反撃③
侯爵邸に走って行った兵士達が人員を増やして戻ってくるのを一行は余裕の表情で眺めている。
「ヴェル、新しく来た連中の中に俺が王族であると確かめる事が出来そうな奴はいるか?」
アルトはヴェルに尋ねるとヴェルはじっとこちらに向かってくる連中を見て静かに頷いた。
「ええ、真ん中にいる執事服を着た若い男は侯爵が王都にいるときには付いていったりしてるから確認する事が出来る可能性は高いわね」
「なるほどな」
ヴェルの言葉にアルトは“よし”とばかりに頷いた。
「ねぇアルト」
「なんだ?」
「当たり前の事なんだけどあいつら家を守るためには何だってするとは思わない?」
ベアトリスの言葉にアルトは頷く。ベアトリスは暗にレムリス侯爵家を追い詰めすぎることは悪手であると告げているのだ。
「お前の心配も尤もだ。やり過ぎはしないさ」
「その辺は期待させてもらうわよ」
「ああ、期待してくれて良いよ。アディル達もある程度はレムリス家の連中を煽ってくれよ」
アルトはアディル達に向けてそう言うとアディル達も承知とばかりに頷いた。こちらに駆けてくる執事はアルトとベアトリスの顔を見て明らかに狼狽した表情を浮かべた。次いでヴェルの顔を見たときには恐怖の表情へとランクアップしていた。
(まぁ虐げていたヴェルがアルトとベアトリスと一緒に来れば復讐に来たと捉えても仕方ないよな)
アディルはそう考える。正直な話、アディル達はレムリス侯爵家に対して復讐のつもりでここに来たのではない。復讐ではなくむしろ“攻撃”に来たのだ。微妙な違いではあるがアディルにとっては重要な事である。
「殿下……まさか本当に……」
執事はやや呆然とした口調で呟くと周囲の兵士達に一気に動揺が広がった。兵士達の中には泣き出しそうな表情を浮かべている者すらいる。先程のレムリス侯爵家に王家への反逆罪が俄然信憑性を帯びてきたという形である。
「さて、レムリス侯爵家の王族の対応は随分と特徴的のようだな」
アルトの声の温度は氷点の遥か下にある。兵士達はアルトの冷たい声にブルリと身震いをした者すら出た。
「まぁ、両殿下を殺そうと
「な、貴様は我がレムリス侯爵家を侮辱するか!!」
執事がアディルの言葉に激高して叫ぶがアディルはまったく恐れ入る様子はない。
「何言ってるんだ? レムリス侯爵家が殿下の宿泊場所に最凶の闇ギルドである
「そ、それは……」
「なんだ? そこで言い淀むと言うことはお前もこの件に関わっていると言うわけだな。殿下、こいつも殿下を殺そうとした関係者のようです」
アディルの論法は強引というレベルではない。完全に難癖をつけているようなものである。アディルの決めつけによって執事は自分が断罪のステージにあげられた事を悟ると顔を青くする。
「わ、私は知らない!! すべて侯爵様が決めた事だ!!」
執事は自分の身に降り注いだ疑いを逸らすためにレムリス侯爵家をさらに追い詰める一言を発した事にこの段階で気付いていないようであった。
「殿下、聞きましたね。この執事はレムリス侯爵が決めた事と自白いたしました。まさかとは思うがあんたは両殿下に嘘をついて欺そうとしているわけじゃないよな?」
アディルの言葉に執事は自らの失言にようやくこの段階で気付いたようであった。
「アディル、いくらなんでもこの状況で嘘をつくような事はしないだろう。当然、君は嘘をつくような事はしないよな?」
アルトも執事をギロリと睨みつけながら言う。言葉は丁寧だが声の調子は友好的とは対極にあるのは事実である。このような状況で発言を取り消すという事は出来る程、執事の肝は据わっているわけでは無かった。
「……はい」
執事は悲しいほど小さい声で返答する。
「そうか、それではお前も証言してくれるよな?」
アディルは妙に静かな声で執事に告げると執事はブンブンと首を激しく縦に振った。それを見てアディルはアルトに向けニヤリと嗤って告げる。
「殿下、内情を知る者が正義の心に目覚めたようで証言をしてくれるようです」
「そうか、そうか。君こそ真の高潔な人物というわけだな」
アディルとアルトの言葉に執事は見る見る顔を青くしていく。
「それじゃあ、早速レムリス侯爵家を裁きにいくか」
アルトがそう言うと執事は項垂れながら一行について行く事になった。兵士達は不安そうな顔を浮かべて一行を見送ったのだった。
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