竜神帝国篇

竜神帝国篇:プロローグ①

 レムリス領から戻ってすぐにアディル達はアリスに事情を話すと言う事で部屋に集まって話し始めた。


「さて、私の事情をそろそろ話すという事だったからみんなには伝えておくわね」


 アリスが全員に話し始める。この場にいるのはアディル、ヴェル、エリス、エスティル、シュレイ、アンジェリナの六人である。


「ああ、頼む」


 アディルが促すとアリスは頷いた。


「アディル達は知っているけどシュレイとアンジェリナには伝えておくけど私はまず人間ではないわ」

「え?」

「そうなの?」


 アリスの言葉にシュレイとアンジェリナは驚いたような声を上げる。アリスの見かけは人間とまったく見分けが付かないからだ。


「ええ、そうなのよ。見た方が早いわね」


 アリスはそう言うと幻術を解除する。アリスの幻術はただ自分の角を見えないようにするためだけのものでありほとんど魔力を消費することはないため、就寝中も溶けるような事は無かったのだ。

 アリスの側頭部に長さ十センチ程の角が現れる。その角を見てシュレイとアンジェリナは驚きの表情を浮かべるがその視線には嫌悪感は感じられなかった。


「本当に人間じゃなかったんだな」

「まぁ何か妙に納得ね。人間離れした容姿だからエルフと名乗るかと思ったのだけどそうじゃないみたいね」


 シュレイとアンジェリナはうんうんと頷いている。


「あ、ちなみに私も人間じゃないわよ」


 そこに間髪入れずにエスティルも分が人間でない事をカミングアウトする。


「あ、そうなの?」


 アンジェリナはこれまたあっさりとエスティルのカミングアウトを受け入れた。


「じゃあエスティルこそエルフなの?」


 アンジェリナの言葉にエスティルは苦笑を浮かべながら首を横に振るとアリス同様に幻術を解除するとエスティルの側頭部に羊の角のような湾曲した角が現れる。


「ひょっとして……エスティルは魔族なのか?」


 シュレイが驚いたように言うがアリスの時同様にその声に嫌悪感は感じられない。エスティルは密かに安堵の息を発しながら頷く。


「うん、私は魔族よ」

「ちなみにエスティルはガーレイン帝国の皇女様だ」

「「え!?」」


 アディルが間髪入れずに発した“皇女”という情報のインパクトは非常に大きかったようでシュレイもアンジェリナもつい驚きの声を上げていた。


「まぁ、皇女と言っても面倒ごとが多いだけで碌な事無いけどね」


 エスティルの苦笑混じりの言葉であったが、シュレイとアンジェリナは妙に納得したように頷いた。シュレイもアンジェリナもエスティルの仕草にどことなく気品というものがあったために何かしらの身分のある家の出身であると思っていたのだ。


「なるほど、そっちの方の話も面白そうだが、今はアリスの方だな」


 シュレイがそう言うと全員が頷く。


「そうね。話を続けるわよ。私のフルネームは“アリスティア=フレイア=レグノール”というのよ。竜族の国である“アルドムク朝竜神帝国”の出身よ」

「竜神帝国?」

「うん。この大陸とは別の大陸にある竜族達のつくった帝国よ」

「へぇ~」


 アリスの言葉に全員が興味津々という表情を浮かべる。仲間達の反応が良かったことでアリスの機嫌は一気に良くなる。なんだかんだ言ってアリスは単純なところがあるのだ。


「竜神帝国では、皇帝専制が敷かれているんだけど、皇帝の選ばれ方が結構特殊なのよ」

「特殊?」

「うん、基本的に先帝が後継者を指名するんだけどその指名が承認されるかは選帝公が行うのよ。選帝公は竜神帝国の五公爵家が担ってるのよ」

「ひょっとして……アリスの家ってその五公爵家の一つ?」


 エリスがアリスに尋ねるとアリスは頷く。エリスはアリスと出会った時にアリスが“竜姫”と呼ばれていたことからそう判断したのだ。


「うん、レグノール家は五公爵家の一角よ」

「へぇ~それじゃあアリスも貴族様だったのね」


 エリスの言葉にアリスは頷いた。そこにアディルが口を開く。


「それじゃあ、アリスはあの吸血鬼になんで狙われてたんだ?」


 アディルの言葉にアリスは頷く。


「簡単に言えばお決まりの後継者争いよ。私の父がレグノール家を継いだんだけど、それに反対する叔父が父を殺害したのよ」

「え?」

「母は私を連れて逃げたんだけど当然、叔父は追っ手を放ったのよ」


 アリスの目に明らかな怒りが浮かんでいる。そこから父との親子関係は良好であった事が窺える。


「それじゃあアリスのお母さんは?」


 アディルの言葉にアリスは静かに首を縦に振る。アディル達にしてみてもこの場にアリスの母親がいない事から返答は予想が付いていたのだ。


「お母様は私を庇って刺客の手にかかったわ。私はそのおかげで何とか逃れることが出来たのよ」

「そうか」

「ええ、私は父様と母様を殺した叔父が憎いわ。それに刺客の連中も生かしておくつもりはないわ」


 アリスはそういうと艶やかに笑う。言葉は苛烈であるし、人道的なものでは決して無い。だが、それでも確固たる決意をみなぎらせたアリスはとても美しくアディルには思われた。


「なるほどな……アリスの事情はわかった。当然俺は手を貸すつもりだ」

「アディル、ありがとう」


 アディルの言葉にアリスが嬉しそうに微笑む。


「もちろん、私も手を貸すわよ」

「私もよ」

「私もアリスに手を貸すわ」

「俺も助けてもらった。その恩を返させてもらうさ」

「もちろん、私もよ兄さんがいくというのに私が行かないわけ無いでしょう」


 ヴェル達も即座に賛同する。仲間達の言葉にアリスは嬉しそうに微笑んだ。


「ただし、竜族の国にいくと言う事はそれなりの準備は必要だな」


 アディルの言葉に全員が頷く。アディルは強くなるために強者を求めているのは事実であるが、準備をしないというわけではない。むしろ準備を過剰なほど行うのは間違いない。

 そしてそれは他のメンバー達も同様であったのだ。


「とりあえず毒竜ラステマをアルト、ベアトリスに言ってこちらに引き渡させてもらおうじゃないか」

毒竜ラステマを? あいつら大した事無いから意味ないんじゃない?」


 アディルの言葉にエスティルがすかさず疑問を呈する。毒竜ラステマは前情報では最凶の闇ギルドと聞いていたのだが実際にはそれほどの実力を有しているわけではなかったのだ。


「まぁ、確かにそうなんだがあいつらは死んでも心が痛まずに済むだろう?」


 アディルの言葉はかなり残酷なものであるがヴェル達はあっさりと納得の表情を浮かべる。この辺りの価値観はかなりアディル達は一般常識と差異があるのは仕方の無い事なのかも知れない。


「となると毒竜ラステマの尋問が終わってから……竜神帝国という事か?」


 シュレイの言葉にアディルは頷く。


「ああ、その間にシュレイとアンジェリナはハンター試験に合格してもらうぞ」

「望むところだ」

「私もがんばるわ」


 アディルの言葉に二人が即答する。


 こうしてアマテラスは竜神帝国へと向かう準備に入るのであった。


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