竜神探闘⑥

 アディルの放った五竜天破ごりゅうてんぱ闇の竜人イベルドラグールに向かって一直線に飛んだ。

 アディルの五竜天破ごりゅうてんぱ闇の竜人イベルドラグール達に直撃する直前に闇の竜人イベルドラグールの前に巨大な防御陣が突如として形成されアディルの五竜天破ごりゅうてんぱがぶつかり砕け散った。

 何者かが形成した防御陣はアディルの五竜天破ごりゅうてんぱを見事に防ぐことに成功したのだ。

 ただ、アディルの五竜天破ごりゅうてんぱの威力も相当なものであり、防御陣には大きくヒビが入り、所々が崩れ落ちたがそれでも何とか持ちこたえられたことには違いない。


「ち……」


 アディルは舌打ちをすると今度はアンジェリナが火炎奔流フレイムトォーレントを間髪入れずに放った。


 炎の奔流が今度は闇の竜人イベルドラグールへと向かって飛び、先程アディルが開けた防御陣の孔を通って火炎奔流フレイムトォーレント闇の竜人イベルドラグールに襲いかかった。


 防御陣をすり抜けた形となった炎を闇の竜人イベルドラグールは散会して躱すことに成功した。


「どうやら防御陣を張れる奴がいる以上、遠距離からの攻撃は効果が薄そうだな」

「そうね。となると近接戦闘しかない訳ね」

「そういう事だ。みんなやるぞ」


 アディルの言葉にこの場にいる・・・・・・仲間達が頷くとそれぞれ武器を構えた。

 アディル達の行動を見た闇の竜人イベルドラグール達はニヤリと嗤い武器を構えてアディル達に斬りかかってきた。

 新手の闇の竜人イベルドラグール達は流石に幹部級と言う事で今までの相手とは桁違いである。瞬く間に数体の式神達が斬り裂かれて塵となって消滅した。


「やるわね」


 エリスが称賛を込めた声を発するとアディルも同意とばかりにニヤリと嗤った。


「ああ、俺が前に出るからみんなは支援・・の方を頼むな」


 アディルの言葉に全員が頷いた。アディルの言葉の意図を全員が察したのだ。


 アディルは天尽を構えるとそのまま一足飛びに、闇の竜人イベルドラグールに斬りかかった。式神達と同時に斬りかかったために数の上ではそれほど不利な状況ではない。


 躊躇なく突出してきたアディルに対し、闇の竜人イベルドラグールは容赦なく斬りかかってくる。

 斬りかかってきた闇の竜人イベルドラグールの一体の斬撃をアディルは躱し様に脇腹を斬り裂くと闇の竜人イベルドラグールは倒れ込んだ。アディルは倒れ込んだ敵に目を向ける事なく次の一体に斬りかかった。

 次に斬りかかったのは斧槍ハルバートをもった闇の竜人イベルドラグールであった。斧槍ハルバートを振り上げた瞬間にアディルはがら空きになった闇の竜人イベルドラグールの首を刎ね飛ばした。


 アディルは一呼吸で二体の闇の竜人イベルドラグールを斬り伏せた事は闇の竜人イベルドラグールに強烈に印象付けることになった。すなわちアディルを放置することは自分達の命の危機であるという事だ。


 そしてそれは他のメンバーへの意識が外れると言う事を意味しているのだ。意識を外した場合に最も危険な相手がいることを当然ながら闇の竜人イベルドラグールは知らなかった。

 その危険な相手とはヴェルである。この美しい元貴族令嬢は危険極まる技を習得している。

 ヴェルが意識を完全に外した闇の竜人イベルドラグールの一体に向かって薙刀を振り下ろす。柄が伸び届かない間合いのはずのヴェルの薙刀により頭部を両断された闇の竜人イベルドラグールが呆然とした表情を浮かべながら倒れ込んだ。


「な……」


 突然隣の仲間が絶命した事に驚愕した闇の竜人イベルドラグールの一人が呆然とした声を発した。そこに再びヴェルの放った薙刀の斬撃により左肩から入った斬撃は心臓を両断し倒れ込んだ。


 至る所で闇の竜人イベルドラグール達が斬り伏せられていくが、闇の竜人イベルドラグール達も無抵抗であったわけではない。エリスの作成した式神達が闇に竜人イベルドラグール達に次々と討たれているのだ。


(総合的な戦力は相手が上か。エリスが式神を作成してくれているから何とか戦線を維持できているというわけか。相手の一手次第で戦線が崩れて乱戦にでもなればまずいな)


 アディルは現状をそう把握していた。現在のところアディル達は闇の竜人イベルドラグールと互角の戦いを展開しているが、それは相手が新たな一手を打っていないからである。

 すで・・にアディル達は一手を繰り出しており、その一手が失敗すると言う事はアディル達の敗北を意味するのは間違いない。


(頼むぞ)


 アディルは心の中でそう願いながら、襲い来る闇の竜人イベルドラグールを袈裟斬りにした。



 *  *  *


「上手くいったわね」


 アリスがそう言うとエスティル、シュレイが力強く頷いた。そして毒竜ラステマの六人はごくりと喉をならしつつ頷いた。その頷きはエスティル、シュレイに比べて遥かに力強さが欠けていた。


 アディル達と闇の竜人イベルドラグールの激しい戦いは遥か遠くで行われている。アリス達はアディルが五竜天破ごりゅうてんぱを放ったと同時に森林地帯の中に転移していたのだ。

 アディルの放った五竜天破は攻撃の意思もあったのだが、それはついででに過ぎない。その真の目的はアリス達を敵の目から隠すことであった。

 もちろん、永遠にアリス達を隠し通すつもりなど毛頭ない。一分、一秒でも長く隠せればそれで良いのだ。


 その一分、一秒隠し通すことでアディル達の一手はその効果を増すのである。


「もう少しでウサギがイルジードの近くまで達する。それでいけるわ」


 エスティルの言葉にアリスも頷く。アリス達がここに転移できたのはエリスが放った斥候用の式神のウサギがそれぞれの場所に転移魔術の拠点を設けていたからだ。

 現時点ではまだ式神はイルジードの近くに到達していないのだ。ウサギ達が転移魔術の拠点を作成していることが相手にバレれば、それを利用され却ってアリス達がピンチになる事も考えられるために慎重にイルジードの近くに向かっているのだ。


 また準備が整ってから転移しなかったのは、闇の竜人イベルドラグールが転移魔術でアディル達を挟撃したからである。すなわち転移魔術が使えると言うことはアリス達がイルジードの元に現れれば転移魔術で救援に動く可能性があったからである。

 そこでアディル達は自分達を囮に使い救援に向かう事の出来ないようにしようとしたのである。


「ここまでは上手くいってるわね」

「ああ、俺達の行方を完全に見失っているのは間違いないな」


 エスティルの言葉にシュレイが返答すると二人とも静かに頷いた。しかし、次の瞬間に三人は何者かの気配を察知するとそちらの方へ視線を一斉に向けた。


「アリス……」

「お姉様……」

「アリスティア様……」


 そこには沈痛な面持ちを浮かべた三人の竜族の姿があった。


 イルジードの嫡男レナンジェス、その妹ルーティア、そして侍女のエルナであった。

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