黒幕②
アディル達が隠れている家の前をゴブリンの大群が走り抜けていく。ゴブリンは個体的に見ればそれほど強力な魔物ではない。しかし知能は高く徒党を組み襲撃するので決して油断してはいけない存在だ。
家の前を走り抜けていくゴブリン達に騎士達はゴクリと喉をならした。自分達の仲間の二人がすでに怪物にやられている。この事実は騎士達の心を重くしている。
「よし……そろそろ良いか」
アディルがそう言うとアマテラスのメンバー達は即座に立ち上がった。次いでシュレイ達も立ち上がる。
「当たり前だが戦闘は不可避だ。絶対にしばらくすれば見つかり戦闘に発展する。あらかじめ言っておくが俺の仲間はアマテラスのメンバーだけだ」
「……わかってる」
アディルの言葉にムルグは返答する。アディルがなぜこのような事を言った意図を彼は察していた。アディルの言葉はアマテラスのメンバーは助けるが
「よし、いくぞ」
「「「「うん」」」」
アディルが一声発しアマテラスのメンバー達は一斉に家を出て行く。次いでシュレイ、
アディル達が駆けだして五分程で村の反対側に到達した。そこで一本の矢がアディル達に放たれたがアディルは無造作に矢を掴んだ。
「見つかったな」
アディルがそう言った瞬間にヴェルが【
『ギャ!!』
小さい悲鳴がアディル達の耳にも届く。どうやらヴェルの
「このまま村を出る。いつ戦闘になってもおかしくないから十分に注意しろ」
「了解」
「わかったわ」
「よ~し、いくわよ」
「うん」
アディルの言葉にアマテラスのメンバー達は即座に返答する。その声には一切の悲壮感はない。むしろその声には“蹴散らしてやる”という気概に満ちていると言って良いだろう。アディルの影響なのか最近ではアマテラスのメンバー達は戦闘に対して忌避感がかなり薄れてきているのは事実であった。
ピィーーーーーーーーー!!
ピィーーーーーー!!
周囲で笛の音が鳴り響き始める。ゴブリン達が音で仲間達を呼んでいるのだ。
(あの笛……奪う事が出来たら……かなり有利になるんじゃないか?)
アディルはそう考えると走りながらヴェル達に告げる。
「なぁ、あの呼び笛を奪う事が出来たら相手を混乱させる事が出来るんじゃないか?」
「そうね。呼び笛を持っているゴブリンを斃して笛を奪う事にしましょう」
「よし、それじゃあ早速実行するとしよう」
アディルの言葉にエリスが即座に賛同するとヴェル達も頷く。これはゴブリン達にとって大きな不幸をもたらすことになる。今までは積極的にゴブリンと戦うと言うわけではなく逃走を邪魔する場合に戦うという状況だったのに、アディル達が呼び笛を奪うという選択をした以上、戦闘の数は一気に跳ね上がることになったのだ。
「いたぞ……」
アディルがそう言った先には十体程のゴブリンのグループがいた。アディルが笛の音のした方向に進んだ故の結果であった。
アディル達は散会するとゴブリン達のグループに一気に襲いかかった。ゴブリン達はアディル達に気付いた時にはすでにアディル、ヴェル、エスティル、アリスはゴブリンの首をそれぞれ斬り飛ばしていた。仲間がやられた事に気付いたゴブリンも次の瞬間には首を落とされゴブリン達のグループは苦痛の声を上げる間もなく地面に転がっていた。戦闘開始から十秒も経たずにゴブリンの一グループは姿を消したのだ。
「え~と……これか?」
アディルはゴブリン達の死体の中から呼び笛を見つけ出す。呼び笛はゴブリンの血によって汚れておりしように対してはかなりの覚悟が必要であると思われる。
「よし……」
アディルは血に汚れた笛を手に取ると視線をヴェル達に向けるとヴェル達は首を縦に振ることで応える。
「次行きましょう」
エリスの言葉にアディル達は頷くと次の
これを何度かくり返した結果、アディル達は四つの呼び笛を回収することが出来た。エリスが
「これで良いわね。それじゃあ一度包囲を抜けるとしましょう」
エスティルがそう言うとアディル達はレシュパール山へと向かって駆け出した。後に残りが続く。
「とりあえず、目的の洞窟に向かおう」
「ちょっと待って。アディルは村長の言葉を信じるつもり?」
アディルの言葉にヴェルが尋ねる。
「頭から信じたわけじゃないが、現状ではそこにいくしか手がかりはない。むしろゴブリン達がその洞窟を守るようにしていたら当たりと見ればいいさ」
「行き当たりばったりね」
「人生ってそんなところあるよな」
アディルの返答にヴェルは苦笑を漏らすが文句を言ったりしない。ヴェルはアディルのこういう所は時として事態を動かす事があると思っていたのだ。
アディル達はそのままレシュパール山へと入っていきそのまま道なりに進む。背後の方で小さく笛の音が聞こえてくる。どうやらウサギ達の偽装行動が始まったらしい。騙せるのは僅かの時間だけだろうから少しでもここでゴブリン達を引き離す必要がある。
アディル達は山の中腹のあたりで右側へと進路を変える。
「……ん?」
アディルが立ち止まるとヴェル達も立ち止まった。
「どうしたの?」
「しっ!!」
アディルの言葉に尋ねたヴェルは即座に口を紡ぐ。アディルはハンドシグナルで道の横にある茂みに全員が入っていく。息を潜めてしばらくすると何者かがこちらに向かってきているのを察した。
茂みの中からアディル達は向かってくる何者かを確認している。そしてその何者かが現れた。全身を黒い
(強い……)
瞬間的にアディルは騎士の強さを察する。アディルは先頭の騎士のとてつもない強さを感じ取ると思わずニヤリと嗤う。
(正直……戦ってみたいけど今回は見送るべきだよな)
アディルは心の中で悔しがりながら見送る事にする。アディルの目的の大部分は強者と戦う事なのであるが、時と場所は弁えるのだ。もしこの場で戦うとなれば仲間達も危険にさらす事になってしまう。それはアディルとしても避けたい所であった。
騎士達はアディル達を通り過ぎようとしたときピタリと止まる。先頭の騎士に付き従う騎士達が戸惑ったように尋ねた。
「メイノス卿……いかがされました?」
「ふ……ゴブリン共の包囲を抜けてきたか……中々侮れんな」
「……まさか」
「そのまさかだ。そこに潜んでいる」
メイノス卿と呼ばれた騎士がそう告げた途端、背後の騎士達がメイノスを守るように周囲に動いた。
(見つかったか……仕方ない)
アディルは立ち上がるがその顔には隠しきれない喜色が浮かんでいた。
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