時にシュレイの両隣にアンジェリナとルーテが腕を絡めていたのを見ていたのだ。アリスが転移してきた事に気づくとすぐに離れたのだが流石に見落とすような事はしない。
「ああ……何というかアンジェリナに恋敵が出来たという事だ」
「あ……やっぱりそう言う流れ?」
アディルの返答にアリスはため息をつきながら言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます