幕間:ロジャールの現状
アディル達が戻ってきた事に対して公文書保存局の面々は喜んだが、ロジャールの姿を見たときに驚愕の表情を浮かべていた。
たった一人しか戻ってこなかった事もあるのだが、ロジャールの風貌が一気に二十は老け込んでいたように見えたからである。髪の色は抜け落ちて半白となり、顔にはしわが刻まれていた。
たった一、二ヶ月前とはまったく異なる姿であった事に公文書保存局の面々はどのような苛烈な経験をしたのか気になったが、アディル達はただ単に『他種族との厳しい戦いを経験しただけですよ』という言葉だけを返した。
ロジャールの風貌を見てから一体何の種族と戦ったのかという疑問は残ったがその辺りの事はベアトリスが報告書を提出するからそれを読むようにと事であったので公文書保存局の面々は大人しく引き下がった。
そしてロジャールは例の牢獄に大人しく連行されていきそのまま牢獄の中に入る。その際にアマテラスの面々もそれに付き合った。逃亡防止のためであるがそのような元気は今のロジャールには一切見られないがそれでももしもと言う事がある。
「それじゃあロジャール。
アディルの声かけにロジャールはビクリと肩をふるわせると恐怖に満ちた顔で振り返った。
「も、もう、これで終わりではないのですか!?」
完全に震える声でロジャールが言うがアディルはしっかりと首を横に振る。
「そんなわけないだろう。お前の仲間達は不幸にもやられてしまったが、お前は生きてるじゃないか」
「お願いです!! もうあんな奴等と戦うのなんかごめんです!!」
ロジャールの声には悲壮感がたっぷりと含まれているが残念だがアディル達にそれをあわれに思う心はなかった。アディル達はルーヌスの尋問の結果を聞かされていたのだ。
「そういうな。今度も頼むよ。アリスに聞いたがウルグとかいう
「ひぃぃぃぃぃ!!」
アディルの言葉にロジャールは頭を抱えてしまう。
別にアディルとすればロジャールを苛めるつもりはなかったのだが、結果として
「まぁ仕方ない。ジグーム局長それではよろしくお願いします」
アディルがアルダートに頭を下げるとアマテラスの面々も頭を下げる。ちらりとロジャールを見ると牢獄の中で蹲り頭を抱えてぶつぶつと何事かを呟いている姿が目に入る。
「ところでここにいる囚人達ですが……」
アディルは他の牢獄を見回すとそれぞれの扉の向こうからビクリとした雰囲気が伝わってきた。彼らの中にも
その
「武闘派の連中はいますか? もし可能なら今度はこいつらも連れて行きたいのですがね」
アディルの言葉にアルダートは苦笑を浮かべる。アディルの言葉は本心からのものではない単なる脅しである事を察したのだ。
「そうだね。こいつ等の中で態度の悪い奴がいたら優先的に君達に任せてみるよ」
「はい。よろしくお願いします」
アルダートの言葉にアディルがニッコリと笑って返答するとアマテラスの面々は苦笑を浮かべていた。
「それじゃあ、戻ろうか」
「そうね」
アディル達はそう言葉を残すとそのまま牢獄を出て行ったのである。
* * *
アディル達の去った後のロジャールは少しの物音にビクリとする生活を送っていた。その姿はとてもヴァトラス王国最凶の闇ギルドである
「次は一体……何と戦わされるんだ?」
ロジャールの声はか細い。それは不安の声である。今の状況が今までの悪行の報いである事はロジャールも理解している。だが、それでもこの苦しさから逃れたいというのは偽らざる本心であった。
「……みんな」
ロジャールの脳裏にはすでにこの苦しみから逃れることの出来た仲間達の顔が浮かんでいる。羨ましいと思う反面、どうしても死にたくないという感情がロジャールの心でせめぎ合っているのだ。
「怖い、いつまたあいつらが来ると思うと……たまらなく怖い」
もはやロジャールにとってアディル達は死を告げる死神としか思えない。
「闇ギルドなんかに入らなければ……」
ロジャールの心には平穏というものは永遠に訪れることはないのだろう。
異世界の兵法を継ぐ少年 ~この世界の兵法と相性がいいのか無双状態~ やとぎ @yatogi
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