拠点確保③

 アディルの問いかけにジルドは柔和な表情を崩すことはなかったが、周囲をぐるりと見渡すとアディル達を中に誘う。アディル達もジルドの誘いに即座に頷くと店の中に入った。周囲の者達の目があるのがその理由であろう。


「ささ、そこに座ってくれ」


 ジルドに勧められてアディル達五人は席に座るとテーブルを挟んでジルドが座る。


「さて、何から話せば良いかの……」


 ジルドが顎を撫でながら呟く。


「まずはさっきの連中じゃが奴等はあおと呼ばれておる連中じゃ」

あお?」


 ジルドの聞き慣れない言葉にアディルが鸚鵡返しに尋ねる。


「うむ。蒼というのはな。王都のゴロツキが徒党を組んだ非合法的な活動をするギルドみたいなもんじゃ」

「闇ギルドみたいなものですか?」


 アディルの質問にジルドは苦笑すると首を横に振る。


「いや、そんな大それた連中とは違うのぉ。闇ギルドに入るほど覚悟が無く、真面目に働く事も出来ん連中じゃ」

「何て中途半端な連中……要するにクズじゃない」


 ジルドの言葉にアリスが正直すぎる反応をすると残りのメンバーもうんうんと頷く。


「まぁ確かにクズなんじゃがな。闇ギルドを動かすほどの案件ではないような嫌がらせをするような案件の時に利用する連中がおるんじゃよ」


 ジルドも呆れた様な声を出したところを見るとアリスの指摘を全面的に認めているのだろう。


「なるほど……と言うことはアホの連中は誰かに頼まれてジルドさんに嫌がらせをしているというわけですね」

「まぁ簡単に言えばそういう事じゃ」

「その命令しているのは誰なんです?」

「“アーノス=ゴーディン”という男じゃよ」


 ジルドの言った名前に反応したのはヴェルであった。


「それって確かゴーディン商会の会長の名前よね」

「よく知っておるのぉ。まぁ、あまり真っ当な商売人とは言えん」

 

 ジルドの返答にヴェルは頷く。


「ええ、私もゴーディン商会の黒い噂は聞いたことあるわ。違法薬物を扱っているとか人身売買に関わっているとかね」

「へぇ、絵に描いたような悪徳商人だな」


 アディルの言葉に全員が頷く。


「しかし、そんな悪徳商人がジルドさんにちょっかいをかけてくる理由は何です?」


 アディルの質問にジルドは少し言い辛そうにしたが答える。


「儂の息子の形見を譲ってくれと言ってきたんじゃよ」

「形見?」

「ああ、儂の息子はお前さん達同様にハンターでな。その際に形見として、一振りの剣を残したんじゃ」

「剣?」

「ああ、どこぞの剣のコレクターの貴族様からの依頼があったそうじゃ」

「ジルドさんはそれを断ったら嫌がらせを受けるようになった……と」

「簡単に言えばそういう事じゃな。息子には子が……儂から見れば孫がおってな今七つなんじゃが、その子が十五になったら渡してくれと頼まれておってのぉ。渡すわけにはいかんのじゃ」


 ジルドの言葉にアディル達は頷く。ジルドが息子の最後の頼みを果たしたいと思うのは至極当然の事であり、本来であればそこでアーノスは引き下がるべきなのだ。


「そのお孫さんはどこに?」

「息子の嫁と一緒に世界を回っておる」

「は?」


 ジルドの言葉にアディル達はつい呆けた声を出す。話の流れからアディル達は孫をジルドが引き取って養育していると考えていたのだ。


「息子の嫁もハンターでの。一人前に育て上げると息巻いて孫を連れて修行の旅に出て行ってしまったのじゃよ」

「あら~何というか凄いお嫁さんね」

「うん、思った以上にアグレッシブな人ね」


 ジルドの言葉にヴェルとエスティルは感心したように言う。


「まぁの……息子を完全に尻に敷いておったわ」


 ジルドの苦笑混じりの言葉にアディル達も苦笑しか出来ない。


「じゃあ、とりあえず事情はわかりましたけど、一つ聞きますがその修行の旅にどうして剣を持っていかなかったんですかね?」


 アディルの疑問にジルドはすぐさま答える。


「ああ、あの子息子の嫁は魔術師なんじゃよ。それで剣をここに置いていったのじゃよ」

「なるほど……よくわかりました。俺達がここにいる時にあいつらが来たら俺達が追い払いますので安心してください」

「すまんのぉ、恩に着る」

「そんなにいうなら家賃をまけてくれても良いんですよ?」

「それはそれ、これはこれじゃよ」


 エリスの家賃値引きをジルドはあっさりと切って捨てる。この辺の事はジルドは決して流されない質らしい。

 だが、アマテラスのメンバー達にとっては逆に安心したぐらいであった。


「それじゃあ、部屋を確認させてください」


 アディルがそう言うとジルドは立ち上がり戸棚にあった鍵を取り出すとアディル達の前の机の上に置いた。


「階段をのぼって右側の部屋がお前さん達の部屋じゃ。左側は倉庫になっておるから使いたいときには言っておくれ」

「「「「「はい、ありがとうございます」」」」」


 ジルドの言葉にアディル達は返答するとすぐさま階段を上る。心なしか足取りが軽いのはやはり部屋を見るのが楽しみだったからであろう。


 二階に昇るとすぐに扉があり、そこにアディルが鍵を入れて回すと“カチャリ……”という心地良い音が全員の耳に入る。アディルはドアノブを回して扉を開けた。

 アディル達の見た部屋は普通の宿屋の一部屋と半分の広さがあり五人で使用しても問題無いぐらいだ。


「おお、結構広いな」

「結構所か十分な広さじゃない」

「うん、これなら十分にくつろげそうね」

「あそこにベッドを置くと……こっちのスペースはソファとか置けるわ」

「あ、ここに机を置いたら読書も出来そう」


 アディル達は部屋を見るとそのまま部屋の模様替えについて話し始める。アディルはその光景を顔を綻ばせながら見ている。

 その時、エリスがアディルの隣に立つと囁いてくる。


「ねぇアディル……」

「どうした?」

「私思うんだけどジルドさんの息子さんってゴーディン商会に殺された可能性が高いと思うんだけど」

「普通に考えればそうなるよな。でもその可能性は低いと思う」


 エリスの言葉をアディルは否定する。エリスは自分の意見が否定されたけどまったく気分を害した様子はない。そしてそのままエリスはアディルにその理由を尋ねる。


「根拠は?」

「人殺しまでして手に入れようとしたのにジルドさんには嫌がらせ程度……落差が大きすぎる」

「なるほど……」


 エリスはアディルの言葉を聞いて納得の表情を浮かべる。確かにアディルの言葉の方が信憑性があった。


「何かあるよ……」

「え?」

「ジルドさんには俺達に話してない事が」


 アディルの言葉にエリスは少し考えると納得したように頷いた。


「まぁ、俺達を害するつもりはなさそうだし、しばらくは静観だな」

「そうね」


 二人の会話にヴェルが声をかける。


「こっちにベッドを置くという感じでという風になってるけど二人の意見を聞かせてよ」


 ヴェルの言葉にアディルとエリスは顔を綻ばせながら三人の会話に混ざる。


 こうして一抹の不安はあるがアマテラスは王都での拠点を手に入れる事に成功したのであった。

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