申請③

 竜神探闘ザーズヴォルの申請のために竜神帝国の皇城に転移したアディル達は、まずその皇城の荘厳さに目を奪われた。


「すごいわね」


 ベアトリスのやや呆然とした声が何よりも竜神帝国の皇城の壮大さを物語っているようにアディル達には思われた。ヴァトラス王国の王城も大国であるために決して周辺諸国に比べて劣るものでは無いのだが、この竜神帝国の皇城の壮大さは桁違いであるように思われる。


「綺麗ね。白亜の城壁なんてすごいわ」


 ヴェルも感心したように言う。


「それだけじゃないな。単に美しいというわけでなく、この皇城は防衛施設としても優秀だぞ」

「ああ、アディルの言う通りだな。所々に兵が隠れる死角があるし、しかも塔の配置からして外から見れば死角が多いのに、中からは死角がほとんど無いように見える」


 アディルとシュレイは城の造形美よりも機能美の方に目がいっていた。


 竜神帝国の皇城は、造形美と機能美が結びついており、竜神帝国の経済力、軍事力の巨大さを内外に知らしめているのだ。

 

「まぁ、見とれるのはその辺にして行くとしましょうか」


 アリスが苦笑を浮かべながら言って歩き出すとアディル達もそれに続いた。


「アリスティア、私は陛下に竜神探闘ザーズヴォルの事を奏上する。君達は申請をしておきなさい」

「わかりました」

「リグノード、アリスティア達を案内せよ」

「はっ!!」


 イルメスが付き従っていたリグノードと呼んだ騎士に言うとリグノードは直立不動となり即座に了承の意を示した。


「こちらでございます」


 リグノードはそう言うとアディル達をイルメスから案内を受け継ぎ歩き出す。それにアディル達は黙ってついていった。

 皇城の中ではアディル達は様々な種族とすれ違った。竜族の国である以上、竜族は当然であるが、人間、エルフ、ドワーフ、ホビット、獣人など様々な種族である。


(どの種族もとりあえず虐げられているという感じはないな)


 アディルはすれ違う各種族を見て、竜神帝国は竜族が支配者階級であるのは間違いのだろうが、他種族を虐げるというわけではないらしい。その辺りの事はアリスから聞いていたために予備知識があったのだが、ここに来て確認出来たという感じである。


 リグノードに案内されアディル達は皇城の一室に入るとその部屋の中心には一つの水晶球が台座に掲げられ、よく見ると台座から水晶はわずかであるが浮かんでいた。

 部屋の奥に五人の人物が座っている。中心にいるのは白い髪の老年の竜族であり、その他はエルフ、獣人、人間、ドワーフが座っているところをみると彼らが訴えが適切かどうかを裁定するのだろう。


「それではそちらの水晶に触れて竜神探闘ザーズヴォルの申立人、仇の名を告げなさい」


 中心にいる老年の竜族が厳かに告げるとアリスは躊躇することなく進み出て中央の水晶の隣に立った。


「申立人アリスティア=フレイア=レグノール!! 我が両親の仇である現レグノール選帝公イルジード=ザルク=レグノールに竜神探闘ザーズヴォルを申し込む!!」


 アリスがそう宣言して水晶に触れると水晶球は蒼く冷たい光を放った。水晶が蒼く光った事に五人の裁定者達は静かに頷いた。


「うむ……アリスティア=フレイア=レグノールの訴えを認めよう」


 竜族の男性の言葉に四人の裁定者達も同意の表情を浮かべた。


(決まりなのかしら?)

(本当にあっさりと決まるんだな)

(それだけあの水晶に込められている術式に自信があるというわけね)


 アディル達は静かに視線を交わしながらアイコンタクトで意思の疎通を行いつつ、とんとん拍子に進んでいく手続きにアディル達とすれば驚くしかない。


「あれってうちの国でも導入できれば良いのに……」


 ベアトリスがポツリと呟いたが、その内容には大きく頷かざるを得ないというものである。


竜神探闘ザーズヴォルには準備期間として一ヶ月の期間が設けられることになっている。なお、その一ヶ月とは相手ではなくレグノール選帝公イルジードに通知を受け取った次の日から数えて一月後とする。申立人、異存はあるか?」

「ございません」

「それではこれにてアリスティア=フレイア=レグノールの竜神探闘ザーズヴォルの申立の受理を宣言する」


 竜族の男性はそう言うと席を立った。続いて残りの四人の裁定者も立ち上がり部屋を出て行った。


「また、あっさりと受理されたわね」


 エスティルの言葉にアリスは頷く。


「多分、念話テレパスでラグードおじ様が事前に伝えてくれてたのだと思うわ。じゃないといくらなんでもいきなり審査を受けさせてもらう事は出来ないわ」

「ラグード?」

「ああ、イルメス卿の事よ。ラグード=ヴォル=イルメスというのがおじ様のフルネームなのよ」


 アリスの言葉にアディル達は納得の表情を浮かべた。確かにイルメスが予め話を通さなければここまでとんとん拍子に進む事はなかったであろう。


「それで、私達はこれからどうするの? 前の話では竜神帝国の皇帝陛下が保護するという話だったけど」


 アンジェリナの質問にアリスは少し考えてから返答する。


「確か皇城の中にある離れで一ヶ月過ごすという事が出来たはずよ。もちろん希望者だけだから自分でやりたい人は構わないという事よ」

「ふ~ん」

「みんなはどう? 私は皇城の離れで一ヶ月過ごした方が良いと思うけど?」


 アリスの言葉に全員も即座に頷く。確かに絶対安心というわけではないだろうが、他の宿泊施設よりかは刺客に晒される事は少ないだろう。それに何よりアディル達は竜神帝国の通貨をもっていないのだ。

 ここまで状況が揃えばアリスの意見に反対するような者はアディル達の中にいるはずはないのだ。


「皇城の離れをとるに決まってるじゃない」

「ヴェルの言う通りよ。私達は竜神帝国の通貨をもっていないのだから大人しく皇城の離れで一ヶ月間生活した方が良いに決まってるわ」

「決まりね。それじゃあ。皇城の離れに滞在するという事で申し出るわ」


 アリスがそう言うと全員が納得の表情を浮かべた。


 コンコン……


 そこに扉を叩く音が響くとアディル達は全員が扉の方へ視線を移すと扉を開けてリグノードが中を伺いつつ顔を覗かせた。


「あの……申請はお済みでしょうか?」


 リグノードの言葉にアディル達はバツの悪そうな表情を浮かべた。申請が終わったというのに退出しなかったからリグノードが心配して来たのだ。


「ごめんなさいね。申請は無事に終わったけど今後の事について少し話し合ってたの」


 アリスの謝罪まじりの返答にリグノードは恐縮の態度をしめしつつ言う。


「いえ、とんでもございません。今、使いが来まして団長が申請が終わったら“聖竜の間”へ来るようにとの事です」

「聖竜の間ですって?」


 リグノードの言葉にアリスが驚いた表情と声を見せた。それを見てアディル達は訝しがるようにアリスを見る。


「なぁ、その聖竜の間には誰がいるんだ?」


 アディルが全員を代表してアリスに尋ねる。アリスがここまで驚くという事はその聖竜の間によほどの人物がいる事になる。


「聖竜の間は謁見の間よ……」

「謁見? ということは……」


 アディルの言葉にアリスは頷いた。


「そう。聖竜の間で待つのは“ラディム=ジオルク=テル=アルドムク”……竜神帝国の現皇帝陛下よ」


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