出発①
アディル達が
この男達は
アディル達から見て
だが、これは大きな間違いで
アディル達の
「よし、これから出発する」
アディルの言葉にアマテラスのメンバー達は準備万端という風に頷く。
すでに闇ギルドの二十人には
その瞬間である……。
「これは……」
アディルが小さく呟き、他のアマテラスのメンバー達もやや呆然とした声を上げる。アディル達の側に魔法陣が発生したのだ。その魔法陣は
そして、この召喚術が誰のものである事も理解したのだ。魔法陣から一人の可愛らしい少女が姿を見せる。金色の髪を後ろで一纏めにして、旅装に身を固めているがその立ち居振る舞いには妙な気品が感じられる。
「え~と……ベアトリス……なんでここに?」
アディルが額を抑えるのを何とか堪えるような声で現れた少女の名を呼ぶ。ヴァトラス王国の王女であるベアトリス=レナ=ヴァイトスがアディル達の前に現れたのだ。
「もちろん、私もついていくためよ」
ベアトリスは“何言ってるの?”と言わんばかりの表情と声でアディルの質問に返答する。
「いや、なんでお前が竜神帝国にいくんだよ。普通に考えて連れていくわけないだろう」
「そうよ、いくらなんでもベアトリスを連れて行けないわ」
アディルとアリスが即座に同行拒否の意思表示を行うがベアトリスはまったく恐れ入ったりしない。
「いいじゃない。私はこうみえても頼りになるわよ」
ベアトリスの言葉にアディル達は首を横に振る。ベアトリスが頼りになるのは前回のシュレイの呪いを解いた件でわかっているのだが、王女を連れ回す事などできるわけないのだ。
なぜなら、竜神帝国はヴァトラス王国と国交を結んでいない。そして今回竜神帝国に行くのは密入国であり犯罪行為だ。そこに王族であるヴァトラス王国の王女が密入国に関わっているともなれば国際問題どころか宣戦布告案件となるのは間違いないだろう。
「多分、みんなは私が竜神帝国に行けば国際問題になると思ってるんだろうけど、そんな事は承知の上よ」
「はぁ?」
ベアトリスの言葉にアディルは信じられない言葉を聞いたかのような反応を示す。いくらなんでもそんな言葉を聞いて平静を保つことは出来ない。
「どういう事だ?」
アディルからやや険が含まれる言葉が発せられた。しかし、ベアトリスはまったく動じない。この辺りの反応は王女として長年培ってきたものがあるのだ。
「簡単よ。アリスはもと竜神帝国の民なんでしょう? しかも高位の家格を有する令嬢なのよね?」
「う、うん」
ベアトリスの言葉にアリスも頷く。その様子を全員が黙って見ているとベアトリスはそのまま続けて言う。
「言わば亡命してきたアリスを竜神帝国の配下の者がこのヴァトラス王国で亡き者にしようとしたと言う事よね?」
「そ、そうなるわね」
「ねぇ……どうして竜神帝国の方がヴァトラス王国でそんな行動を取っているの?」
「つまり、先に手を出したのは竜神帝国と言いたいの?」
アリスの返答にベアトリスはニヤリと微笑む。これほどの美少女の笑みなのだがニコリと称するべきなのだろうが、どうしてもニヤリと称した方が良いような感じがする笑みである。
「そういうことよ。その時はアリス個人を狙ったものだったかもしれないけど、次回はこのヴァトラス王国に狙いを定める可能性はあるわ」
「しかし……それで戦争になったらどうする?」
「そうならないために私は行くのよ」
「どういうことだ?」
ベアトリスの言葉にアディルは意図を尋ねる。
「簡単よ。人間は
「ようは舐められないようにするために人間の力を見せるというわけか」
「簡単に言えばそういう事ね。あなた達の実力なら相手への良い抑止力になる可能性が高いわ」
「しかし、危険な賭だと思うぞ。アリスの実力を見て見ろ。生半可な実力では抑止力なるかわからんだろ」
「その辺は大丈夫よ。あなた達は生半可な実力と言えるかしら? ねぇみんな、あなた達の目から見てアディルは生半可な実力?」
ベアトリスはそう言うとヴェル達に向けて言う。ベアトリスの言葉にヴェル達は即座に首を横に振る。その反応を見てベアトリスはまたもニヤリと嗤うと次にアディルに向けて言う。
「アディルから見てみんなの実力は生半可なのかしら?」
ベアトリスの言葉にアディルは静かに首を横に振る。アディルにしてみればこのような聞かれ方をされれば首を横に振らざるを得ない。
「というわけであなた達を抑止力に使うという事であなた達を雇わせてもらうわ。残念だけどハンターギルドを通しての依頼じゃないけどポイントは付かないけどそこは納得してちょうだい。その代わりにちゃんと報奨金は出すわよ」
ベアトリスはそう言うとアディル達に視線を移した。アディル達はベアトリスの自信満々な表情の奥に少しばかり不安が含まれているのを察していた。
(どうする……一応話の筋は通っているが……)
アディルはベアトリスの申し出を受ける事について逡巡する。その理由は何かあった時にベアトリスを守り切る事が出来るか不安があったからだ。
「ねぇ……ダメかな?」
ベアトリスの不安そうな言葉にアンジェリナが返答する。
「良いんじゃないかしら」
「アンジェリナお前、何言ってるんだ?」
アンジェリナの言葉にシュレイが慌てて言う。いくら何でも王女をつれて行くわけにはいかないという思いからである。
「みんな難しく考えすぎよ。私達は誰も死ぬつもりはないんでしょう? アディルもそのためにこいつらを集めたんじゃない」
アンジェリナはそういうと駒の男達を指差して言い放った。
「それにベアトリスは頼りになるわ。魔術の解析能力の腕前だけでも同行してくれると正直助かるわ」
「そ、それはそうだが」
「なら迷う必要はないじゃない。 アディルが
アンジェリナはあっさりとした口調で言い放った。
「それに私の予想だけどベアトリスはここで同行を拒否してもついてくる手段があると思うわ」
アンジェリナの言葉にアディル達ははっとする。アンジェリナの言う通りベアトリスがここに無策で現れるわけがない。というよりもすでに仕込まれた可能性があることに思い至ったのであった。
アディル達がベアトリスを見るとニッコリと微笑んでいた。
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