異世界の兵法を継ぐ少年 ~この世界の兵法と相性がいいのか無双状態~

やとぎ

アマテラス結成篇

第1話 旅立ち……そして出会い

「それじゃあ、行ってくるよ親父殿、お袋様」


 玄関先でクルリと振り向き、家にいる父アドスと母イリナに向かってアディルはそう言うと頭を下げる。


「ああ、行ってこい。一年後を楽しみにしているぞ」

「アディルしっかりね」

「うん!!」


 両親の激励を受けてアディルは元気に返答する。アディルは現在十五歳であり、アディルの一族では十五歳になった者は家を出て一年間の修行の旅に出ることになっているのだ。

 アディルの家の名は“キノエ”という。この国ではかなり珍しい名字である。キノエ家は元々この国、いや、この世界から住んでいた者ではなかった。キノエ家の初代はアディルから数えて五代前に遡る。

 キノエ家の初代は鬼衛和泉守義邦(きのえ いずみのかみ よしくに)という人物で異世界の“ヒノモト”から来た人物であった。義邦という人物は適応力が高かったらしく異世界の生活に適応するとそのまま現地の女性と結婚し子をもうけた。義邦は生まれた子どもを大層可愛がり自分の持つ全てを子に伝えたのだ。

 その際に伝えた業わざは剣術、体術、槍術、薙刀術、弓術とそして退魔術である。剣術などは何となく理解できるだろうから退魔術についてかるく説明しておこう。退魔術とは魔と呼ばれる者を斃すための戦闘術のことである。義邦はヒノモトで退魔業を行っていたと言う話であった。気きと呼ばれる人間の体内に宿るエネルギーを練り、魔を斬るというのがその本質であった。

 義邦によって創設された“鬼衛流兵法”は歴代の継承者によりさらに発展し、義邦から数えて五代目の子孫であるアディル=キノエはさらなる鬼衛流の発展のために修行の旅に出ることになっているというわけであった。

 修行期間は一年、一年経ったときアディルは父アドスと戦う事でキノエ家を継ぐに相応しい能力を得たかを判断されるわけだ。


 挨拶を終えたアディルは両親に背を向けるとそのまま歩き出す。アディルの服装は黒を基調とした服装に革鎧、籠手、脛当てを身につけマントを纏っている。腰には一本の剣が差してある。この剣はキノエ家に伝わる“カタナ”と呼ばれるものでありその切れ味は凄まじいものがある。


「とりあえず、“エイサン”に向かうか」


 家を出たアディルは小さく呟く。エイサンとはこの“ヴァトラス王国”の西側に位置する地方都市で人口四万人ほどの中規模都市である。アディルがエイサンを目指す理由はそこで“ハンターギルド”に登録し、“ハンター”になるためであった。

 ハンターの仕事は多岐にわたる。この世界には魔物、野獣と呼ばれる存在がおり人々の生活を脅かしている。人は魔物や野獣に比べ身体能力が大きく劣っている。弱肉強食の摂理から考えれば魔物や野獣が人間を襲わないはずはない。本来であればそのような脅威から人々を守るのは国の仕事なのだが、国の対応能力には当然ながら限りがあり、事実上守る事は出来ていなかった。

 そこで、ハンターと呼ばれる者達が国に代わって魔物、野獣を駆除したり治安維持を行ったりしている。猟師と自警団を兼ねているような存在だがこれはハンターの仕事の一端に過ぎない。他にも隊商の護衛、要人警護を兼ねることもあるのだ。ちなみに猟師、自警団の団員などとハンターの違いは“ハンターギルド”と呼ばれる互助組織に登録しているか否かという事になる。

 “ハンターギルド”に登録すれば報酬の5%をギルドに納めなければならない。だが、配布される登録証には様々な特権が付与されている。代表的なものでいえば国境を越える際の手続きが簡略化されることである。これはギルドがハンターの身分を保証している事を意味している。その恩恵に比べれば報酬の5%を納めるのは安いものである。

 当然、甘い蜜だけ吸おうという輩が登録だけ行おうとするのだが、そのような輩はギルドの定期的な審査で登録証を取り消される事になっている。


 アディルはエイサンに向けて“飛神ひしん”という術を使う。この術は鬼衛流の速歩術であり、歩法と気による身体強化により飛躍的に移動速度を上げるという術である。飛神により大幅な速度強化によりアディルは本来であれば一日をかけなければならないはずのキノエ家がある山を二時間程で下山することが出来たのだ。


「よし……あとはこの森だな」


 山を下りたことを確認したアディルはそのまま飛神の術を使用して森を抜ける事を選択するとそのままの速度で森を駆ける。


 タタタタタタッ!!


 アディルの快走は止まること無く進み、あと少しで森を抜けると言うところでアディルは突然立ち止まった。


(なんだ? 殺気がする……)


 アディルは僅かに殺気を感じるとすぐにそちらの方に向かっていく。対等な戦いであればそのまま決着がつくまで見守るつもりであるが弱き者を蹂躙しようとしている場合は迷い無く助太刀するつもりであったのだ。

 アディルが気配を殺しつつ、殺気の放たれる方向へ向かうとそこには少女と六人の騎士達が睨み合っている場面が目に入った。六人の騎士達はニヤニヤといやらしい嗤い顔を浮かべており絶対的有利な立場に立った傲慢さがその表情に表れている。


 勝ち誇った表情を浮かべて騎士達のリーダー格と思われる騎士が少女に対して声をかける。その表情、嘲りの声色からただで済ます気がないのは確実である。


「さてお嬢様、あなたを守る者は誰もいませんよ」

「隊長、こんないい女だ。殺す前に楽しませてくださいよ」

「ああ、貴族のお嬢様と平民の女とどう違うのか試してみてぇなぁ」


 隊長は部下の騎士達のゲス過ぎる発言を窘めることも無くニヤニヤと嗤い始める。


「そうだな。このまま殺すよりも楽しむ事にするか」


 隊長の言葉に部下の騎士達はゲスな表情を浮かべると少女に向かって歩を進め始める。そのような絶望的な状況にあっても少女はキッと騎士達を睨みつけている。


 騎士達が少女に襲いかかろうとした所でアディルは動く。腰に差したカタナを抜くと今まさに少女に襲いかかろうとする騎士達に斬りかかったのだ。


「なんだ!?」

「ガキ?」


 騎士の二人がアディルの背格好を見て少年である事を気付くと余裕の表情を浮かべる。だがその余裕の表情は次の瞬間に凍ってしまった。アディルは人智を越えたと称しても良い速度で騎士の間合いに一気に踏み込むとカタナを振るう。


「ぎゃあああああああああ」


 アディルのカタナに腹を斬り裂かれた騎士の一人が贓物を傷口からこぼれ落としながら倒れ込んだ。仲間の口から絶叫がほとばしった意味を理解する前にアディルは次の相手と斬り結ぶ。

 アディルはすれ違い様にカタナを騎士の喉に押し当てそのままひくことで騎士の喉を斬り裂いた。自分が喉を斬り裂かれた事に気付いた騎士は信じられないといった表情を浮かべるとそのまま斃れ込んだ。


「このガキィィィ!!」


 騎士が剣を振り上げアディルに振り下ろそうとした時、アディルのカタナが一閃され騎士の剣を持った右腕が宙に舞う。呆然としていた騎士は自分の腕が無くなった事に気付くと絶叫を放った。その絶叫を断ち切ったのはアディルのカタナであった。アディルは絶叫を放つ騎士の喉をカタナで貫いたのだ。アディルはカタナを騎士の喉から引き抜くと喉を貫かれた騎士はそのまま倒れ込んだ。倒れ込んだ騎士は数秒の間ピクピクと痙攣していたがすぐに動かなくなる。


 瞬く間に三人の仲間の命を奪った参入者に対して残りの騎士達の怒りは一気に爆発した。


「おのれ!!我らをレムリス侯爵家の者と知っての事か!!」


 隊長のせっかくの詰問であるがアディルは無視して他の騎士に襲いかかる。現時点で敵の騎士達はアディルという正体不明の敵に対して言いしれぬ恐怖を感じており、その状況を利用しない手はないとの判断からである。

 一切の言葉を発する事無く襲いかかるアディルに騎士達は恐怖を刺激され平常心とはほど遠い状況にあった。アディルはカタナを一閃し騎士を受けた剣ごと真っ二つにする。アディルのカタナには気で覆っており切れ味が数段増していたのだ。


「ひ……」


 アディルにより真っ二つにされた仲間を見た騎士の一人が恐怖の声を上げる。いきなり現れた凄まじい戦闘力を持つ少年の手によってすでに四人の仲間が命を奪われているのだ。しかも少年は一切言葉を発する事無くその剣を振るっており恐ろしい存在である事この上なかった。


(恐怖で動きが鈍くなってるな……いける!!)


 アディルは騎士の姿から勝利を確信した。どうやら最初の混乱から回復する事無く騎士の心を折る事が出来たことを察したのだ。

 アディルは騎士が恐怖から立ち直る隙を与えること無くカタナを振るい騎士の首を真一文字に斬り裂いた。鮮血が舞い騎士は崩れ落ちる。


「な、なんだ貴様は一体!!名を名乗れ!!」


 隊長は見苦しいほど狼狽えている先程までの余裕ある態度はすっかり霧散している。

 アディルは構うこと無く鋒きっさきを隊長に向ける。アディルのカタナの刃やいばが鋒しか見えない角度に向けられた事で隊長の目にはアディルのカタナは点にしか見えない。

 アディルはそのままカタナを動かす事無く上半身を固定したまま隊長との間合いを詰めるとそのまま鋒を隊長の喉に入れ込んだ。


「ぐぇ……」


 喉を貫かれた隊長は自分がやられた事に気付いたがもはや遅いのは明らかである。アディルはそのままカタナを引き抜くとそのまま隊長は倒れ込んだ。


「ふぅ……」


 アディルはカタナを覆っていた気を解除すると一振りして鞘に納める。その納刀の動きに一切の無駄は無い。


「さて……」


 アディルは残ったその少女に視線を移すのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る