三つ巴戦③
「さて終わったな」
動かなくなった十五体の
一歩間違えれば地面に伏して屍をさらしているのはアディル達の方であった可能性もあるからだ。
「そうね。作戦のおかげで苦も無く斃せたのは大きいわね」
ベアトリスの言葉にアディル達は頷く。ベアトリスの言う通りに戦いの基本はこちらは実力を発揮する状況をつくり、相手には発揮させないことである。
今回の件では
そこにエスティルが魔力で形成した壁を展開する事で彼らの予想を上回る事態を引き起こした。
とどめに拠点を予め定めていたアリスの転移魔術により全員が
思わぬ事態に指揮官の小隊長へ視線が自然と集中し、一人の部下の言葉が指揮官を短時間で割り出されヴェルが薙刀で小隊長を斬り伏せた事が
言葉にすれば簡単であるが、アディル達は相手が混乱した一瞬の隙を突き続けた結果であり、一瞬でもタイミングがずれれば戦いは苛烈なものになった可能性はあったのだ。
「これで全部とは思えないわね。すぐに新手がくる可能性があるから移動した方が良いんじゃない?」
そこにエリスが提案してきた。昨日、三方向に作成した馬車を走らせる事で偽装した事で、
「確かにやつらが三方向に散って、こいつらはその一つにすぎないとしたら……」
ヴェルも深刻な表情を浮かべるとアンジェリナも同様に深刻な表情を浮かべて言う。
「エリスとヴェルの言う通りね。私達の差し当たっての目的は
アンジェリナの意見は真っ当なものであり、それに反対するような者はアマテラスにはいないのだ。
「よし、それじゃあ……」
アディルが出発を宣言しようとしたときにアディル達の一から百メートル程離れた場所に突如、巨大な門が発生したのが見えた。
「な、何あれ?」
アンジェリナが戸惑いの声を発するとその門から魔物達が溢れてきた。魔物達の種類はゴブリン、オーガ、トロルなどの亜人種が主である。
「あの門は転移装置と言う事か? アディル、距離が近すぎる逃げるのは不可能だ」
「わかってる」
シュレイの言葉にアディルは即座に返答する。正直な事を言えば不要な戦いは避けたいのだが、この状況では逃げた所で追いつかれ戦闘を避けることは出来ない。
エスティルは魔力の壁を解除すると馬車がこちらに戻ってきているのが目に入った。アディルが馬車の方向をこちらに向けた事で方向転換していたのだ。
「最悪の展開ね」
アリスが吐き捨てるように言う。アリスの言う最悪の状況というのは不要な戦いに巻き込まれた事だけ触れているのではなく、この戦いが竜神帝国の官憲を呼び寄せる可能性があったためである。
「アリス、そこは割り切ろうか」
「そうよ。この展開は悪いけど最悪まではいかないわよ。最悪の展開というのは私達の全滅よ」
アディルとヴェルの言葉にアリスは一瞬呆けた表情を浮かべたがすぐに納得の表情を浮かべるとアリスは顔を綻ばせた。
(そうね。私にとって最悪は……みんなを失う事よね)
「アリス、こいつらは竜神帝国の官憲の放った魔物達か?」
アディルの質問にアリスは即座に首を横に振って叫んだ。
「そんなわけないじゃない。竜神帝国では魔物を嗾けるような真似はしないわ」
「そっか。ならこいつらは俺達を直接狙ってきた連中というわけだな」
「と言う事はジーツィル達の陣営と言う事ね」
「そんな所だろうな。まったく……まぁ、ぼやくのは後にしてあの門を何とかするか」
アディルはそう呟くと
「みんな、魔法陣から離れてくれ。一発ぶちかましてやる。【
アディルの言葉を受けて全員が魔法陣から離れる。アディルはそれを確認すると魔法陣からそれぞれ竜が現れた。いや、本物の竜ではなく気が竜の形をとっているのだ。五匹の竜は門に向かって一直線に飛んだ。
ゴブリン、オーガはアディル達に向け襲いかかろうとした所にアディルの先制攻撃である五匹の竜の攻撃に巻き込まれる事になったのだ。
五匹の竜の進行上にいた魔物達は五匹の竜に蹴散らされ宙を舞い、竜はそのまま門にぶつかると五匹の竜は門を食い破り、そのまま門は粉々に砕け散った。
門が砕け散った事で転移の門も閉じたようで残った魔物達はほんの十数体しかいなかった。自分達がいきなり窮地に立たされた事を悟った魔物達は顔を見合わせ明らかに動揺しているようであった。
ドシュ!! ドシュ!! ドシュ!!
そこにヴェルとアンジェリナの
「終わったか。しかし、あの門、竜神帝国内部のどこにでも発生させる事が出来るというのなら厄介極まりないな」
シュレイの言葉に全員が頷く。あの門をどこにでも発生できるというのならどのような国家も容易に滅ぼすことができるというものだ。いかに国境線を固めてもその内側に門を発生させればいくらでも戦力を送り込む事が出来ると言う事になる。
「確かにそうね。これはお父様やアルトに伝えておかなきゃいけないわね」
シュレイの言葉にベアトリスが顔を引き締めていう。ヴァトラス王国の安寧のためには無視できない案件であるのは間違いないだろう。
「おいおい」
そこにアディルの呆れたような言葉が発せられる。アディルの視線の先にはさらに三つの門が発生していたのだ。
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