竜神帝国篇:エピローグ
「やっと帰ってきたわね~」
アリスが開口一番口を開いた。それを見て全員が顔を綻ばせながら頷いている。
二ヶ月もの時間が経過していたのはレグノール家の後処理に費やした時間であった。
あの後、アディル達の前に見届け人である竜神帝国皇帝ラディムが現れると
直接の両親の敵であるイルジードと
その後、アリスは
アリスはまず選定公に就任するとレグノール一族が所有していた分家の爵位を剥奪した。当然ながら大きな反発はあったのだが、アリスの両親を殺害したイルジード一派に汲みしていた連中に対してアリスは全く容赦をするつもりはなかったのだ。区切りがついていたとは言え、それはあの場にいた者が対象でありレグノール一族が対象ではない。
アリスの大叔父であったセルゲオムが一族を代表して抗議をアリスに行ったが、もちろん一度木っ端微塵に粉砕されたセルゲオムではまったく意味がなく返り討ちになった。
数を頼めば何とかなると思っていたセルゲオムであったがアリスの殺気の前にセルゲオムの目論見は木っ端微塵に粉砕されてしまった。
アリスの“文句があるなら
イルジードの
アリスは分家の者達を完全に黙らせると爵位の全てを返上したのであった。もちろん領民に対して不利益が生じるのは喜ばしくないので、竜神帝国皇帝ラディムにその辺の事はお願いすることになった。ラディムとしても皇帝の権力強化を考えると断る理由はなかったのだ。
領民、家臣達に出来るだけ配慮をすることを頼んだが、この辺のところはラディムを信頼するしかない。
アリスはレグノール家を完全にたたみ終えると竜神帝国を後にしたのだ。
「ヴァトラス王国も久しぶりだな」
アディルの言葉に全員が頷いた。何だかんだ言っても竜神帝国に三ヶ月にいたのだ。
「あ、ジルドさんだ」
アディル達は王都ヴァドスの郊外に転移するとそこから徒歩でジルドの店にまで戻ってきたのだ。
ちなみにアディル達以外では
ジルドがアディル達の姿を見つけると驚きの表情を浮かべ、すぐに笑顔になった。
「おお、よく帰ってきたね」
「はい、ただ今戻りました」
ジルドはアディル達にニコニコと笑いながら迎えの言葉をかける。アディルが代表してジルドに挨拶を返すと次いでジルドはベアトリスに視線を向け言葉をかける。
「ベアトリス様もよくお帰りで」
「ありがとう。ジルドのくれた傀儡のおかげで危機を脱することが出来たわ」
「それは何よりです」
ジルドはニッコリと微笑み返答する。
「それじゃあ。私は帰るわね。もし何かあったらまた呼んでね」
ベアトリスはそう言うと転移魔術を起動する。ベアトリスは転移魔術を元々使えなかったのだが、竜神帝国にいる間に習得したのである。
ベアトリスが三ヶ月もヴァトラス王国を離れる事に対してアディル達は心配したのだがベアトリスは国王、王妃に滞在許可を求めると意外な事にあっさりと許可が出たのであった。
その事にアディル達は当然ながら驚いたのだが許可が出た以上、そのままベアトリスも事が終わるまでアディル達と行動を共にする事になったのだ。
「ベアトリス、今回の事は本当に助かったわ。ベアトリスのおかげで私のレグノール家も滞りなく終わったわ」
「ううん、私も面白かったわ。それに竜神帝国の色々な制度を見る事が出来たのは大きいわ。早速制度を官僚達に見せて使用できるものがあるかを検討させるわ」
ベアトリスはそう言うとニッコリと笑い転移していった。
「一体どんな制度が施行されるのかしらね?」
ヴェルの苦笑混じりの言葉に全員が苦笑で返した。
「それでアディル君、そちらのお嬢さんは?」
ベアトリスを見送ったジルドが見慣れない少女に視線を向け尋ねるとその少女が一歩進み出るとジルドに向かって一礼した。
「初めまして私はルーティアと申します。アリスティアお姉様の従妹であり、シュレイ様の婚約者となります」
ルーティアの自己紹介の内容に驚きの表情を浮かべたジルドであったが、さらに次の光景に驚くことになった。
アンジェリナがルーティアの頭をペシッと叩いたのである。
「何が婚約者よ。兄さんの妻となるのは私よ。あんたなんか当て馬に過ぎないんだからでしゃばるのは止めなさいよ」
「何を言ってるんですアンジェリナさん? 私はシュレイ様と添い遂げるためにアマテラスに入ったのですよ。あなたは妹としか見てもらってないのですから諦めてください」
「何言ってるのよ。 兄さんのタイプは慎み深く思慮深い女性よ。あんたのような猪娘はタイプじゃないわ」
「ふ、甘いですね」
「何がよ」
「私とシュレイ様は既に口付けを交わした仲ですよ? 妹は引っ込んでなさい」
「たった一度交わしただけで正妻面するのは止めて欲しいわね」
アンジェリナの言葉に何かを感じたのかルーティアはヒクリと頬を引きつらせた。
「あなた、まさか……」
「ふ、ご想像にお任せするわ」
余裕の表情を浮かべたアンジェリナにルーティアはシュレイに視線を向けるとシュレイは慌てて首を横に振る。
「……ジルドさん、何となく関係性は理解していただいたと思います」
「まぁの、シュレイ君もあんなに可愛い子二人に慕われて羨ましいものじゃな」
「それ本気で言ってます?」
「わしはマーゴ一筋じゃからな。余所様の事はわからんよ。それにしてもあのルーティアという子とアンジェリナさんは似た者同士じゃな」
「はい、シュレイが絡めばあの調子ですがそれ以外では仲が良いですよ」
「どんな感じで落ち着くのかの」
「さぁ、それほど酷い結果にならないとは思いますけどね」
アディルがそこまで言った所でシュレイがため息を吐きつつアディルの肩に手を置いて言う。
「今になってアディルの気持ちがわかった。済まなかったな」
シュレイの謝罪を受けてアディルはやや狼狽する。シュレイの言葉が自分の身にも降りかかっていることを思わせる内容であったからだ。
「な、何言ってるんだ。俺はお前のように……」
アディルの言葉にシュレイはガシッと両肩に手を置くとやけに真剣な声でアディルに言う。
「いいや、俺のこの気苦労は明日のお前の姿だ。いい加減現実を見ろ。少しずつ濠が埋められているのを感じるだろう?」
「う……」
「タガが外れればお前の明日はこうなるぞ」
シュレイの言葉にアディルはゴクリと喉をならした。
「ふふふ~シュレイの言う通りよ」
そこにエリスがやけに明るい声でアディルに声をかけてくる。その声を聞いてアディルは振り向くとそこには四人の仲間達が微笑んでいる姿が目に入った。見惚れるほど美しい笑顔のはずなのに何となくアディルは自分が食われる立場であるような感覚を覚えた。
(また賑やかになりそうじゃな)
ジルドはアマテラスの面々の姿を見て苦笑を浮かべた。
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