動乱予兆篇:エピローグ
食事を終えレムリス侯爵領へと出発したシュレイを見送ったアディル達アマテラスは深刻な表情を浮かべながら途中にあるカフェに入店すると席に着き紅茶を注文する。
しばらくして注文の紅茶が届けられるとヴェルが口を開く。
「シュレイ……死ぬ気ね」
ヴェルの言葉にアディル達はそれぞれ神妙な表情で頷いた。シュレイの置かれている状況を考えればレムリス侯爵家に弓引いた事になる以上、只で済むはずがない。レムリス侯爵家の一族をよく知るヴェルとしてはシュレイを決して許すこと無く命を奪う事を予測していた。
「でも……シュレイは生半可な気持ちで侯爵領へと向かったわけでは無いわ。あの意思を覆させることは出来ないわ」
エリスの言葉にまたも全員が頷く。アディル達がいかに止めようとしてもシュレイはそれを振り切って自分のケジメをつける覚悟をアディル達は察していたのだ。
「う~む……侯爵領へは王都からどれぐらいだ?」
アディルがヴェルに尋ねるとヴェルは少し考えてから返答した。
「そうね……馬車で大体十日ぐらいかしら……」
「十日か……」
ヴェルの返答にアディルは小さく言葉を漏らす。
「なぁ……みんな」
アディルが意を決したように仲間達に問いかけると全員の視線がアディルに集中する。
「正直な話、俺はレムリス侯爵家の連中はクズだと思ってる。俺達に
アディルの言葉には明確な敵意が含まれている。妙にアディルは苛立っておりレムリス侯爵家への敵意をまったく隠していない事にヴェル達は互いに視線を交わして確認する。
「俺は練習相手の確保のためにレムリス侯爵家に喧嘩を売ったがあいつらは自分達に直接被害が及ばないと思ってやりたい放題だ」
そこでアディルは一端言葉を切ると言葉を続けた。
「ここらで一度反撃といきたいんだがみんなはどうだ?」
アディルの言葉にヴェル達は苦笑する。アディルはレムリス侯爵家への反撃を提案しているがそれは“手段”であり“目的”では無いことに気付いているのだ。
アディルの目的は“シュレイを助ける”事でありレムリス家へダメージを与える事は“ついで”でしかない。
「ふふふ、良いわよ。そうこなくっちゃ」
ヴェルがその秀麗な顔に笑顔を浮かべながら言う。その笑顔は美しさの中に苛烈な意思が含まれており見るものが見ればゾクリという感想を持つであろう。
「私も良いわ。やられっぱなしというのは好きじゃないの」
エリスも賛同する。
「私も賛成。次の相手は侯爵家……人間の侯爵家がどれほどの事をしてくるか興味あるわね」
エスティルも賛意を示した。魔族の皇女であるエスティルにとって侯爵家程度では恐れ入ったりはしないのだろう。
「シュレイを見捨てるというのは目覚めが悪いからいっちょやりますか。シュレイを助ける事にしましょう」
アリスも賛同する。ここでアリスはアディルの本当の目的を言う。それを聞いたヴェル達三人はアリスに鋭い視線を向ける。アリスはその視線を受けて“あ、やば”という表情を浮かべるとアディルに視線を移した。
「アリス……俺の目的はシュレイを救う事じゃ無い。あくまでレムリス侯爵家へ意趣返しをするためだ……ってなんだよその顔は?」
アディルの最後の言葉は四人がニヤニヤとした笑顔を浮かべていたからだ。
「べっつにぃ~♪」
「素直じゃないんだから♪」
「ふふふ♪」
「正直に言っていいのに♪」
四人のニヤニヤとした笑顔にアディルは少しばかり心外だという表情を浮かべる。ここで反論しても深みに嵌まるだけなので反論を控える。
「でもレムリス侯爵家に喧嘩を売ると言ったって考え無しにやったらすぐに犯罪者となるだけよ?」
エリスの言葉にアディルは頷く。
「その辺りの事は考えてる。俺達にはツテがあるじゃないか」
「ハンターギルドじゃないわよね……となると……
「そういう事だ」
エリスの言葉にアディルは即座に頷く。それに伴いヴェル達も同様に頷いた。アディルの言うツテが誰を意味するか察したのだ。
「それじゃあ、早速行くとしようか」
「「「「了解♪」」」」
アディルの言葉に四人は返答するとツテを持つ人の元に向かう事にした。
そして、アディル達は店を出てその人の元に向かった。そこは王都の商業地区にある一軒の食料品店である。
「おや、お帰りみんな」
ジルドがアディル達を見るとにこやかに笑いながら声をかける。アディル達もジルドを見てにこやかに笑うと声をかける。
「ただ今戻りました。早速ですがジルドさんにお願いがあります」
「ん?」
アディルの言葉にジルドは首を傾げる。それを見てアディルは口を開いた。
「俺達を王族に紹介してくれませんか?」
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