擬態⑦

 ドドドドドドゴォォォォォォォ!!


 ヴェルの放った十数発の爆発エクスプロージョンが塀の向こうでその一斉に爆発すると凄まじい爆音が周囲に鳴り響いた。塀の向こうでの爆発によりアディル達には危険はなかったが塀の向こうではそうはいかないだろう。


「やったかしら?」


 エスティルの言葉にヴェルは難しい表情を浮かべる。


「ある程度のダメージは与えれたと思うわ。でも当然だけど全滅はさせてないはずだから油断は禁物ね」

「まぁ一階にいた連中は潰されて死んだ可能性が高いけど、二階部分にいた連中はまだ生きてる可能性は高いわね」

「私がもっと高威力の魔術を放てれば良いんだけど今の私じゃこれが精一杯ね」


 ヴェルはそう言うとアディル達を見る。その視線に答えたのはアリスだ。


「エスティル、壁の一部だけ解除することは出来る?」

「うん、もちろんよ」

「それじゃあ一部分だけ解除してちょうだい。その後で宿屋に火をつけましょう。生き残りの怪物は解除した部分から逃げだそうとするでしょうからそこで殲滅しましょう」


 アリスの提案に全員が頷く。この状況でこの怪物達を見逃すつもりなどアディル達にはない。この怪物達がもっとも厄介なのはその高い隠密性である。人間の皮を被れば容易に人間社会に溶け込むことが出来るのである。その脅威を考えればここで全滅させるのがベストであるのは確実であった。


「アリスの意見に賛成だわ。状況から考えて村の人達はすでに皆殺しになっているのは確実よ。やつらが人間の皮を剥ぎそれを被ることで人間のフリをしてると考えれば、当然村の人達は全員やつらに殺されたと考えるのは普通だし、子どもがいなかったのはサイズ的に合わなかったからでしょうね」


 エリスの声には忌ま忌ましさが大いに含まれている。どのような状況で村人達が殺されたのかは想像するしか出来ない。だが怪物達は一切村人達に情けをかけるような事はしなかったことだろう。もし情けをかけるような連中なら村人の生き残りがいるはずだがその気配は一切無い事から皆殺しにされたと考えるべきだ。

 そのような連中に対して容赦をすることは犠牲者への侮辱である。アディル達アマテラスは敵対者へ一切容赦はしないし、外道にも容赦をするつもりなど一切無い。


「私は一切の容赦をするつもりはないわ。外道共に引導を渡してやるわよ!!」


 ヴェルも手に薙刀を用意すると鋭い視線を塀の方に向ける。


「俺も当然だがあの外道共を生かしておくつもりなどないさ。アリスの方法で完全に怪物共を始末しよう」


 アディルの言葉にエスティルも頷く。これでアマテラスのメンバーは怪物の殲滅に火を使うことを決定したのだ。


「エスティルは塀の上に蓋をして、上から逃げ出さないようにしてくれ」

「わかったわ。でもそれならそのまま焼き殺した方が安全じゃない?」

「確かにな。だが炎ですべて焼き尽くしてしまえば奴等の死体を持って帰ることが出来ずに情報が正確に伝わらない可能性があると思ったんだ」

「なるほどね……さっきの戦いで死体を確保しておけば良かったわね」

「ああ、阿呆の知恵は後から出るというやつさ」


 アディルが自嘲気味に答えるとエスティルも顔を綻ばせる。アディルは今回の怪物の件をハンターギルドに報告する際に怪物の死体を提出する事にしたのだ。先程の攻防ではいかに敵を斃すことに意識を向けていたのだが、とりあえず策が上手くいきゆとりが生まれた事で死体の確保という事に意識を向けたのだ。

 迂闊と言えば迂闊だがアディルの年齢を考えれば色々と抜けがあるのも仕方の無い事である。


「それじゃあ、やるわよ」


 ヴェルが魔術の詠唱を行い両手を掲げると掌に魔法陣が浮かび上がった。エスティルはヴェルをみると頷き、その頷きにヴェルも首を縦に振ることで答える。

 そして、エスティルの魔力の壁の一部分が解除される。解除された箇所は一辺二メートルほどの正方形であった。正方形の下の部分は高さ一メートルの場所に作られたために怪物達はそのまま走り抜けることは出来ない。これは一度に怪物達が外に出るのを妨げるためであった。


 正方形に空いた箇所にヴェルが爆炎流フレイムフォローを放つ。爆炎流フレイムフォローはその名の通り炎を帯状に放つ魔術であり火球ファイヤーボールよりも一段階上の火力の術である。

 ヴェルの爆炎流フレイムフォローはそのまま塀の中の宿屋に直撃するとそのまま炎は一気に燃え広がった。すでに瓦礫の山と化している宿屋に火は燃え移ると一気に炎は立ち上った。


 宿屋に燃え広がった火は消えることなく勢いを増していくと瓦礫の山から這い出してきた怪物達が出口に向かって駆けてきた。


「よし……いくぞ」


 アディルが声をかけるとヴェル、アリスが空いた箇所の前に立ちふさがった。怪物達は立ちふさがるアディル達に一瞬足が鈍るが背後に立ち上る炎に追い立てられるように飛びだしてくる。

 そこをアディル達は容赦なく武器を振るって怪物達をこの世から叩き出していく。アディルとアリスが前線を確保するとヴェルが隙を見て斬撃を放った。このコンビネーションに怪物達はほとんど抵抗する事も無く死体の山を築いていく。


 二十分ほどすると出てくる怪物達の数は完全になくなり、宿屋を灼く炎はさらに勢いを増していく。どうやら生き残っていた怪物達は全て討ち取ったようであった。


「こいつだな……」


 アディルは怪物達の死体の中から村人の皮膚から抜け出そうとした所を斬り伏せた怪物の死体を見てそう呟くと懐から巻物を取り出すと封印術を発動し、巻物の中に怪物の死体を封印する。アディルは怪物を封印すると巻物に厳重に風をすると懐にしまい込んだ。


「さて村の中に生き残りがいないかどうか確認するわね」


 エリスはそう言うと数枚のを地面に放ると撒かれた符から黒い靄が立ち上ると黒い獣に姿を変える。


「行け!!」


 エリスの命令を受けた獣たちは一斉に散会し村のあちこちに駆けていった。エリスが式神を放つと同時にエスティルは孔を閉じ完全に密閉された状況を作り出した。密閉された空間では間違いなく炎は燃え続け全てを火にする事だろう。


「エリス、怪物はこの村にまだいるか?」


 エリスが式神を放ってから十分ほどしてアディルがエリスに尋ねる。エリスは目を閉じてしばらくすると目を見開き静かに頷いた。


「うん……約十名程が村長の家に集まっているわ。慌ただしく動いているから、ひょっとしたら逃げ出すつもりかも知れないわね」

「そうか……逃がすわけにはいかんな。エスティルはここを離れるわけにはいかない……ヴェル、エリス、アリスはエスティルと一緒にここにいてくれ」


 アディルの言葉に四人は視線を交わし合う。アディルの言葉ではアディルは一人で村長宅に乗り込むつもりであるように思われたのだ。


「ちょっと待ってよ。一人で行くなんてそんな事認めないわ」


 アリスの言葉にエスティルも続く。


「アリスの言う通りよ。こんな敵地のど真ん中でバラバラになるなんて正気の沙汰じゃないわ」


 エスティルの言葉も尤もでありヴェル、エリスも同様に頷く。


「確かにそうだが、ここであいつらを逃がすわけにはいかない。それに俺一人でいくわけじゃない。灰色の猟犬グレイハウンドも一緒に連れて行くつもりだ」

「一人でないのはわかったけど、灰色の猟犬グレイハウンドなんか役に立たないでしょう?」


 ヴェルの反論に灰色の猟犬グレイハウンドのメンバー達は恥辱のために顔が引きつるがヴェルは当然の如くそれを無視した。


「いないよりはマシだ。まずい状況になったらこいつらに敵を食い止めてもらうさ」


 アディルの返答にヴェル達はかろうじて納得したように頷いたが、灰色の猟犬グレイハウンドの四人は顔を青くするのであった。

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