第39話 王都へ ~ある魔族達の災難②~
エスティルの魔力量はほとんど底をついていたのだが馬車を作成するぐらいは余裕で確保できていたため、問題無く作成することが出来たのだ。
馬車の中でエリスはアリスの負傷を癒やすために治癒魔術を施している。
「どうかしたの?」
「うん……ちょっとね」
ヴェルが隣に座るエスティルに話しかける。エスティルの様子が魔力の欠乏による疲労以外に何かを気にしているようにヴェルには思われたのだ。
「さっきの戦いで私がつかった術なんだけど」
エスティルのつかった術とは間違いなく
「凄い術だったわね。エスティルったらあんな奥の手を用意してるなんて頼もしいわ」
「ありがと……でもね。あの術って魔力の消費量が凄まじいのと私の居場所がバレる可能性があるのよ」
「どういうこと?」
エスティルの言葉にヴェルは尋ねる。
「私が追われているのは知ってるでしょう? 魔族の中には魔力の探知に長けている者がいてね。さっきの
「ということは追っ手が来るという事?」
「その可能性が高いわ」
エスティルがため息交じりに呟く。エスティルとすればアマテラスのメンバー達を危険にさらすのが嫌なのだろう。
「大丈夫よ。というよりもむしろアディルなんて喜んでるんじゃないの?」
「その通りだ。むしろもっと早くあの大技を出して欲しかった。魔族の練習相手の斡旋という約束を忘れないでくれよ」
そこに御者台に座ったまま、アディルが会話に割り込んでくる。アディルの言葉は本気と冗談が半々と言った所であろう。
「ほらね♪」
ヴェルがアディルの言葉を聞き、苦笑を浮かべながら片目を瞑って言うとエスティルも顔を綻ばせる。
「そうそう。エスティルのおかげで私達は無事に
エリスが言うとそこにアリスも頷きながら言う。
「みんなの言う通りよ。私達ってみんな何かしら追われてるんだから気にするような事じゃないわ」
「私は別に追われてないんだけど……」
アリスの言葉にエリスが反論する。そこにアディルが苦笑しながらツッコミを入れる。
「いや、こう言っちゃ何だが、エリスももはや俺達の仲間という事で確実に狙われるてるよ」
「……やっぱり?」
「ああ、もう闇ギルドに喧嘩売っちゃったし、これから魔族と一戦交える事になれば明らかに名が知られるようになるさ」
アディルの言葉にエリスはため息をつく。アディル達とチームを組んだときからある程度は覚悟をしていたが、それでも国家レベルの争い毎に巻き込まれるとは思っていなかったのだ。それでもチームを抜けようとしないあたりエリスの人柄が表れていると言って良いだろう。
「う~ん、まぁしょうがないか」
エリスの呟きにアディル達の顔が綻ぶ。いずれにせよアマテラスのメンバー達はお互いを大切な仲間と見ており、自分の命惜しさにチームを抜けるような事は現段階ではないのだ。
「さ、話はこれで終わりだ。魔族の襲撃を想定して周囲を警戒しておいてくれ」
「「「「了解♪」」」」
アディルの言葉に全員が賛同する。エスティルも先程までの沈んだ感じがなくなっていた。
* * *
アディル達は日が暮れた事で野営に入る。もちろん、魔族が自分達を捕捉した事を想定して野営の周囲にアディルが【
食事をとり、野営用のテントに五人が入りそれぞれ休むことにする。本来であれば見張りを立てるべきなのだろうが、結界を張っているということで全員で休むことにしたのだ。
テントの出入り口からアディル、ヴェル、エリス、エスティル、アリスの順番で横になる。エリスが真ん中なのはエリスは戦闘が不得意である事から真ん中にしているのだ。
横になるとすぐに魔力を大量に消費したエスティルが寝息を立て始めた。
「ねぇ、アディル……」
しばらくしてヴェルが隣のアディルに声をかけてくる。もちろん既に寝ているエスティルを起こさないように囁くレベルの大きさの声である。
「どうした?」
「エスティルって誰に狙われてるのかな?」
「う~ん、皇女様だしな。色々あるんだと思うぞ。ただ怨みの類はなさそうだな」
「そうね。エスティルって性格も良いから怨みを買うような事は無いわよね」
「ああ、……いや、怨みを買う可能性もあるな」
「え?」
「エスティルに惚れた男が逆恨み」
「……ありえる」
「だろ? エスティルは美人で性格良いし、皇女様だ。ここまで条件が揃えば男は普通に惚れるだろ」
アディルの言葉にヴェルは納得するしかない。普通に考えてエスティル程の条件が揃った少女はなかなかいない。
「……アディルも?」
ヴェルの言葉にはからかうような響きはない。むしろ不安の感情が含まれている。
「そうだな。エスティルははっきり言っていい女というやつだ。当然、良い感情を持っているがそれが恋愛感情かというと疑問だな」
「……」
「そしてそれはヴェル、エリス、アリスにも言えることだ。正直な話、お前達四人は好きだがそれが恋愛感情かというと自信が無い」
「何よそれ」
アディルの言葉にヴェルが拗ねた様な声で答える。だが、その声には安堵の感情が含まれているようにアディルには思われる。
「まぁいいわ。これからって事ね」
「なんだヴェルは俺の事が好きだったのか?」
「何でそうなるのよ。女として興味を持たれないのが悔しいだけよ」
「はいはい……それじゃあお休み」
「もう、お休み」
アディルの言葉にヴェルは苦笑しながら言うとしばらくしてアディルは寝息を立て始めた。アディルが寝息を立て始めてしばらくしてヴェルがエスティルに声をかける。
「エスティル、起きてるんでしょう? エリスもアリスも」
「う……バレてる」
「バレてたの?」
「く~く~」
ヴェルの言葉にエリスとアリスは気まずそうに答えるがエスティルだけは往生際悪く不自然な寝息が発せられている。ヴェル達はエスティルの往生際の悪さに少々呆れ、エリスが動く。
「往生際が悪いわよ」
「ひゃ……」
エリスがとなりのエスティルの脇腹をつついたことで、エスティルはびっくりした声をあげる。
「もう、何するのよ!!もが……」
「「「し~」」」
エスティルの抗議にヴェル達三人は声を揃えてエスティルの抗議を押しとどめる。アリスに至っては物理的にエスティルの口を塞いだぐらいである。
「もう、アディルが起きちゃうでしょう」
「ご、ごめん」
アリスの責めるような声にエスティルは素直に謝る。ちらりとアディルの方に目をやるがアディルは規則正しい寝息を立てており目を覚ました様子はない。アディルは危険が迫ったときにはすぐに目を覚ますが、そうでないときはぐっすり眠り周囲の音にはあまり左右されないのだ。
「もう、さっきの話聞いてたでしょ。アディルって私達に興味が無いわけじゃないけど恋愛感情まではまだ持ってないわ」
「そうね。興味がないと言われたらさすがに落ち込む所だったから良かったわ」
「うん、いくらなんでも女として悲しすぎるわ」
ヴェルとエリスの会話にアリスが入ってくる。
「まったくよ。アディルったら私達のようないい女にまったく手を出さないなんておかしいわよ」
「その言い方だとアリスってアディルの事好きなの?」
「べ、別にそんなことないわよ!! ……ただアディルがどうしてもと言うのなら……その……受け入れ……」
アリスの言葉の終わりの方はしどろもどろになっているがヴェル達にははっきりと聞こえる。アリスはアディルに好意を持っていることなどは三人に丸わかりである。
「エスティルはどうなの? アディルにいい女と言われて嬉しかった?」
「ふぇ!!」
そこにエリスがエスティルに尋ねると自分に話が振られるとは思っていなかったエスティルは狼狽える。ヴェル達には見えないが慌てている雰囲気が伝わってくる。
「……その……う、嬉しかった……よ」
「へ~」
「エスティルはアディルにいい女と言われて嬉しいって事は……そういう事よね」
「よね~」
エスティルの言葉に三人はニヤニヤとした反応を示す。もちろん、エスティルには三人の表情は見えていないのだが雰囲気でニヤニヤしているのを感じるのは容易だったのだ。
「そういうエリスはどうなの?」
「う……」
「そうそう、エリスの口からちゃんと聞いた事無いわよ」
「この際だからちゃんと聞かせてよ」
三人からの問いかけには妙に真剣なものが含まれていることをエリスは察する。相手が真剣に問いかけている時には、真剣に答えるのは信頼関係を築き、維持するに当たって必要不可欠である。その事を知っているエリスとすれば真剣に答えるのは当然であった。また、それを差し引いてもアマテラスの仲間には真剣に向き合いたいと思っているのである。
「そうね……アディルは頼りになるし、前向きだし、はっきり言って格好いいわね」
「「「……」」」
エリスのガッツリした答えに三人は茶化すような事もせずに沈黙する。
「それってエリスはアディルの事好きってこと?」
ヴェルの問いかけにエリスは返答する。少々照れたような雰囲気がその声には含まれている。
「うん、最近アディルの事を目で追っちゃうのは事実よ。でもそれはみんなもそうでしょう。私気付いているんだからね」
「う……」
「……そうね」
「べ、別にそんな事……あるかも……」
エリスの言葉に三人はそれぞれの反応を示すが明白な否定をする者は誰もいない。
「結局の所はアディルが誰を選ぶかよ。でも今のアディルは修行が第一だから恋愛は後回よね」
「うん」
「逆に言えばそれだけアピールの時間があるという事よ」
エリスの言葉に全員が息を呑む。エリスの言葉は全員がアディルに好意を持っていることを確認した以上、アディルの心を射止めるために行動する事を意味していたからだ。
「そうね……最終的にアディルが誰を選ぶかによるけど、やれるだけの事はするわ」
「そうね。私は人間じゃないから不利だけど、それでも何もせずに諦めるのは嫌よ」
「わ、私は……その……う~私だって何もせずになんてごめんよ!!」
三人ともそれぞれの反応を示すがこの戦いを辞退するという選択をとるつもりはないようであった。
この日、アディルを巡って一つの戦いが始まった事をアディルだけが知らなかった。
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