反撃篇:エピローグ②
「それにしても結構な量になるな」
アディルの言葉にシュレイも笑いながら頷く。
「ああ、お前達二人が加入してくれたからな。普通に考えて消耗品は四割増しさ」
「快く受け入れてくれて助かったよ」
アディルの言葉にシュレイは苦笑しつつ言う。
レムリス侯爵領から戻ったシュレイとアンジェリナはアマテラスに正式に加入することになったのだ。といっても現在はハンター試験に合格したわけではないので試験に合格してから任務を受ける事になっているのだ。
「あとは……」
「ああ、後でアンジェリナと一緒に小物を買いに出るからもう大丈夫だな」
「そっか、ところでさ。シュレイはアンジェリナの事をどう思ってるんだ?」
アディルはシュレイにそう言って切り出した。アンジェリナの方はシュレイへの想いを隠そうともしないのだが、シュレイの方はアンジェリナの事をどう思っているのか気になったのだ。
もちろんシュレイがアンジェリナを大事に思っているのは分かっているのだが、それが妹に対するものなのか、恋愛対象として見ているのかを考えたのだ。
「もちろん大切な妹だよ」
「でも血が繋がってないんだろ?」
「まぁな。血が繋がって無くてもあいつが妹である事は違いないだろ」
「そうか。確かにそうだな」
シュレイの言葉にアディルは小さくため息をついた。
(アンジェリナ……お前の恋が実るのはまだまだ先だと思うぞ)
アディルは心の中で呟いた。
* * *
「えへへ~最高だわ♪」
アンジェリナが掃除の終わった部屋で満面の笑みで頷いていた。ここは王都にあるジルドの店の二階である。
位置的にはアディル達の部屋の向かいに当たる場所である。
「ふふふ♪ 今までよりもずっと兄さんの近くにいられるわ♪」
アンジェリナの視線の先には一人用のベッドが二つ並んでいる。使うのはもちろんシュレイとアンジェリナである。レムリス侯爵領(今では子爵領)にあった実家の家ではシュレイとアンジェリナの部屋は別であったのだ。
「あんた、凄い強引ね……」
ヴェルが呆れた様にアンジェリナに言うとアンジェリナはニヤリと笑う。
「何言ってるのよ。私は必ず兄さんと添い遂げるんだから、多少の強引さは許されるのよ」
「どういう理屈よ」
アンジェリナの言葉に即座にアリスが突っ込みを入れる。しかし、その突っ込みも妄想に入ったアンジェリナには全く堪えることはなかった。
「分かってないわね。こうやって外堀を少しずつ埋めていき近いうちに私と兄さんは結ばれるのよ。あ、その時に声が漏れてもみんなは気にしないでいてね♪ きゃ~~みんなのえっち♪」
アンジェリナは真っ赤になりながら両手で顔を覆っていやいやという仕草をしている。そんなアンジェリナの姿にヴェル達四人は引いていたのであった。
「さすがにどん引きだわ……」
「うん、でもここまで正直に話されるといっそ潔いという気持ちになるから不思議よね」
「まぁ、この行動力がアディルに向かわなくて良かったわね」
「それは言える」
ヴェル達四人は一人悶えるアンジェリナに努めて冷静な声を向けた。
「ふふふ、何言ってるのよ。私としてもみんながアディルに夢中で助かってるわよ。兄さんに目が行かないから助かるわ。それにしてもみんな大変ね。もう一人増えそうじゃない」
アンジェリナの言葉にヴェル達四人は言葉に詰まる。アンジェリナの言うもう一人が誰だかすぐに察したのだ。
「で、でもいくらなんでも王女様が……」
ヴェルの言葉は希望的観測に基づくものである事は自分自身が知っていた。
「甘いわね」
「……」
エスティルの言葉にヴェルは沈黙によって返答する。エスティルはヴェルが沈黙している事を踏まえて持論を展開した。
「おそらくベアトリスにとってアディルのような存在は初めてのはずよ」
エスティルの言葉に今度はヴェルを含む全員が頷いた。アンジェリナはそんな四人の様子を楽しそうに見ている。
「アディルは相手が王族だからといって決して遜ったりしないし、甘い汁を吸おうと王族に近付いていく事もしないわ」
エスティルの言葉に三人はまたも頷く。
「なぁに言ってるんだか。あなた達だってベアトリスがアディルが好きだって理屈抜きに気付いてるでしょう?」
アンジェリナが呆れながら言う。猪突猛進型のアンジェリナにしてみれば回りくどいヴェル達の行動に呆れるのも無理は無い。ちなみにアンジェリナもベアトリスの事を呼び捨てにしているがこれはベアトリスも承知していることである。
「「「「う……」」」」
アンジェリナの言葉にヴェル達四人は言葉を詰まらせる。アンジェリナの言葉の通りにヴェル達は理屈抜きにベアトリスが強力なライバルになることを察していたのだ。
「これはやはり抜け駆けするしかないわね……」
ポツリとエリスが呟いた事に対して他の三人は反応を示した。
「ちょっとエリス、抜け駆けなんて私が見逃すとでも思ってるの?」
「そうよ!! この私の目をかいくぐるなんて例え神でも不可能よ」
「私もいることを忘れてもらっちゃ困るわね」
三人の言葉にエリスはまずい声に出てたという表情を浮かべて慌てて口を紡いだが遅い事は間違いない。
そのまま四人はぎゃ~ぎゃ~と言い合いを始めた。その光景をアンジェリナは苦笑しつつ見ていた。
(こんな楽しい時間を過ごせるなんてね。みんなには感謝してるわ)
アンジェリナは心の中で四人とここにはいないアディルに礼を言う。兄が死ぬかも知れないという絶望の中で出会ったアマテラス達のおかげで今、自分達はこうして他愛のない会話をすることができるのだ。
そしてこのような他愛のない時間がいかに貴重かをアンジェリナは知ったのだ。
(この恩は必ず返すからね)
アンジェリナがそう思っていた所にヴェルが声をかける。
「ねぇアンジェリナはどう思う? やっぱり私よね?」
「何言ってるのよ私よね?」
「ヴェルもエリス何言ってるのよ私に決まってるじゃない」
「はぁエスティルまで何言ってるのよ。絶対に私に決まってるでしょう!!」
四人の視線がアンジェリナに集中するとアンジェリナは困った表情を浮かべた。考え事をしていたために話を聞いていなかったのだ。
「ご、ごめん。聞いてなかった。何の話?」
アンジェリナの返答にヴェルは頬を膨らませるとアンジェリナに言う。
「もう、今日の食事の時に誰がアディルの隣に座るかって話じゃないの。あんたももう私達の仲間なんだから蚊帳の外にいちゃダメよ」
(……仲間か)
ヴェルの仲間という言葉にアンジェリナは少しだけ頬が緩んだ。ヴェル達の仲間となれたことを素直に喜んでいる自分がいたのだ。
「悪くないわね♪」
アンジェリナの言葉にヴェル達は首を傾げるのであった。
シュレイとアンジェリナがハンター試験に合格したのは十日後のことである。
アマテラスに新たなメンバーが加入し、そしてすぐに準メンバーとも呼べる存在が二人加わることになるのであった。
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