邂逅①
「王族に紹介?」
「はい。実は今回の任務で王族の方にすぐに対処して欲しい事があったんです」
「王族が対処……相当な大事のようじゃな」
ジルドはそう言うと少し考え込む。
「はい。具体的には新種の怪物、そしてそれらを操ってこの国を侵略しようとしている者がいます」
「新種の怪物?」
「はい、そいつらは
「なんじゃと!?」
アディルの説明を受けてジルドは即座にその危険性を理解した。返答する声が緊張が含まれたものに変わっているのがその証拠だ。
「それでその
「とりあえず俺達が襲ってきた連中は全員斃しましたが、生き残りがいないと断言できるわけではありません」
アディルの返答にジルドは頷く。アディルの言っている事は正論である。いる証明は意外と容易であるが、いない証明というのは実質不可能なのだ。
「確かにそうじゃな。いない証明など事実上不可能であるしの……そしてアディル君が言ったこの国を侵略しようという者……なるほど、それほどの案件なら王族に会わせてくれという君達の言い分もわかるな」
「はい、本来であれば俺達のようなシルバーランクのハンターチームでは随分と高望みしている事は理解はしていますが……」
アディルの申し訳なさそうな声にジルドは首を横に振る。
「いや、アディル君達がもたらす情報というのは相当な重要な情報である以上、王族に伝える必要は十分にある」
「それじゃあ」
アディルの期待を込めた言葉にジルドは頷く。
(考えようによっては良い機会かもしれんな。殿下達もアディル君達には興味があるとの事じゃったし……しかし、ただの報告ではなさそうじゃな)
ジルドはアディル達が王族への面会を求めた事に対して意図を考える。当然ながら王族に危害を加えるような意図がないのは当然であるが、その理由が気になっているのも事実であった。
「もちろん、王族への面会を設定するように働きかけることは可能だが、情報提供だけではないだろう?」
ジルドの質問に返答したのはエリスである。
「はい。注意喚起を促すというのは確かにありますが当然それだけではありません」
エリスの言葉はやや正直すぎるものであるが、エリスとしてみればここで情報を伝えずに自分達の要望を通す事は得策で無いという判断からである。またジルド程の人物に生半可な嘘などすぐに看破されるのは間違いない。それらの事を勘案した結果、エリスは正直に伝える事にしたのだ。
その事にアディル達は異論を唱える事はない。何だかんだ言ってエリスの交渉能力をアディル達は信頼していたのだ。
「実は今回の一件の際にレムリス侯爵家の依頼を受けた
「レムリス家じゃと?」
「はい、レムリス侯爵家の騎士達もその場にいましたので間違いありません」
エリスの言葉にジルドは首を傾げると質問した。
「しかし、レムリス侯爵家と言えばこの国を代表するような大貴族……そんな大貴族がどうして君達を狙うのかね?」
ジルドの疑問は当然すぎるものである。確かに実力的にはアマテラスは決してシルバーランクの器では無いのだが対外的には高々シルバーランクのハンターチームに過ぎない。そのようなハンターチームをレムリス侯爵家が刺客を送り込むのはそれなりの理由があるとしか思えない。
「それは私がレムリス侯爵家の血を引いているからです」
「ヴェルさんが?」
「はい。私の母はいわゆる侯爵の妾というやつでして、母の死後に侯爵家の中で虐待を受けてきたんです。そして、ついに私を殺そうとしてきましたので啖呵を切って家を飛び出したんです」
「ほう」
ヴェルの言葉にジルドは興味深げな視線を向ける。ジルドの視線にマイナスな感情を感じなかったヴェルは心の中でほっと胸をなで下ろした。
「その啖呵の内容なんですが、“私を殺そうとした事を政敵に伝える”というものです」
ヴェルの言葉にジルドは感心したように頷く。
「なるほどのぅ……貴族としての体面を考えればそれは野放しにするわけにはいかんな。しかし、なんでまたそんな啖呵を切ったのかね? いくら腹が立ったとはいえそんな事をすればいらぬ面倒を引き起こすとのは判っておったじゃろ?」
ジルドの質問に答えたのはアディルである。
「あ、それなんですが、実はヴェルは俺のためにそんな啖呵を切ったんです」
「アディル君のため……なるほどそういう事か」
アディルの返答にジルドは納得した様に頷く。アディルの目的が強くなると言うことである事を知っているジルドからすれば刺客が送られると言う事はこの上なく都合が良い事は間違いない。その視点から考えればヴェルの啖呵も筋が通っていると言って良かった。たとえどれほど世間一般の常識からかけ離れていてもだ。
「そういう事です。まぁ私はその時は二人と出会ってませんでしたけどその話を聞いたときには流石に呆れました」
エリスが苦笑しながら言うとエスティル、アリスも同様に苦笑している。エリス以外の仲間も最初は強い相手を求めるという常識外れの目的から始まった事を思い出したのだ。
「まぁ、それはさておき。そのレムリス侯爵家の一人にシュレイという若い騎士がいたのですが、ハンターギルドへの報告の際にレムリス侯爵家が
「ほう……」
「それからシュレイはケジメをつけるとレムリス侯爵領へと……」
「それは何とも……後先考えんやつじゃな……いや、覚悟の上か」
ジルドの言葉にアディル達全員が頷く。アディル達が頷いたのを見てジルドはカカカと笑い始めた。ジルドはアディル達の目的を察したのだ。アディル達の実力ならばそのままシュレイを助ける事は決して不可能では無い。しかし、その後に犯罪者となる可能性が十分にあるのだ。そうならないためにも王族の後ろ盾を得ようとしているのだ。
また、アーノス=ゴーディンがエラムの村を救うために王族に近付いたという事から見返りを示せば王族は後ろ盾になってくれるという情報も作用したのは間違いない。
「なるほどのう……君らが王族を紹介しろと言った意味が完全に理解できたわい。それじゃあ儂が責任を持って動くとしよう」
「「「「「ありがとうございます!!」」」」」
ジルドの言葉にアディル達は一斉に頭を下げながら謝辞を述べるとジルドは笑いながら言葉を続ける。
「だが、王族の方々は大変忙しいからそう長い時間会うというわけにはいかんじゃろうから話すことを
ジルドの言葉にアディル達は頷く。
(ジルドさんは王族の方々に提示できる利益を考えておけと言っているんだな)
アディルはジルドの言葉をそう判断すると全員の視線が交叉する。どうやらアマテラスのメンバー達も同様の結論に至ったようであった。
「さて、それじゃあ。儂は行ってくるから店番の方を少し頼むよ」
ジルドはそういうとそのまま官庁街の方へと歩き出した。
「「「「「ありがとうございます!!」」」」」
アディル達はジルドの背中に向けて一斉に頭を下げて御礼を言うとジルドは振り返ること無く手をヒラヒラと振りながら歩いて行った。
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