第42話 王都へ ~ある魔族達の災難⑤~
「みんな、斬りかかるのは俺の合図を待ってからにしてくれ」
アディルの言葉にアマテラスの面々は静かに頷く。アディルは仲間達が頷くのを察すると五体の魔族達に視線を移す。
五体の魔族達はアディル達には関心を払っている様子は見えない。後ろにいるエスティルとアシュト達にばかり意識を向けている事をアディル達は察する。
「これはこれはエスティル皇女殿下と護衛官のアシュト様、このような所でどうされましたか?」
五体の魔族の先頭に立つ魔族が嘲るような口調でエスティルとアシュト達に言う。後ろの魔族達も同様にニヤニヤした表情を浮かべており、アディル達とすれば不愉快極まりない。
「貴様、皇女殿下に対して無礼であろう!!」
アシュトが魔族の言葉の嘲りを感じ、声を荒げるのは彼の立場からすれば自然の事であろう。
「そう、お怒りにならないでくださいよ。アシュト様、我々はエスティル様をお迎えに来たのですから」
「お迎えだと?」
「ええ、さる御方がエスティル様をご所望でしてね。妾として飼いたいと申しております」
「貴様!! 皇女殿下に対して何を言っているかわかっているのか!!」
「勿論ですとも。まぁ妾として飼うにはきちんと調教し……」
醜く口を歪めて嗤う魔族は最後まで言葉を発する事が出来なかった。アディルが一瞬で間合いを詰めるとカタナを一閃し魔族の首を斬り飛ばしたのだ。アディルは続けて一番近くにいた魔族の喉にカタナを突き刺した。喉を貫かれた魔族は目を白黒させるが喉を貫かれた苦痛を感じ始めたのだろう。苦痛に顔を歪める。
「その顔の方が貴様らのようなクズにはお似合いだ」
アディルは冷たく言い捨てるとカタナを横に薙ぎ払うと同時にそのまま反対側の拳で魔族の顔面を殴りつけた。殴りつけられた頭部は残った皮膚を引きちぎり凄まじい速度で他の魔族の顔面にぶち当たった。首の大部分を斬られていたのが理由かアディルの拳撃の威力の強烈さが理由なのかは判断はつかない。
顔面にまともに頭部の直撃を受けた魔族は顔を押さえた。かなりの衝撃があり苦痛もあったのであろう。だがそれはアディルを前にすれば致命的な隙であるのは間違いない。
アディルは顔を押さえる隙だらけの魔族の顔面にカタナを突き刺すとそのまま力任せに振り下ろした。アディルのカタナはそのまま魔族の顔面から喉、胸、腹まで一気に斬り裂いた。
止まった状態から顔面から腹部まで斬り裂くというのはアディルの膂力が規格外と思われるかも知れない。確かにアディルの膂力は凄まじいものではあるが、体術によりカタナに体重をかけ膂力に加え重力も利用しているために可能な芸当であった。
「貴様!!」
ようやく我に返った魔族がアディルに斬りかかろうとしたのだが、その瞬間魔族は膝裏を斬られるとその場に倒れ込んだ。何が起こったかを理解できていなかった倒れ込んだあ魔族は振り返るとそこには薙刀を構えたヴェルが視界に入る。
(な、なぜ……あの人間の武器の間合いからは完全に外れているはずなのに……)
魔族が混乱した所にヴェルは薙刀を振りかぶるとそのまま振り落とした。ヴェルの斬撃には淀みは全く見られず凄烈であった。振り下ろした刃は倒れ込む魔族の頭部を両断する。
(な……伸びただと……)
頭を両断された魔族は消えゆく意識の中で自分がどうして斬られたかを察する。だがそれは魔族に事態の好転をもたらすものではなく。魔族はそのまま息絶えることになったのだ。
わずか数分で仲間をすべて失った魔族は恐怖の表情を浮かべる。自分達の油断はたしかにあったがアディルとヴェルの技は決して軽視すべきものではなく最大限の警戒をすべきものであったのだ。
「ひ……」
最後の魔族の口から恐怖の言葉が漏れる。アディルは雷光に匹敵するかのような速度で間合いを潰すとそのままカタナで魔族の心臓を刺し貫いた。心臓を刺し貫かれた魔族の口から血が溢れ出す。
「じゃあな……三下」
アディルは冷たく言い放った所で魔族の目から光が消える。アディルはカタナを魔族から抜き取ると魔族はそのまま崩れ落ちた。すでに絶命している以上当然の事である。
「ふう……」
エスティルを狙った魔族達五体はほとんど抵抗することなく敗れ去った。アディルが隙をついたという事もあるのだが、アディルが一切の無駄なく動いた事がその大きな理由であった。
「アディルったらいきなり襲いかかるんだからビックリしたわ」
「そうそう、合図も何もなかったわよ」
ヴェルとエリスの言葉にアディルはバツの悪そうな表情を浮かべると返答する。
「ああ、こいつらのエスティルへの言葉がなんと言うかすごくムカついてな」
「まぁ、あの言葉と顔付きなら当然よね」
アディルの言葉にヴェルが同意を示し、他の三人も当然とばかりに頷く。この魔族達の言葉を聞き気分を害さないのは同程度のメンタリティを有する者だ。当然アディル達はそのようなメンタリティとは遥かに遠いところにいるのだ。
「あのさアディル」
そこにエスティルがアディルに声をかける。
「その、ありがと……私のためにここまで怒ってくれて」
「ああ、当然の事だ。エスティルのためというのもあるが俺自身がこいつらは気に入らなかったからな」
「えへへ」
アディルの返答にエスティルは嬉しそうに顔を綻ばせる。エスティルの笑顔は見惚れるに十分すぎる程美しい。元々エスティルは美人だが笑顔は魅力をさらに増すのは間違いない。
そのエスティルの笑顔にアディルだけではなく、
その例外はエスティルの最後の刺客であった。その刺客はアシュト達の部下のフードを被った魔力探知を専門に行っている魔族で名をハザルという。この時にハザルが動いたのはアディル達が刺客を退けたばかりで気が緩んでいると考えた事、全員がエスティルとアディル達との会話に意識を向けており自分への警戒がほとんどなく初動が確実に決まると考えた結果であった。
ハザルはエスティルに向け駆け出す前に仲間であったはずの魔族達に攻撃を仕掛ける。ほぼ無防備な背中を向けていたエメスとアーディオがハザルの斬撃をまともに受ける。
「が……!!」
「な……」
突然の斬撃により背中を斬り裂かれたエメスとアーディオが驚愕の表情を浮かべながら倒れ込んだ。アシュトが部下二人が倒れた声を聞き二人を見た瞬間にハザルが魔力の塊である
「アシュト!!」
エスティルが叫ぶと全員の視線がアシュトに向かい次いで加害者のハザルへと視線を動かす。だが視線がハザルに向かった時にはすでにエスティルの間合いに入っていた。
ハザルが魔力により形成した刃を振りかぶるとエスティルに振り下ろした。
「しま……」
エスティルの口からしてやられたという声が発せられる。だが、そこにアディルが動く。アディルはエスティルとの間に割り込むとカタナでハザルの斬撃を受け止める事に何とか成功した。
だが、ハザルの斬撃にアディルのカタナは耐える事が出来なかった。アディルのカタナは両断され、そのままアディルの肩口へ斬撃が入る。
「「「「アディル!!」」」」
アマテラスのメンバー達の悲鳴が響き渡った。
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