第2話 ラノベみたいな幼馴染

 俺が神社の境内で年越しを、ほっと胸をなでおろしながら待っている数十分前。

 まぁ、つまりは、俺が神社に向かって、雨の中、濡れた道路を1人寂しく歩いている時だ。

 ズボンの左ポケットに入れていた携帯がぶるっと震えた。

 ゲームか何かの通知だろうと、何となく見た携帯の画面は、しかし、あるメッセージアプリの通知を知らせるものだった。

 宛名の欄には桐沢きりさわしずくと書かれている。


拓馬たくまー、あんたまた今年も稲荷さん行くつもり?』


 稲荷さんということからか、バカにしたようなキツネスタンプと共に、そんなメッセージが送られてきた。

 俺はそれを読むと、画面をスライドさせて、画面の下部に設置してあるメッセージアプリを開く。

 トーク履歴の一番上、桐沢雫という欄をタップして、返信をする。


『当たり前だ』


 俺の返信後、一秒も経たずに読んだという表示が、ふきだしの横についた。

 それからすぐ、雫から返信が届く。

 暇なのだろうか?


『もう諦めなよー。意味ないって」

『うるせぇ。俺は絶対に、来年こそは彼女をつくるんだよ』

『そんなこと言って、毎年ダメじゃんか』

『今まではちょっと運が悪かっただけだって。来年は絶対に、お前もびっくりするような可愛い彼女を紹介してやるって』

『ふーん。期待せずに待ってるね☆』


 雫から軽いノリの返信が返ってくる。

 なんだかイライラしてきたな。特に最後の☆。なんだよ、待ってるね☆って。そんなキャラじゃないくせに。

 この桐沢雫というのは、俺の幼馴染で、家は隣同士。生まれた時からずっと、高校生になった今まで、生まれた年、病院、そして学校まで一緒という、奇跡というか腐れ縁と言ってもいいぐらい、全てが一緒だった。

 雫ははっきり言ってモテる。中学生まではどちらかというと、可愛いというか、男の友達と一緒に遊んでいる方が似合っている印象だった。

 しかし、何を思ったのか中学最後の年、卒業を数か月後に控えたある日、短くしていた髪を『私、高校生になったら大人っぽくなるから』という謎宣言によって伸ばし始めたのだ。

 あと少しでその宣言から1年が経つ。

 今では、男と変わらないくらいの長さだった髪は、腰にまで届くぐらいに長くなっていた。

 さらに、男友達と一緒に遊ぶこともなくなり、容姿に磨きをかけているみたいで、男勝りだった雫は、誰もが振り向くクール美人へと変貌を遂げたのだ。

 そのかいあってか、雫は高校入学すぐに、色々な男子に告白を受けていたらしい。本人が自慢するように俺に言ってきた。

 中には、誰もが憧れるイケメンの先輩もいたようだが、そのイケメン含めて、雫は告白してきたすべての男子の言葉に首を縦に振らなかったという。

 そのため、高校に入って9か月にもかかわらず、今のところ彼氏の1人もいない。

 告白された回数は、軽く二桁を達成。その記録は今でも更新されているようで、クール美人は高校の高根の花へと、さらにその身分を上げていた。

 手に持ったままだった携帯がまた震え、画面の明かりが点く。

 雫からだ。


『そんなに彼女がほしいの?』

『ほしい。男子高校生だったら当然のことだろ』

『私にはよく分かんないな』


 それはそうだろう。

 雫は女だし、第一、モテモテの奴にモテない男の悩みなど分かるわけがないのだ。


『私がなってあげようか?』

『なにに』


 すると、間髪入れなかった雫の返信がここだけは少し、迷っているかのように時間がかかった。


『拓馬の彼女』


 短い雫の返信。

 俺はその返信に対して、少しだけ凝視した後、すぐに迷いないフリックで返信を打つ。


『勘弁してくれ』


 ただでさえ、雫と毎日のように一緒に帰っているのだ。

 俺がどれだけ好奇な眼差しで、周りから見られているのか分かっているのだろうか。

 小さいころからの友人は知っているが、高校で初めて出来た友達は、俺と雫が家が隣同士の幼馴染だということを知らない。雫に隠れた好意をよせていた男子からは睨まれ、仲のいい友達からはからかわれるという日々を、俺は高校に入ってからずっと送っていた。

 それで、本当に恋人になってみろ。俺は高校の男子、何十人もの反感をかうことになるだろう。

 それを考えただけでも、俺は鬱屈とした気分になる。


『うわー。この私を振るとかあんた何様よ』

『幼馴染様だ』


 そんな他愛もない、くだらないやり取りをしている間に、目的の神社が見えてきた。

 俺は雫の返信を待たずに、携帯をポケットにしまうと、少し駆け足で、多くの参拝客の並ぶ列の後ろに並んだ。

 崇高な願いをするために。

 

 

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