竜神探闘⑤

 アディル達の作成した式神・・達と闇の竜人イベルドラグールは激しい戦いを繰り広げていた。

 

 式神一体と闇の竜人イベルドラグール一体では明らかに闇の竜人イベルドラグールの方が戦闘力が高い。一対一ならば確実に斃されるのは時間の問題なのだが、この竜神探闘ザーズヴォルは多対多の戦いであり“一対一で尋常に勝負”という戦いではない。

 式神達は複数で一体の闇の竜人イベルドラグールに当たっており出来るだけ優位な状況で戦線の崩壊を防いでいたのである。


「よ!!」


 そこにアディルが投石を行い一投ごとに闇の竜人イベルドラグールの顔面を砕いていく。アディルは式神がいるに構わず投擲していき式神ごと闇の竜人イベルドラグールに石をぶつけていっていたのだ。

 闇の竜人イベルドラグールからしてみれば式神が死角となってアディルの投石を躱しづらいことこの上なかったのだ。

 またアンジェリナも要所要所で魔矢マジックアローを放って闇の竜人イベルドラグールを牽制しており互角以上の戦いを展開していたのだ。

 

「良い感じだな。あと五、六体削りたいのだが、そろそろ動きがあるだろうな」


 アディルの言葉に全員が頷いた。闇の竜人イベルドラグールは獣の群れではないので本能だけでなく戦術があるのだ。戦術がある以上いつまでもやられっぱなしと言う事はあり得ないのだ。


「エリス、式神を追加してくれ」

「了解♪」


 アディルの要請にエリスが明るく返答するとを放った。放られた符から新たな式神が作成されると盾を構えて壁を形成するとそのまま闇の竜人イベルドラグールへと突っ込んでいく。


「アディル」


 そこにアリスがアディルに声をかける。


「そろそろ作戦・・を決行するからアリスとエスティルは準備をしておいてくれ」

「わかったわ」

「それからシュレイとアンジェリナもあっちに参加してくれ」


 そこでアディルがシュレイとアンジェリナに言う。


「どういうことだ?」


 シュレイが訝しむようにアディルに言う。当初の予定ではない指示にシュレイは唯々諾々と従うような事はしない。

 もちろんシュレイとアンジェリナは柔軟に対処する事が出来るために問題はないのだが、それでも当初の予定をこの段階で変える理由が知りたいと思うのは当然であった。


「理由は二つ。防御に徹する限り現段階では二人が抜けてもやれるという判断だ」

「もう一つは?」

「アリスの従兄妹達の存在だ。未だに居所を掴む事が出来ない。アリスがイルジードと一騎打ちになったような場合に横から入られると非常にまずい」

「露払いと言う事か?」

「そういう事だ」


 アディルの返答にシュレイは思案顔を浮かべた。


「アリス達についていくのは俺一人追加の方が良いと思う」


 シュレイの言葉に真っ先に反対意見を述べたのはアンジェリナである。


「兄さん、私も兄さんと一緒にいくわ!!」

「まて、アンジェリナ」

「何よ」


 アンジェリナを制止したアディルに対してアンジェリナがギロリと睨む。


「シュレイの考えを聞こう。話はそれからだ」

「……う、わかったわよ」


 アディルの言葉にアンジェリナが素直に従う。アディル達の中には肯定、否定どちらにせよ理由を聞いてから判断するという不文律があった。明確なリーダーがいない“アマテラス”の長所でもあり短所でもあるのだが、それが彼らの流儀の一つであるのは間違いない。


「アンジェリナが目立ちすぎたというのがその理由だ。アンジェリナの放つ魔術により奴等は少なくない損害が出ている。アリス達についていけばこちらの目的が看破される可能性が非常に高いだろう?」

「確かに……」

「正論ね」


 シュレイの言葉にヴェル、エリスから即座に賛同の声が上がった。アンジェリナもシュレイの意見に渋渋ながら頷いたところをみると正論とみとめざるを得ないという訳なのだろう。


「確かに……兄さんの言う通りね」


 アンジェリナが頷くとアディルも頷く。


「シュレイの言う通りだな。アリス、エスティルそれで良いか?」


 アディルの言葉に二人はしっかりとした表情で頷いた。


「仕方ないけどシュレイの言葉は正論よ」

「そうね。仕方ないけどそっちの方が激しい戦いになる可能性が高いからね」


 アリスとエスティルの言葉に全員が頷く。これで意見が出そろいアンジェリナは残留と言う事になったのである。


「よし、それじゃあタイミングを計るだけだな」


 アディルの言葉にアリスは頷く。


「来たわよ」


 ベアトリスの言葉に全員の視線がベアトリスの指差す方向へと向かうとそこには闇の竜人イベルドラグールの新手が転移術によって姿を現したのが目に入った。


闇の竜人イベルドラグールの副長ケズナ=マーグト、幹部達の登場ね」


 アリスの言葉にアディル達は新手を見ると始まる前にアリスが紹介した闇の竜人イベルドラグールの副長と幹部達、そして兵達が前面に展開していた。

 背後の本陣の方を見るとイルジードの周囲にはウルグと数人しかいないのが目に入った。


「状況は整ったな」


 アディルの言葉に全員が殺気を放つことで応じた。アディル達から放たれる殺気を感じ取ったのだろう闇の竜人イベルドラグール達の中に緊張が走った。


「よし、いくわよ」


 エリスが符を放り式神を形成する。その数は五十を超えている。式神を意のままに操る事の出来る限度の数である。


「な……」


 突如現れた五十を超える騎士達に対して闇の竜人イベルドラグールの面々には警戒の色を濃くした。


(よし、やるか)


 アディルは腰に差した天尽あまつきを抜き放つと地面に突き刺した。アディルが天尽を地面に突き刺した瞬間に魔法陣が浮かび上がった。浮かび上がった魔法陣から五体の竜が現れる。

 

「行け!!」


 アディルは五体の竜を闇の竜人イベルドラグールに向けはなった。

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