入国④
「
アリスの言った
「
「仇討ち?」
アリスの言葉にアディルは鸚鵡返しに返答した。
「そう、竜神帝国では被害者の遺族が加害者に仇討ちを申し込むという制度があるのよ」
「それはまた……」
「しかもこの制度は身分の貴賎は関係ないのよ」
「どういうことだ?」
アリスの言う“身分の貴賎は関係ない”という言葉にアディル達は反応を示した。アリスの言葉をそのまま理解すれば平民であっても貴族、皇族を討つことが可能という事になる。
「言葉通りの意味よ。この
「それじゃあ貴族を潰そうとすれば誰でも出来ると言う事にならないか?」
アディルの言葉に他のメンバーも同意とばかりに頷いた。この段階では気に入らない貴族や誰かを排除しようとしたら
「ううん、それは大丈夫よ。申し出る際に被害者は水晶に手を触れ真実かどうか見定める事になるのよ」
「?」
「偽造防止のためよ。嘘をついている場合は水晶は紅くなり、ついていない場合は碧く光るのよ」
「それの信頼度は?」
「完璧よ。あれは陛下であっても破る事は出来ないわ。凄いのは水晶は私達の発している気、魔力から嘘を見破るらしいのよ。そして嘘をついている事になればその場で死刑になるわ」
アリスの言葉にアディル達はごくりと喉をならした。原理は分からないが偽造は難しいという事だけは理解した。もし紅く光ったりすれば命を失うと言うのなら多くの者は二の足を踏むことだろう。
「となるとそれだけ覚悟がいるというわけね」
ベアトリスの言葉にアリスは頷く。
「それで
アディルの言葉にアリスは首を横に振ると言う。
「ううん、訴えた本人と訴えられた者は絶対に参加しないといけない。ただし、助っ人を参加させることは認められているわ」
「助っ人?」
「うん、訴えられた方が戦闘に自信が無い場合はあるでしょうから当然に認められた制度よ」
「それなら貴族がめちゃくちゃ有利じゃないか?」
アディルはやや不満気に言う。他のメンバーも同様の感想を持ったようであり、結局貴族が勝つようになっているとしか思えないのだ。アディル達の反応にアリスは首を横に振る。
「それがそうでもないのよね。平民が貴族などの富裕層などを訴えた場合には国の方から支援金が出ることになっているわ。その支援金で傭兵などを雇うのよ」
「え?」
「金にものを言わせて弱い者が黙るような事が無いようなシステムなのよ」
アリスはそう言うとベアトリスが感心したような表情を浮かべた。
「なるほどね。そのようなシステムなら特権階級もそうそう好き勝手には出来ないわね。理由も無く虐げれば
ベアトリスの言葉にヴェルも賛同する。
「確かにそうね。もし、その制度があったら私は間違いなく
ヴェルの“あの連中”とは間違いなくレムリス家の面々の事だろう。
「なぁアリス一つ質問があるんだが」
そこにシュレイがアリスに尋ねる。
「
「そう言えばそうね」
「確かに」
「流石は兄さん♪目の付け所が違うわ♪」
シュレイの言葉にメンバー達は同意する。アンジェリナに至ってはうっとりとした視線を向けたぐらいである。シュレイの質問は普通に思いつくレベルの事であるのだが、恋する乙女のフィルターのかかっているアンジェリナにしてみれば当然の反応であった。
「国外に逃亡した姪が仲間を連れて戻ってくれば確実にあの男は邪魔をするわ。具体的に言えば刺客を送り込んでくる。何度も戦いをくり返せばこちらの消耗は確実、そうなれば
「なるほどな、こちらは敵地……補給はきかないというわけだったな」
「そういう事よ。納得した?」
「ああ」
アリスの返答にシュレイは納得する。出来るだけ戦闘を避け、
「ねぇアリス、
そこにエリスが尋ねる。
「ええ、確か百を越えちゃダメだという縛りはあったはずよ」
「百?」
「うん、じゃないと際限なくなっちゃうからね」
「そっか……となると相手はどう考えても百ギリギリまで助っ人を集める可能性があるわけね。こっちは三十四……数は三倍ね」
エリスが厳しそうな表情を浮かべる。エリスの視線にはもっと集める必要があったのではないかという非難の感情が浮かんでいる。
「そこなんだけど、アディル、エリス、ヴェルの三人は式神を出せるし、アンジェリナも召喚術が使えるわよね?」
アリスの言葉に四人はアリスの意図を察した。
「そう、
「最初は油断させ、それから数の有利を潰す事で相手に混乱を与えるというわけね」
「うん、もちろん。それで勝利が確定するわけじゃないけど少しばかり虚を衝くことが出来るはずよ」
アリスの言葉に全員が頷く。
「アリス、一つ提案なんだが
アディルの提案にアリスは少し悩むが頷く。アディルの言葉の意図するところを読み取ったのだ。
「……そうね。信頼のおける者達はいるけど、それはあくまでお父様とお母様が生きていた場合の事よね」
「そういう事だ。お前が国外逃亡してから叔父側についた者がいないとは言えないからな」
「ちょっとアディル」
アディルの言葉にヴェルが非難の声を向けた。アリスに対して余りにも配慮のない言葉だと思ったのだ。しかし、そのヴェルの抗議をアリス自身が静かに首を横に振ることで制する。
「ううん、当然想定しなくちゃいけないことよ。感傷に浸ってみんなを危険にさらすわけにはいかないわ」
「裏切りの可能性のある連中に鉄火場で背を預けるほどやけっぱちにはなりたくないからな」
アディルの言葉にアリスは頷く。
「これが私の計画よ。どう?」
「問題無いな」
「ああ、俺もそう思う」
「そうね、少なくとも叔父を討ったからと言って死刑台に送られる事はなさそうね」
アディル達はアリスの言葉に賛同する。
それよりも、選帝公を討ったとしても犯罪行為にならないというのは有り難いというものである。そして同時にベアトリスの身分がバレても国際問題に発展しないことを示しているのだ。
「みんな、ありがとう」
アリスは仲間達の反応にほっとした表情と安堵の空気を発した。告げてなかったために反対される不安があったのだ。
「それじゃあ、これから
「そういう事になるわね」
エスティルの言葉にアリスが返答した所で、シュレイが立ち上がった。シュレイの行動に全員の視線が集まった。
「何者かが探知に引っかかったぞ」
シュレイの言葉に全員がそれぞれ武器を構えた。
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