竜神探闘⑭

 ヴェル達とラウゼルの戦いが始まった。前衛を務めるのはベアトリスの傀儡である黒の貴婦人エルメトとヴェルであり、エリスとアンジェリナが支援を行っている。


 ベアトリスの操る黒の貴婦人エルメトは両腕に仕込んでいる剣を使いラウゼルと斬り結んでいる。

 ラウゼルは手にした長剣を振るいつつ黒の貴婦人エルメトの猛攻を余裕の表情で捌いていた。


(やるわね……というよりも私一人では勝てないのは間違いないわね)


 ベアトリスはラウゼルの実力が自分を遥かに上回るものである事を察している。だが、恐れてはいなかった。要所要所で心強い仲間達の援護が入るからだ。


 ラウゼルの長剣が黒の貴婦人エルメトの各部を斬り飛ばそうとしたところにヴェルが薙刀の斬撃を、アンジェリナが魔術でそれぞれ支援しておりラウゼルは黒の貴婦人エルメトを斬り伏せることが出来ないでいたのだ。


「ええい、煩わしい!!」


 ラウゼルの口から苛立ちが籠もった声が発せられる。ヴェルやアンジェリナの支援がなければ唐に黒の貴婦人エルメトを破壊する事が出来ているはずなのにそれが出来ない事が苛立たせているのである。


 ラウゼルは長剣をベアトリスに投げつけた。高速で投げつけられた長剣がベアトリスの元に向かうがベアトリスは焦ることなく黒の貴婦人エルメトの剣で叩き落とした。


「あら、こらえ性がないわね」


 アンジェリナがそう言うとラウゼルに向かって雷の雨ライトニングレインを放った。この雷の雨ライトニングレインは文字通り、空から数十本の落雷を落とすという魔術だ。超高電圧の雷珠を空中に放ちそこから一気に放電するのだ。


「ふん」


 ラウゼルは頭上に防御陣を即座に形成すると数十本の落雷を防いだ。ラウゼルの防御陣には傷一つも付いていない。

 ラウゼルは虚空に手を突っ込むとそこから巨大な戦槌を取り出した。ラウゼルの手にしている戦槌は全長2メートル程の巨大なものだ。ラウゼルは巨大な戦槌を構えるとそのまま一気に振り下ろした。


 ドゴォォォォォォォォォォォ!!


 振り下ろした戦槌は地面に触れるとそのまま巨大な爆発を巻き起こした。爆風と破片が周囲に撒き散らされる。アンジェリナとヴェルがすかさず防御陣を形成したためにヴェル達にケガはなかったが、防御陣の範囲から漏れた駒が五人ほど吹き飛ばされ地面に転がっている。

 手足、首があらぬ方向を向いているためにすでに絶命しているのは明らかだ。いや、それどころか原形を留めていない者もいた。

 かろうじて生き残った駒はエリスの近くにいたため防御陣に運良く守られたのだ。


「余波でこれとはね」


 エリスの口から称賛の声が上がる。だがその声の奥にある緊張が含まれている事をヴェル達も察している。もちろんエリスの気持ちとヴェル達も同様であった。


「単なる脳筋じゃないのは確かね」

「ええ、今の一撃も私達への牽制が目的でしょうね」


 ヴェルの意見にベアトリスも即座に答える。


「あの戦槌の一撃をまともに食らったら私達の防御力じゃ一発であの世行きね」

「ということはまともに食らわなければ良いと言う事よね」

「そういう事。アンジェリナあれ・・をやるわよ」

「了解!!」


 エリスとアンジェリナが会話を交わし、エリスが懐から符を取り出した。その符は他の符と異なり銀製のものだ。

 銀の符からモコモコと黒い靄が発生すると少しずつ、銀の符はヤスリにかけられたかのように少しずつ消えていく。だが、普通の紙製の符より発生する靄の量が桁違いに多い。

 大量に発生した黒い靄に今度はアンジェリナが集めた瘴気が注ぎ込まれると混ざり合った黒い靄と瘴気は一体の巨大な騎士を生み出した。

 形成された騎士は、アンジェリナがかつて生み出したアンデッドである死の凶剣士デスベルセルクよりも一回り以上大きい。

 この騎士の名は“煉獄の騎士ガルーシャスという名前が与えられていた。エリスの式神とアンジェリナの生み出したアンデッドを合わせたものである。

 エリスがアンジェリナが死の凶剣士デスベルセルクを作成したのを見てから話を持ちかけて生み出された守護者ガーディアンである。

 エリスとアンジェリナはかなり苦労したのだが、元々エリスとアンジェリナは魔力操作に関して凄まじいほどの器用さを発揮したために短期間で作成に成功し、少しずつ完成度を高めていったのである。


「よし行け!!」

『グォォォォォォッォ!!』


 エリスの命令に煉獄の騎士ガルーシャスは咆哮を上げるとラウゼルに向かって駆け出した。この煉獄の騎士ガルーシャスはエリスとアンジェリナの命令に絶対服従するようになっているのだ。


 煉獄の騎士ガルーシャスの放つ威圧感にラウゼルは緊張感をもった表情を浮かべると凶悪な騎士を迎え撃った。

 煉獄の騎士ガルーシャスが強烈な斬撃を放つ。ラウゼルはそれを躱すような事はせずに真っ正面から戦槌で受け止めた。


「ぬん!!」


 ラウゼルはそのまま煉獄の騎士ガルーシャスの大剣を弾き飛ばすと頭上で一回転させて戦槌を振り下ろした。


 ガギィィィィィ!!


 ラウゼルの戦槌と煉獄の騎士ガルーシャスの大剣がぶつかると凄まじい音が発生する。煉獄の騎士ガルーシャスの膝がラウゼルの戦槌の一撃でおれるが何とか踏みとどまった。


「う~ん、あっちの方が地力があるみたいね」

「まぁ一対一・・・なら勝ち目は無いでしょうね」


 エリスとアンジェリナがラウゼルと煉獄の騎士ガルーシャスの戦いを見ながら会話を交わす。二人の声には余裕があったのは確実である。


「でもこれって一対一じゃないもんね」

「そういう事」


 エリスの言葉にアンジェリナは返答する。そしてヴェルとベアトリスも同様に頷く。


「それじゃあ、私もせっかくジルドがくれた傀儡を使ってみるとしましょうか」


 ベアトリスがそう言うと懐から珠を取り出した。幾重にも符が貼られているという物々しいものである。

 ベアトリスはその珠に向かって何かしら呟くと地面に放った。放られた珠は地面に転がると貼られていた符がどろりと溶けると中から水晶球が姿を見せる。

 

 ピシッ!!


 地面に転がった珠は内部からひび割れると粉々に砕け散った。砕け散った水晶の後に一体の傀儡が姿を見せた。その傀儡は白い全身鎧フルプレートに身を包み、羽根飾りのついた長弓ロングボウを手にしている。腰には矢筒がついているが一本の矢も収められていない。


「弓を持っている所をみると遠距離用ね。でもその弓には弦が張ってないわね」

「まぁ、まだ起動してないからね」

「?」

「こういうことよ」


 ベアトリスはそう言うと右手の指先から魔力の糸を形成して白の傀儡と繋げると弓に弦が張られ、矢筒に弓が現れた。そして背中に純白の翼が現れた。


「弦と矢はベアトリスの魔力で形成されているという訳ね」


 ヴェルの言葉にベアトリスも頷く。


「ええ、そしてこの翼も只の飾りじゃないのよ」


 ベアトリスの言葉通り傀儡は背中の翼をはためかせると空に舞った。





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