邂逅③

 ジルドが掛け合ってくれたためか翌日早速アディル達は王族との面会がかなった。頼んだ翌日に面会がかなった理由はアルトとベアトリスもまたアディル達とコンタクトを取りたいと考えていたためとジルドの紹介、そして急ぎの公務がなかったとう様々な要因が重なった結果であった。

 アディル達はジルドから紹介状をもらってから約束の時間に間に合うように余裕を持って出発する。


「しかし、それにしても申請した翌日にいきなり会ってくれるなんて思わなかったな」


 アディルが官庁街に向かいながら感慨深く言うとヴェルがすぐに返答する。


「そうね。いくらなんでも異常事態よ。王族

がすぐに会ってくれるなんてあり得ないわ」


 ヴェルの言葉は貴族というものの一端を知るヴェルならではの感想である。ヴェルは冷遇されていたとはいえ侯爵令嬢であったために貴族に面会しようとしても容易にいかない事を知っているのだ。


「その異常事態を引き起こしたのは一体何なのかしらね」


 そこにエリスが緊張の面持ちで言う。エリスもまた王族の面会がとんとん拍子に進んだ事に対して少なからず戸惑っているのだ。


「そりゃ、ジルドさんだろ」


 アディルがあっさりと言うとエリスは何言ってるのよという視線をアディルに向ける。


「はぁ確かにジルドさんの存在は大きいのはわかってるけどそれだけで王族が私達のような一介のハンターチームにあってくれるわけないことはアディルだってわかってるでしょ」

「そりゃあな」

「私はどんな条件が出されるかが不安なのよ」

「まぁ無料タダじゃないよな」


 アディルの言葉にエスティルが警戒した声を出す。


「それって王族は私達を手下にするという事?」

「う~ん……それはないんじゃないかな。私達って対外的には単なるシルバーランクのハンターチームよ。もちろんエリスがプラチナクラスという事を考えれば可能性はあるかも知れないけど得がたい人材という程じゃないんじゃない?」

「それもそうよね」


 エスティルとアリスが会話にアディル達は相づちを打つ。


「まぁ、結局の所は会って話をしてみないことには何もわからんという事だな。でもこちらとすれば何とかしてレムリス侯爵家への反撃に何とか協力を仰ごうじゃないか」


 アディルの言葉に全員が頷く。アディルの言った通り結局の所出た所勝負なのは否めないのだ。せめて消極的であれ協力してもらうというのがアディル達の考えであったのだ。


「あれが公文書保存局ね」


 ヴェルの指し示した方向に目的地の公文書保存局が見えてきた。




 *  *  *


 公文書保存局の局長室には三人の人物が座っている。一人はこの局長室の主であるアルダート、そして後の二人はもちろんアルトとベアトリスである。

 アルトとベアトリスの二人の服装は華美なものではないが、十分に人目を引くのはやはり容姿が優れている点と放たれる上品な雰囲気からであろう。


「楽しみだわ~」


 ベアトリスが公文書保存局の局長室のソファで楽しそうに呟く。アルトもベアトリスも約束の時間から遥かに早い時間から公文書保存局へと出向いていたのだ。


「ああ、悪食王ガリオンドを葬り、ジルドと互角の戦いをしたハンター達、しかも俺達と年齢は変わらない」


 アルトもまたベアトリス同様に興味津々という様子だ。


「両殿下……あまり素の姿をお見せにならないようにしてください」


 そこにアルダートが苦言を呈する。アルダートはアルトとベアトリスを昔から知っており王族としての仮面を被っていないときは年相応の少年少女であるのだ。


「わかってるさ」

「わかってるわよ♪」


 アルトもベアトリスもアルダートの苦言に対して素直に答える。ベアトリスの方は多少返事が軽いのだがアルダートはそこには触れない事にした。


「それよりもアマテラスがどのような要望をしてくるかわかりませんのでお二方は安請け合いなどしないようにお願いします」


 アルダートの言葉にアルトもベアトリスもニヤリと嗤う。その嗤いを見てアルダートは安堵の息をもらす。


「わかってるさ。アマテラスが俺達を利用とするのならこちらもそれ相応の対応をするさ」「私もよ。私だって王族よ。利用しようとする者のあしらい方なんてとっくに身につけてるわよ」


 アルトとベアトリスは続けて言う。二人にしてみれば幼い頃より自分達に近付いてくる者のなかには自分達を利用しようとしている者がいることを学んだ。その中には二人にとって苦い想い出もいくつもある。


「それを聞いて安心しました。まぁカーグ前統括官の紹介ですから害を及ぼそうというのならそこではねられていることでしょうな」

「そうだな。ジルドという厳しい目に叶っているのだからその辺は安心だな」


 アルトの言葉にベアトリスも頷く。


「そうね。その辺は大丈夫と思うけど相手もそれを理解していると考えた方が良いのかしらね」

「そう考えた方が無難じゃないかな」

「そうよね。それを理解している相手が私達をどう口説き落とそうとするか楽しみね」


 アルトもベアトリスもそう言って笑い合う。妙に邪気のない笑いであるがアルトもベアトリスもお互いの笑顔に何かを期待しているかのような感情が含まれているのを感じている。そしてお互いにその期待するものが何かを知っていたのだ。


 コンコン……


 その時、局長室の扉がノックされる。いつもであればノックは不要となっているのだがアルトとベアトリスがいる故の行動であろう。


「入れ」


 アルダートの言葉を受けて扉が開くと一人の職員が頭を下げながら局長室に入ると要件を告げる。


「局長、アマテラスが来ました」

「そうか、それではここに案内してくれ」

「はっ」


 アルダートの指示を受けて職員は一礼すると局長室を出て行く。


「来たか……随分と早いな」


 アルトの言葉にアルダートも頷く。アディル達がやって来たのは約束の時間から四十分も早いのだ。


「向こうも私達と同じで早く会いたかったと言う事かしらね」

「かもな」

「いずれにしても楽しみね」

「ああ」


 アルトとベアトリスがニコニコしながら話していると再びノックの音が局長室に響く。


「入りなさい」


 アルダートの許可が出た所で扉が開きアディルを先頭にアマテラスが姿を見せた。


 アマテラスとアルト、ベアトリスとの邂逅である。 

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