幕間①

 ヴァトラス王国の王都ヴァドスに設けられているレムリス侯爵家の邸宅に一羽の鷹が飛来した。その鷹の足元には手紙がくくりつけてありレムリス侯爵家の王都邸宅の執事長がその手紙を開いた。


「……まさか」


 手紙を読んだ執事長は顔を曇らせる。


「奥様はそこまでヴェルティオーネ様が憎いというのか……」


 執事長の声は苦々しい。手紙には毒竜ラステマにヴェルティオーネの抹殺依頼をするように書かれていたのだ。

 執事長は毒竜ラステマの危険性を知っており、その毒竜ラステマに関わる事は避けるべきであると考えているのだが命令である以上無視するわけにもいかない。


「仕方がない」


 執事長はそう呟くとすぐさま側に控える一人の若い執事に向けて言う。


「アーガスを呼びなさい」

「は、はい」


 執事長の命令に十四、五歳を思われる少年の執事は慌てて一礼する。執事長は仕事に対して厳しく若い執事達にとって緊張無しには応対できない相手なのだ。

 若い執事はすぐさま執事長の命令を遂行するために部屋を出て行った。執事長が命令を下して五分後、二十代半ばの執事が入ってきた。状況から考えれば彼がアーガスであることは間違いないだろう。


「お呼びと伺いましたが……何がございました?」


 入ってきたアーガスは一礼すると執事長に尋ねる。何かあったかとは聞かずに何があったと聞くところがこの男らしいと執事長は思わざるを得ない。


「うむ……これを読んでみなさい」

「はい」


 執事長から渡された手紙をアーガスは受け取るとそのまま目を通す。


「執事長……まさか毒竜ラステマに依頼を行うというのですか?」

「やむを得ません」

「は……」


 アーガスは執事長の顔に苦渋の感情が含まれている事を察すると静かに了承の言葉を発した。この段階で拒み、抗議を行ったところで執事長を苦しめるという事に他ならない。


「アーガス、あなたが毒竜ラステマにヴェルティオーネ様の殺害を依頼しなさい」

「……はい」


 アーガスは静かに返答する。アーガスは執事長に一礼するとクルリと背を向け部屋を出て行った。


 レムリス侯爵邸を出たアーガスは王都の大通りを歩いている。アーガスはそのまま一軒の酒場に入っていった。


「お客さん、まだ早いよ。夜にやってきてくれ」


 カウンターでグラスを磨いていた男がアーガスに向け言う。アーガスはそれには構わずズカズカとカウンターまで歩いて行く。男はアーガスの行動を訝しがりながらも追い出そうとはしなかった。


「『六本首は何を食べているのかな?』」


 アーガスの言葉に男は片眉を上げて返答する。


「『命あるものすべてだよ』」


 男の返答にアーガスは満足そうに頷くとさらに続ける。


「『六本首にエサをあげたい』」

「『彼らは好き嫌いはないから安心してくれ』」


 男の返答にアーガスは頷く。


「彼らはどこにいる?」

「それは言えない。俺がこれから連絡をとってから彼らが場所を指定する。それまで待ってくれ」

「了解だ。だができるだけ急ぐことを伝えてくれるとありがたい」

「わかったそれも伝えておく」


 男の返答を聞いたアーガスは頷く。


「それでは明日、この時間にいつ会うかを確認にくるから頼むぞ」

「ああ、その辺は安心してくれ」


 アーガスはその返答に満足すると店を出て行った。



 翌日、アーガスが時間通りに店に行くと昨日同様に男がグラスを磨いている。アーガスはカウンターまで近付くと男に向けて言った。


「『エサの内容を伝えに来た』」


 アーガスがそう言うと男はグラスを磨く手を止めてアーガスを見やると返答した。


「『六つの首が満足できるものなら良いな』」


 男はそう返答すると静かにアーガスの背後を指差した。アーガスは後ろを振り向くとそこには六人の男達が席に座っている事に気付いた。


(いつの間に……いや、何の気配もしなかった)


 アーガスは背中に冷たい汗を感じつつゴクリと喉をならした。


「こっちに来てくれ。話を聞こう」


 一人の男がアーガスに声をかけてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る