毒竜①
無事にアンジェリナを保護(というよりも同盟締結)したアディル達はそのまま、アルトとベアトリスの待つ宿屋へと向かうことになった。
その間に互いに自己紹介を行うと年齢がほとんど変わらないと言うことで自然と警護はなしという事に落ち着いたのは当然の流れであった。
「さぁてどうしてくれようかしら」
アンジェリナは所々で物騒な表現をしている。領軍に対してかなり思うところがあるのは確実であった。
「ねぇ、アンジェリナは家はどうするの?」
ヴェルがアンジェリナに尋ねる。
「もちろん家を出るわ。このレムリス領なんかに未練はないわ」
「そう」
「お父さん、お母さんの形見はきちんと持ってきてるし、財産もきちんと持ってきてるから大丈夫よ」
「……
「うん、兄さんも使えたでしょ? あれ私が兄さんに教えたのよ」
「なるほどね」
アンジェリナの言葉にヴェルは頷く。ヴェルが見た所、魔術師としてのアンジェリナはヴェルの魔術よりも数段上であった。
「ところでみんな今から言うことを良く聞いてくれ、出来るだけ自然を装って周囲を伺うような事をしないでくれ」
アディルが声の調子を変えることなくヴェル達に言う。
「どうしたの? まさか私達をつけている連中がいるってわけ?」
エリスは出来るだけ自然にアディルに返答する。
「ああ、俺達をつけている連中がいる。数は二人だな。気配を極限まで殺しているから中々気付かなかったけどな」
「どうするの?」
「さてどうしたもんかな。追跡者の正体を確かめることにするか……それとも早くアルト達と合流するか……」
アディルはそう言うと仲間達に意見を尋ねる。
「そうね……私は当初の予定通りにアルト君達と合流した方が良いと思うわ」
まずはエリスが意見を言う。こういう場合にエリスから意見を言うのがアマテラスの大まかな話の流れなのだ。
「私は追跡者を確認した方が良いと思うわ。もし私達をつけている連中が衛兵であった場合にアルト君達の正体がばれるのは避けたい所よ」
次いでヴェルが意見を言う。
「私はどちらでも問題無いと思うわ。私達を殺そうとしている暗殺者の場合はアルト君達と一緒にいるのがレムリス家への反撃とすれば一番効果的だし、もし衛兵であっても正体をバレないようにすれば何の問題もないわ」
「私はどちらかと言えば早く合流した方が良いと思うわ。衛兵の場合はアルト達の正体がバレても命に関わるような事はないわ。でも刺客だった場合はそうはいかないでしょ」
エスティル、アリスの意見を聞いて四人の視線はアディルへと注がれる。
「う~ん……とりあえずはアルト達と早く合流した方が良さそうだな。どっちみち襲ってもらわなきゃ次の一手が打てないからな」
アディルの言葉にヴェル達も頷く。反対意見を言ったヴェルもみんなの意見を聞いた結果、早く合流した方が良いと考えたのだ。アディル達、アマテラスの基本方針は意思決定の前に意見をぶつけるが、決定してからはグダグダ言わないというのが基本方針であった。そのため一度決まった事は新たな状況の変化がない限りはそのまま行くと言うのがアマテラスの方針なのである。
「ふ~ん、あなた達ってそうやって方針を決めてるんだ。意見を出し合って最終的にアディルが決定するというわけね。と言う事はアディルがリーダーというわけね」
アンジェリナの言葉にアディル達は首を傾げる。
「どうしたの?」
アディル達が首を傾げたことについてアンジェリナが不思議に思ったのだ。
「リーダーって俺なのか?」
「え~と……話し合った事ないわよね」
「うん……別にリーダーとか良いんじゃない?」
アリスの言葉にアディル達は結局の所自分達にリーダーの概念がなかった事に今更ながら気付く。
「そうだな。今のままで問題はないし、ケースバイケースで行く事にしようか」
「そうね。別にリーダーの必要性を感じないし必要な時は互いに指示を出せば良いんじゃない?」
アディル達の言葉にアンジェリナは呆れた様な表情を浮かべていた。
「あなた達ってそんなんで大丈夫なの?」
アンジェリナの言葉にエスティルがすさかず返答する。
「大丈夫よ。私達は全員がそれぞれ何をやるべきかわかってるから、場合によってはその場に応じて誰かが指示をだすわ」
「そんなものかしら?」
「そうよ。お互いに得意な事、不得意な事が分かってるんだから自然とそうなるわ。まぁ戦闘指示に対してはアディルが一番優れてるからアディルが指示を出すことが多いわね」
エスティルの返答にアンジェリナはアディルに視線を移す。その視線にアディルも頷く。
「ふ~ん、あなた達って変わってるわね。でもリーダーに全てを任せっきりだとリーダーがいない時に困るわね」
アンジェリナの言葉には納得の響きがある。
「まぁな。じゃあとりあえず合流しよう」
「うん」
アディル達はアルト達の宿泊している宿屋へ向かっていく。レムリス侯爵領に置かれている宿屋の中に王族の諜報機関である“ルーヌス”の宿泊施設があるという事を聞いていたのだ。
アディル達を追跡している二人の男がニヤリと嗤って嘲るような声をたてる。
「さて……いつやるかな」
「焦るなよ……楽しい、楽しい余興の準備中じゃないか」
「まぁな……」
アディル達を見る二人の視線は嗜虐に満ちていた。
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