邂逅④

(この二人が今日会ってくれるという王族か……)


 アディルは局長室に入室すると同時に席に座っている同年代の二人に視線を止めた。


「え……うそ……」


 ヴェルの小さい呟きがアディルの耳に入る。


(ヴェルが驚くと言う事はここにいることが不思議な身分の二人という事か……)


 アディルがヴェルの呟きから二人が相当な大物である事を察する。


「よく来たね。まずは座ってくれ」


 アルトがアディル達に着席を促すとアディル達は緊張しながらもアルトとベアトリスの対面上に座った。


「初めましてアマテラスの諸君、私の名はアルト=ヴィレム=ヴァイトスだ」

「初めまして私はベアトリス=レナ=ヴァイトスよ」


 アルトとベアトリスが名乗った事に対してアディル達は驚きの表情を浮かべる。アディル達はアルトとベアトリスの名を当然知っている。アディル達はいくらなんんでも王位継承権一位、二位が現れるとは思っていなかったのだ。

 アルトとベアトリスはアディル達が驚きの表情を浮かべた事に対してしてやったりという表情を浮かべる。この二人は人を驚かせるという行為が好きであるという困った所があるのだ。


「さて、こちらも名乗ったのだからそちらも名乗ってくれないかな?」

「そうそう、私達だけというのはね?」


 アルトとベアトリスの言葉にアディル達も我に返るとそれぞれ名乗る。


「俺、いえ私はアディルといいます。家の名はしきたりのために名乗れませんので名前だけという事で……」

「私はエリス=リートといいます」

「エスティル=ルシュナ=ガーゼルベルトといいます」

「私はアリスティア=レグノールです」

「ヴェルティオーネといいます」


 アディル達が名乗るとアルトとベアトリスはそれぞれ頷く。


「ヴェルティオーネ様は……レムリス侯爵家の?」


 ベアトリスがヴェルに尋ねるとヴェルはきっぱりとした言葉で言う。


「今はレムリス家とは何の関わりもありませんのでヴェルティオーネだけで結構です。それから私に様は不要です。今の私は貴族でも何でもない平民ですので」

「そうですか、ではアディル様もどこぞの?」


 ベアトリスは次にアディルに目を向ける。家の名を名乗れないというのは何やら訳ありのように思えたからだ。


「いえ……俺、じゃない私の場合は……」


 アディルが途中で言葉を句切ったのはアルトが片手をあげて制したからだ。


「ああ、これは非公式な会合なんだから言葉遣いはいつもので構わない。ついでだ敬称も砕けた感じでいくけど大丈夫かい?」

「そうね。話が進まないし余程失礼な言い方でなければ大丈夫よ」


 アルトの言葉にベアトリスも賛同する。


「そうですか。それなら失礼に当たらない範囲で……」


 アディルはそう言うと話し始める。ヴェル達はアディルの言葉に少しばかり緊張しているようである。いくら許しがあったからと言っても調子に乗って相手を不快にさせたら目的が果たせなくなるからだ。


「俺が家の名前を名乗らないのは父から許しを得ていないからです」

「ほう」

「俺が父に認められれば晴れて家の名前を名乗ることが出来るというわけです」

「珍しい家だね」


 アルトはそう言うとやや不満気な表情を浮かべる。


「しかし、いつもの口調と言ったけどまだまだ口調は堅いね」


 アルトの言葉にアディルは頷く。


「それはそうですよ。王女殿下は余程失礼な言い方出ない限り大丈夫と言ったじゃないですか」

「え、私?」

「ええ、俺はあなた達がどこまで許すだけの器量を持っているのか把握していない以上、危ない橋を渡れませんよ」


 アディルの言葉にアルトとベアトリスはニヤリと嗤う。その嗤いはアディルが強者を見た時の笑顔に似ているとヴェル達と咄嗟に感じたほどである。


「ほう……そうか。じゃあこっちもいつもの通りで話すとするか。そっちも気にせずいつも通りで大丈夫だよ」

「良いのか?」

「君は身分というものに畏まるような人間には思えんな」

「そりゃ誤解だ。俺は上下関係に厳しい男だぞ」

「その言葉遣いで上下関係を云々言われても説得力がないな」


 アディルとアルトは長年の友人のように話し出した。


「ちょっとアディル、いくらなんでも殿下に対してその口の利き方はないんじゃない?」


 エリスの苦言にアディルは首を横に振る。


「いや、両殿下は俺達と勝負したいのさ」

「勝負?」

「ああ、自分達を動かすだけの交渉をしてみろってさ。だろ?」


 アディルの問いかけにアルトとベアトリスはまたもニヤリと嗤う。それを見たエリスはため息をつく。


「なるほどね……両殿下のさっきの笑顔はアディルが強い者にあったときの笑顔に似てたからまさかとは思ったけど」

「はぁ……似た者同士だったのね」

「仕方ないわよ。“類は友を呼ぶ”ってやつよ」

「でも、これで覚悟は決まったという事で良いんじゃない?」


 ヴェル達もどこか吹っ切れたかのように話し出す。ある意味開き直ったという事だが、ヴェル達もアルト達との態度から即処刑という事はないと判断したのだ。


「さて、前哨戦は終わったと言う事でこれからあんた達を口説き落とすとしよう」

「楽しみだよ」


 アディルの言葉にアルトは楽しそうに笑った。


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