第2話 コンビ結成!!
騎士達を斬り伏せたアディルは少女に視線を移した。その少女はアディルと同年代だろう。金髪碧眼の美少女であり美の女神がその持てる力を注ぎ込んだかのような美しさだ。そして身なりから生粋のお嬢様のような印象を受けた。
(へぇ~綺麗な子だな。世の中にはこんな綺麗な子がいるんだ)
そう考えていたアディルにその少女は近付くとそのまま一礼する。
「この度は御助勢ありがとうございました。私はヴェルティオーネ=レムリス、レムリス侯爵の娘です」
「いえ、俺はアディルって言います。偶然通りかかったのですが間に合って良かったです」
「はい、おかげさまで助かりました」
「しかし、侯爵家の令嬢がこんなところで賊に襲われるなんて災難ですね」
アディルの“賊”という言葉にヴェルティオーネは小さく苦笑する。アディルが斬り伏せた者達は心根的に間違いなく賊にカテゴライズされるのは間違いないが、それでも騎士という身分に拘っていたのだから賊と言われて屈辱感は口で表現することは出来ないだろう。もちろん、アディルはたった今斬り伏せた騎士達が“レムリス侯爵家”のものである事とヴェルティオーネの家名がレムリスである事に気付いていたがそこには触れなかった。
「ええ、“賊”に襲われてしまい災難でした」
ヴェルティオーネもまた騎士達を“賊”の一言で片付ける。アディルはヴェルティオーネの返答にニヤリと返す。
「さて、白々しい言葉はこの辺にして聞きたいことがあるんだけど良いかな?」
「何?」
言葉を崩したアディルに先程のお嬢様然とした言葉遣いをヴェルティオーネもあらため砕けた口調で返す。
「いや、大した事じゃないんだけど、あんたはこの六人相手に勝つ自信があったのか?」
「どうしてそう思うの?」
「いや、実はここに来たのは殺気を感じたからなんだ。この阿呆共は殺気を微塵も発してなかった……ということはあの殺気を発したのはあんたが発生源という事になるだろ」
「……」
アディルの言葉にヴェルティオーネは沈黙する。
「やれやれダンマリか……心配しなくてもあんたが何者であろうとも、俺はあんたに危害を加えるつもりはないよ」
「でしょうね。あなたが私を利用しようというのならもっと上手くやりそうだもの」
「それは褒めてると受け取るけど?」
「もちろん褒め言葉よ」
「へぇ~でもさ……その殺気はどういうことかな?」
アディルの言葉にヴェルティオーネは小さく嗤う。先程までの令嬢然とした雰囲気はとっくに霧散しているがそれに比例して危険度が上がっているようにアディルは感じた。そしてそれは決して杞憂で無い事もアディルは気付いている。
「まぁ……とりあえず……」
ヴェルティオーネは突如手を振り上げる。その瞬間にアディルは横に跳んだ。一瞬前までアディル頭部のあった箇所に礫つぶてが通り過ぎて背後にあった木を穿つ。
(暗器か……)
アディルは即座にヴェルティオーネが行った事を察する。手を振り上げた動作を使ってそのまま礫をアディルに投げつけたのだ。ヴェルティオーネは振り上げた手を今度は振り下ろす。振り下ろされた手から今度も礫が飛ぶ。
(この礫は魔力の塊か……)
アディルはカタナを抜き気を通して強化すると礫をカタナで打ち払う。弾かれた礫はそのまま地面に落ちると煙の様に消えていく。
(面白い……みかけは綺麗だが、隠し持っている牙は相当な鋭さだ)
アディルはニヤリと笑うとカタナを構えてヴェルティオーネに向かう。一度の瞬まばたき程の時間で三メートル程の間合いを詰めたアディルはカタナを一閃する。しかし、ヴェルティオーネはすぐさま背後に跳びアディルの斬撃を躱すと両手をアディルに向けた瞬間に魔力の塊は一斉に放った。魔力を一斉に放ったヴェルティオーネは魔力を一本の剣の形に形成する。形成の早さからヴェルティオーネの魔力操作の実力の高さをアディルは察した。
「ち……」
アディルは小さく舌打ちし追撃を諦めると放たれた魔力の塊をカタナで弾きながら下がる。そして懐から二枚の符ふを取り出すと地面に放る。地面に落ちた符からモコモコと黒い靄が発生すると身長二メートル程の鎧武者になった。
(何?あれ……)
ヴェルティオーネは突如現れた鎧武者がアディルの術である事はすぐに理解したのだが、ヴェルティオーネが驚いたのはその鎧武者の姿形の異様さである。自分の知る騎士、重戦士の鎧兜とは大きく異なっているのだ。それはヒノモトの鎧武者であるのだが、そこまでヴェルティオーネは知りようがなかった。
(ここまでね……これ以上やれば殺される可能性が高くなる一方だわ)
ヴェルティオーネはそう決断すると殺気を解き、魔力で作った剣を霧散させると両手を上に上げる。いわゆる降参のポーズである。ヴェルティオーネの戦闘態勢を解いたがアディルは警戒を解かない。降参した事で油断を誘い、不意を衝くというのは兵法からすれば当然の事であるからだ。
(やっぱり警戒は解かないわね……)
ヴェルティオーネはアディルが警戒を解かない事に対して一切油断していないことに対して心の中で感心していた。
「それで俺はお前の目には叶ったのか?」
(そこまでお見通しか……)
「そうね。まずは謝罪させてちょうだい。いきなり襲って本当にごめんなさい」
ヴェルティオーネが素直に謝罪したことでアディルは警戒を解くような事はしないが、話の続きを視線で促す。それを察したヴェルティオーネは先を話す。
「あなたの実力を試したのは私と組む実力があるか試したかったのよ」
「そして同時にお前の実力を俺に見せるつもりだったというわけか」
「そういうこと、私は部下が欲しいわけじゃないし、守ってもらいたいわけじゃ無いわ。対等に組む相手が欲しいのよ」
ヴェルティオーネの言葉にアディルはここで警戒レベルを一気に引き下げる。もちろん油断という状況からはほど遠いのだが、先程までに比べれば格段に和らいだ雰囲気だ。
「なるほど……だが俺と組むと行ったが貴族同士の争いに俺は全く役に立たないぞ。俺は平民だし、これからハンターギルドに登録して一年間の修行をやり遂げるのが目的なだけのガキなんだからな」
「修行?」
「ああ、俺の家では十五になると一年間の修行の旅に出て、一年後に修行の成果を父に見せてから家を継ぐことが許される」
「なるほど……安心してあなたを貴族同士の争いなんかつまらないものに参加なんかさせないわ」
「それじゃあ、どうして俺と組む?」
アディルの言葉にヴェルティオーネはニンマリと笑って答える。
「簡単な事よ。私は家からの追っ手から逃れるためよ。もちろん私一人でもやってやれないことはないわ。でも、背中を預けるような人がいると心強いだけよ」
「なるほどな……それでお前はどうして家から逃れようとしているんだ? お前何やったんだ?」
「何もしてないわ。私はレムリス侯爵家の血はひいているけどお母様がいわゆる妾というやつでその扱いは酷いものだったわ。そこに転がっている賊も侯爵家に仕える騎士よ」
ヴェルティオーネの目には一切の情はない。非常に冷ややかなものだ。まぁ自分を殺そうとしただけでなく、最低の方法で自分の尊厳を踏みにじろうとしたものに同情するような事はヴェルティオーネはしない。
「なるほどな。お決まりのお家騒動というところか?」
「ちょっと違うわ。正妻とその子ども……私から見れば異母兄と異母妹は私が余程邪魔なのよ」
「それで家を出ようとしたわけか」
「うん、レムリス家に頼まれもしないのに引き取られてから随分と苛められたわ。そこで私は家を出てから生きていけるように色々学んだわ」
「でもお前って冷遇されてたんだろ、よく色々学ばせてもらったな」
「学ばせてもらうわけ無いわ。私は人の話に聞き耳を立てたり、騎士達の修練を見て覚えたわ」
ヴェルティオーネの言葉にアディルは感心する。自分の境遇を理解し、そこで腐るのでは無くすぐさま自分がやるべきことを行ったのは並大抵の人物では無い。
「なるほどな、それでお前は侯爵家には不要の人物だし、お前自身も侯爵家には何の未練もないだろ?」
「私にすれば未練はゼロよ。でも侯爵家からすればそうじゃないわ」
「?」
「正妻、異母兄弟にとっては私は憎い妾の子よ。存在自体が許せないのよ」
「なるほどな。それでお前の父は何をしてるんだ?」
「ああ、あの男は面倒な事に関わらないようにするのよ」
「最悪だな」
「本当にね。私には父はいないわ」
「そうか……」
「それで、どうかしら。私と組んでくれないかしら?」
ヴェルティオーネの言葉にアディルは少し考えると口を開く。
「お前と行動を共にすれば侯爵家から俺も狙われることになるな」
アディルの言葉にヴェルティオーネの顔が曇る。普通に考えれば余計な厄介事をしょいこむような事をするようなものはいないだろう。ところがアディルの次の言葉はヴェルティオーネの予想を超えたものであった。
「利害は一致した。俺と組もう」
「は?」
アディルの言葉にヴェルティオーネはつい呆けた声を出してしまう。どう考えても組むことで利益があるのはヴェルティオーネだけでありアディルにとって不利益しかないはずだった。
「ちょっと待ってよ。私にとってあなたと組む事の利益はあるけどあなたにとってはそうじゃないじゃない。あなたの利益って一体何よ?」
ヴェルティオーネの言葉にアディルはニヤリと笑う。妙に邪気のない笑顔にヴェルティオーネは口を閉じる。
「何言ってるんだ。お前と一緒にいれば侯爵家が戦う相手を送り込んでくれるという事じゃないか。俺の目的はさらに強くなって一年後に親父殿との戦いにおいて認められることだ。そのためには強い練習相手が必要だし、そいつらがありとあらゆる手を使って襲ってくるなんて最高の修行になる!!」
「あ、そ、そう」
まるで我が意を得たりという様子のアディルを見てヴェルティオーネは乾いた笑いを浮かべた。
「これからよろしく頼むな。ヴェルティオーネ!!」
「う、うん」
差し出されたアディルの手をヴェルティオーネはやや戸惑いつつ握る。後に世界に名を轟かせる事になるアディルとヴェルティオーネの出会いだった。
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