竜神探闘⑦
「ジェス、ルーテ……エル」
アリスの口から戸惑いの声が発せられた。アリスの口から三人の愛称が発せられたのはアリスの動揺があった故かも知れない。
しかし、その動揺は一瞬でアリスの表情から消えていった。
「久しぶりね」
「ああ」
「……はい」
アリスの言葉にレナンジェス、ルーティアが簡潔に返答する。お互いに会話が弾むような状況でないためにそれからお互いに沈黙を守る事になったのだ。
「よくここがわかったわね」
数秒の沈黙はアリスの声により終了する。アリスの声には感心したような響きがあった。
「アリス達の方が数は少ないのに消極的な戦い方だった。アリスの性格からして一気に攻めかかると思っていたのにそうはしなかった。だから何かの作戦があると思っていたんだよ。だから、俺達だけでアリスが動くのを
レナンジェスの言葉にアリスは苦笑する。
「そう、思えばあなた達はイルジード達よりも私の事をわかっていたわね」
「ああ父上、いや他の者達もだがアリスをお淑やかな令嬢と思い込んでいるがそうでないことは俺達はわかってるからな」
「そうね。あなた達には関わりすぎたわ。まぁそれで後悔しているというわけじゃないけどね」
アリスの発する雰囲気は柔らかいものだ。アリスはイルジードと
アリスが他のレグノール一族に対して冷淡なのは、イルジードの兄殺し、選帝公簒奪を追認したために敵対者という位置づけなのだ。
「それであなた達がここに来た目的は?」
アリスが三人を真っ直ぐに見つめるて言う。
「ここで手を引いてくれないか?」
レナンジェスの言葉にアリスは苦笑する。レナンジェスの言葉はこの状況で荒唐無稽と呼ぶにふさわしいものであったからだ。
「どういうつもり? そんな事今更できるわけないじゃない。私にお父様、お母様の仇を討つことを諦めて死ねといいたいわけ?」
アリスの言葉にレナンジェスは静かに首を振る。
「そうじゃない。アリスと仲間達を死んだという事にしてこの場から逃がすつもりだ」
「どういうこと?」
「エルナには
「
アリスの返答にレナンジェスが小さく頷くとエルナが一歩進み出た。
「はい、アリス様と仲間の皆様の
エルナの言葉はアリスが片手を掲げた事で中断された。
「二人の気持ちはわかったわ。私の身を案じての行動というわけね」
アリスはそこまで言ってルーティアに視線を移した。
「ルーテはジェスとエルの考えを知ってたの?」
アリスの質問にルーティアは小さく首を横に振った。それを見てアリスは微笑む。
「私はアリスお姉様を止めようと思ってきましたがそれは言葉で止めようと思っていた訳ではありません」
「ふ~ん……私を止めるにはどうするつもりなのか教えてもらえるかしら?」
アリスがすっと目を細める。それを見てルーティアはニッコリと微笑むと右手を前に差し出すとそこに一本の大剣が現れた。ルーティアの手にした大剣はルーティアの身長ほどもある巨大なものである。
「私はお姉様に死んで欲しくありません。でもだからといって復讐を諦めさせるような事は出来ません。我ながら変な話だとは思いますがお姉様を止めるには実力行使しかないと思います!!」
「ふふ、いいわ。さすがルーテね♪」
ルーティアの返答にアリスは笑って返答する。その笑顔の一歳に邪気はないために敵ですら見惚れされるものであった。
「ジェス、せっかくだけどあなたの提案は却下よ。あなたにそんな
アリスの言葉にレナンジェスは一瞬だが驚きの表情を浮かべた。それがアリスに自分の推測が正しかったと確信させた。
「重荷?」
「どういうことですか?」
アリスの重荷という言葉に反応したのはルーティアとエルナである。二人はアリスに答えを促すとアリスはちらりとレナンジェスを見た。
「ジェスはね。私とみんなを逃がした後にイルジードを殺して自分も死ぬつもりだったのよ」
「え?」
「レナンジェス様……本当ですか?」
アリスの言葉を受けてルーティアとエルナが驚愕に満ちた視線を向けるとレナンジェスは沈黙を守る。その沈黙こそがアリスの言葉の肯定のように二人には思われた。
「ジェス、あなたが二人に言った言葉は大体予想がつくわ。私を助けようとかそう言う類の事を言ったのでしょう?」
アリスはそこで一旦言葉を句切ると次にルーティアを見やった。
「そしてルーテ、あなたもそうでしょう? あなたも最終的にはイルジードを殺して自分も死ぬと言う事を計画に掲げていたのでしょう?」
アリスの言葉に今度はレナンジェスが驚きの表情を浮かべてルーティアを見る。
「私があなた達と何年の付き合いがあると思っているの?」
アリスの言葉には反論を許さない確信があった。
「だが、父上とウルグを同時に敵に回して勝てるというのか? 一対一ならともかく常に父はウルグを側に置いている」
レナンジェスの言葉にアリスはニヤリと嗤う。先程までの邪気のない見惚れるような笑顔ではない。だが、こちらの笑顔もアリスの魅力を損なうものではないだろう。
「もちろんよ。勝ち目が無ければそもそも
アリスの言葉にレナンジェスは静かに首を横に振る。
「アリス、今回の件は父上が伯父上を害した事が発端だ。責任は息子である俺が取るのが筋というものだろう」
レナンジェスの言葉をあっさりと否定する。
「いいえ、これは私の戦いよ。いかにあなた達でもこの戦いを止める事は出来ないわ」
アリスの言葉にレナンジェスも静かに笑う。この段階においてレナンジェスもアリスの強固な意志を変えさせることは出来ないと察した。いや、もともと察していたのだがそれでも一縷の望みにかけていたのだ。
「それじゃあ。仕方ないな」
レナンジェスは空間から一本の剣を取り出してきた。
「魔剣グレーゼル……」
アリスが小さく呟くとレナンジェスが小さく頷く。
「アリス、お前には悪いがこの件で決着は俺の手でつけさせてもらう」
レナンジェスの言葉を受けてエスティルとシュレイが一歩進み出た。
「互いに譲れないモノがあるのだからこの展開は当然よね。でもアリスと戦わせるわけにはいかないわ」
エスティルがそう言うと魔剣ヴォルディスを抜き放った。
「そうか。当然そうくるよな。それじゃああんた達を排除してアリスを止める事にするよ」
「仕方ないわね。アリスは下がってて私とシュレイでやるわ」
エスティルがそう言うとアリスは素直に従い後ろに下がった。アリスの周囲には
「そうね。甘えさせてもらうわね」
アリスの言葉を受けて、エスティルとシュレイがそれぞれの相手を見やった。エスティルはレナンジェス、シュレイはルーティアにぞれぞれ向き合う。
そして次の瞬間にアリスと
「な……」
「く……」
「しまった」
レナンジェス達は自らの失敗を悟るとエスティルとシュレイを睨みつける。
「アリスの方が一枚上手だったわね」
「そのようだな」
エスティルの言葉にレナンジェスはしてやられたという表情を浮かべた。レナンジェスはアリスがなぜ自分達と会話を選択したかを察したのだ。
「条件が整うのを待っていたという訳か」
「ご名答よ。あなた達が現れた時にはまだイルジードの近くに手に魔術の拠点が出来てなかったのよ。そして……準備が出来たと言う訳よ。そういうわけよ私達はアリスが仇をとるまで徹底的にサポートに回るつもりよ。だから無駄な事は止めなさい」
エスティルが鋭く言い放った。
「レナンジェス様、ダメです。あの魔族の言う通り結界が張られています。転移魔術で追うことは出来ません!!」
泣きそうな声でエルナが叫ぶ。
「お前達と雌雄を決するしかないという訳か」
レナンジェスがそう言うとエスティルとシュレイは静かに頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます