侯爵領へ④
アディル達“アマテラス”とアルト達はレムリス侯爵領へ向けて出発する。一応アルト達と護衛の騎士達は旅装に身を固めているし、使用している馬車の方も質素なものであり一目では王族が使用してるようには見えない。
「それにしても両殿下って思った以上に気さくな方々ね」
「そうだな。予想が外れたよ」
「私も」
「私は気さくな方だと聞いてたけど噂通りね」
エリスの言葉にアディル達は同意の言葉を発する。
「だが、甘い人達じゃないのは事実だな」
アディルの言葉にヴェル達は頷く。アルトとベアトリスは確かに気さくであるがそれは与しやすいという事を意味するものではない。アディル達が見たところアルトとベアトリスは“信頼に値しない”者に対して即座に切り捨てる冷淡さを持っているように感じたのだ。
「そうね。私達が出来る事は結局誠意を持って応対することね」
エスティルの言葉は皇女として的を得ているようにアディル達には思われる。やはり身分的に近いエスティルはその辺の機微をきちんと理解しているのだろう。
「でもこの布陣を考えれば私達に手を出すような連中はまずいないわよね」
アリスの言葉にアディル達は周囲を見渡しながら頷く。どう考えても護衛の騎士達の練度はその辺の兵士達よりも数段上であるため野盗の襲撃は基本考えなくて良さそうである。
「ところでシュレイは大丈夫かしら?」
エリスの言葉に全員が考え込む。
「俺達が到着するまで無茶しないで欲しいんだがな」
「期待薄よね」
「ああ、シュレイは俺達への負い目から無理しそうだな」
「そうね」
アディルとエリスはそう言い合うとため息をつきそうな雰囲気を発する。ちなみに今回、アディルの隣に座っているのはエリスである。
「ん?」
アディルが何ものかの気配を察した時とほぼ同時に後ろの馬車に座っているヴェル、エスティル、アリスも気配を察すると即座に迎撃の構えをとる。馬車の中に何ものかが転移してきた気配を察したのだ。
「へ?」
「な……」
「ベアトリス殿下……?」
現れたのはベアトリスである。ベアトリスがアディル達の馬車に転移してきたのだ。ベアトリスである事を察したヴェル達は構えを解いた。
「えへへ♪ びっくりしたようね♪」
ベアトリスはニシシと笑いながらヴェル達に言う。ビックリさせた事に満足したような感じだ。
アディル達の馬車には屋根と壁がないために護衛の騎士達には丸わかりなのだが騎士達はそれに対しては何も言わずにさりげなくアディル達の馬車の周囲を護衛する。この辺りの動きは実に自然であり近衛騎士達が並外れた実力を持っているのが十分に察する事が出来た。
「あの王女殿下……どうしてここに?」
エスティルが尋ねるとベアトリスは即座に返答する。
「もちろんあなた達とおしゃべりに来たのよ」
ベアトリスの言葉にアマテラスのメンバーは呆気にとられる。何か重要な事があってわざわざ転移魔術を使ってまでこちらの馬車に乗り移ったのだから相当な事があると考えていたのだが実際はただのおしゃべりにきたと言われれば呆気にとられるのは仕方の無い事なのかもしれない。
「えっと……おしゃべり?」
ヴェルの言葉にベアトリスはカッ!!と目を見開く。その姿は何か演説でも始まるのではないかと思わされるほどだ。
「あなた達のような美少女達と私はおしゃべりがしたいのよ!!私は……私は……友達が欲しぃのよぉぉぉぉぉ!!」
「「「はぁ?」」」
ベアトリスの叫びにヴェル、エスティル、アリスは呆気にとられている。あまりにも予想外の返答に戸惑いを隠せないというよりも頭が付いてこないというのが本当の所なのかも知れない。
「えっと……とりあえず王女殿下座ってください」
エスティルの言葉にベアトリスは素直に従うとすかさずアリスが
「友達が欲しいと仰いましたが王女殿下にも友人は多いのではないでしょうか?」
ヴェルがベアトリスに尋ねる。ヴェルの記憶ではベアトリスは気さくな人柄で容姿も優れているので同年代の貴族令嬢の中ではものすごく人気があったのだ。
「あの方達とは仲が悪いわけではないけど友達と言うわけじゃないわ。貴族の令嬢が相手だとどうしても家の事とか政治的な事とか、力関係とかつい色々と考えちゃうのよ」
「あ~何となくわかりますね。確かに家の意向で話してるだけなんじゃないかとか考えてしまいますね」
ベアトリスの言葉にエスティルが返答する。エスティルも皇女という立場であるためにベアトリスに共感するところがあったのだ。
「そう!! そうなのよ!! もちろんそう思っているのは私だけかも知れないけど、私はそう思っちゃうのよ。仕方ないじゃない」
ベアトリスの言葉に今度はアリスが突っ込む。
「でも私達だって王女殿下に近付いたのはいい目を見たいという欲望からお近づきになりたいと思ってるかもしれませんよ?」
「いえ、それはないわね」
このアリスの言葉を即座にベアトリスは否定する。それからベアトリスは続ける。
「私の見た所、あなた達は私達を利用するにしても納得の出来る理由を用意してくると思うわ。今回の件だってシュレイという騎士の命が絡んでなければ私達に会いに来るという選択肢だってなかったでしょう?」
「それはまぁそうですね」
「そんなあなた達が一方的に施しを受けることを良しとするような事はしないわ」
ベアトリスの言葉にヴェル達は頷かざるを得ない。アディル達“アマテラス”のメンバーは、人から報酬を受け取ることこそ重視するが施しを受けることは好まないのだ。
「私としてはそれだけであなた達に好意を持つ理由になるわ」
「そう言われてしまえばこちらとしても拒絶する理由はありませんね」
「じゃあ!! 良いって事!?」
ベアトリスが言うとヴェル達は頷いた。それを見たベアトリスは目を輝かせる。その様子にヴェル達は苦笑を浮かべる。ここまで言われてしまえばヴェル達としても断るつもりは一切無かったのだ。
「やったぁぁぁぁぁ!!」
ベアトリスは体全体で喜びを表現すると大きく叫んだ。護衛の騎士達は少しだけ驚いた表情を浮かべたがすぐに苦笑に変わる。
(何か……王女殿下って最初のイメージと大分違ったな)
アディルは背後に美少女達の声を聞きながら小さく笑った。
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